7音グンデルによる
Wayang Babad
I Made Subandi

 7音階グンデルワヤン演奏による初のCD。
バリ島人形芝居(Wayang Kulit)のための名曲と甘い音色のプレゴンガンとの融合。

This CD features the first ever release of music for seven-tone gender wayang, combining the virtuosity of music for Balinese shadow plays with the sweet, evocative tones of Balinese pelegongan music.

作曲家紹介:I Made Subandi(イ・マデ・スバンディ)
現在、最も活躍するバリ島出身作曲家の一人。古典から新作まで自由自在に操り、ガムラン講師・演奏家として世界各地で活躍している。インドネシア音楽高等学校(SMKI)教授のほか、独自の音楽舞踊グループも主宰。毎年行われるバリ芸術祭(PKB)において数々の賞を受賞し作曲依頼も多い。彼の音楽はバリ島の伝統のみならず、ジャワ、インド、南米、ヨーロッパの音楽的また文化的影響をも感じさせる。BaliRecords,Porter Records、CerakenRecordsよりCD発売中。

東京でもお馴染みのPeter Steeleさんからの情報です。
CD購入&有料ダウロードはこちらから。

大きなジャケットはこちらをClick

 1980年代にバリ島で再興されはじめた7音(pelog音階)のガムランは、5音pelogの代表的ガムランであるGong Kebyar全盛の中、徐々に進化を開始した。最初は古典的な7音のSemar Pegulinganの復興&リアレンジに始まり、その後7音の音階とGong Kebyarの機動性を兼ね備えたGong Semarandana。そしてSemar Pegulinganのもつ繊細な音色を発展させたGong Manikasantiと様々な様式のガムラン編成が創作されてきた。一方楽曲の方もそれに伴い古典楽曲の再構築にとどまらず様々な新作も誕生し続けている。バリの音楽が5音階を元にして作られるので7音のなかから基本的な数種類の5音調子を作ることが出来、5音の楽器に比べ音階的な変化を付けることが出来、音楽的には飛躍的にその幅が広がる。その反面演奏上はその時の調子で用いない鍵盤を飛ばして演奏する必要があるので、技術的には5音だけの楽器に比べはるかに難しくなってしまう。特にバリ島のガムランのように早いパッセージで組み合わせていく演奏技法ではかなりの熟練が必要となる。

 このCDは7音階2オクターブのグンデル4台を中心にBatelの様式の打楽器構成による新作のWayang楽曲集だ。バリの人形影絵芝居Wayang Kulitの伴奏では両手にパングルと呼ばれる撥(ばち)を持ち、右手でコテカン(番(つがい)リズム)、左手で旋律を演奏するというバリ島の打楽器の中でも特に技術的に難しい技法を要求される。その上この7音というさらに高い演奏技術を要求されるだけに、さすがのバリ島でもこのような演奏を行えるチームは数少ない。ある意味超オタクな音楽だ。

 収録されている楽曲は一般的なGender Wayang(5音slendro音階)の楽曲と演奏手法をベースにしながらも、7音のSemar Pegulingan的なモチーフなどを作曲家でもあるI Made Subandiが上手くアレンジして創作された楽曲だ。古典的な手法に新しい要素を取り入れながらも実にバリガムランらしい。ただ、最後の1曲だけは近年のバリガムランで盛んに行われている西洋現代音楽的なアイディアを盛り込んだバリの創作ガムラン曲となっている。

 ここ数年私もなかなかバリ島に足を運ぶ余裕がないのだが、最近のバリ島ではガムランに様々な電子楽器を合わせたり、西洋的現代音楽風の楽曲が盛んに作曲されているようだ。私は正直それらにはほとんど興味がないのだが、何処の音楽でも一時は通る実験と思えば納得が出来る。日本の伝統音楽にしても西洋クラシック音楽においても近代ではそのような歴史を一度は通過しているのだ。もちろんそれらの中には「名曲」となって残っていく音楽もあるであろう。が、このCDで収録されている楽曲にはそれらの片鱗は聞こえてくるものの、しっかりとした古典的バリガムランの音楽がベースになっていることが聞いていてある種の安心感を与えてくれる。

 録音は実に現代的で各楽器の演奏が明確に収録されていて、ガムラン屋にはとても重宝するバランスだ。欲を言えばもう少し中低域がふっくらしている方が個人的には好みだが、決して嫌みのある音質ではなく、自然に手が動き出しそうになる程クリアに収録されている。

 ちなみにこのCDを制作したPeter Steele君は何度も来日しているガムラン仲間でもある。彼が心血を注いで制作したCD。ダウンロードでも楽曲は十分に楽しめるが、是非CDでその空気感までじっくり味わって欲しい1枚だ。