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去る9月6&7日に開催された 江の島バリサンセット。6日の夕方、GSP Tokyo としての初舞台は同時にGSPの古いスマル・プグリンガンの日本での公式デビューでもあった。ゴング・クビヤール誕生前に造られたこの楽器は 鍵盤も小さく 繊細な音を持ち味にしているだけに、いきなり江の島のてっぺんの 広いオープンエアでの演奏は 古楽器にとって かなり不利な状況かと思われたが、ほぼフルセットでの本番は、楽器の特性を知ることが出来、今後の公演での楽器配置など 必要な情報が得られたことは大きな収穫といえる。
本番前日に台風が通り過ぎたばかりの江の島は 実に良い天気で、台風前の酷暑も一旦収まって とても気持ちの良い一日になってくれたのは良かったのだが、台風一過の吹き戻しの風が強く スリン吹きにはめちゃくちゃ過酷な環境になってしまった。もちろん踊り手にとっても衣装が風になびいてしまって さぞ大変だったことだろう。映像でもわかる通り、スリンが 場所や 吹く方向を移動させながら四苦八苦している様子は・・・。そのような悪条件でも 皆の持ち味が遺憾なく発揮され、初舞台は ほぼほぼ成功だったと思う。
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プドゥンガンのガンブーの曲をASTI(現ISI Bali)がスマル・プグリンガンに移植して、7音ガムランの復活のきっかけとなったアレンジのもの。今回はこの後の舞踊曲がプレゴンガン・ベースの演目ばかりだったので、あえてトロンポンは使用せず(単に持っていくのが面倒だったという話もあるが)にグンデル4台(当日バランガンの一人がコロナになってしまって3台体制となってしまった)でのアレンジ。曲の冒頭にはトロンポンによるギノマンではなく、グンデルによるプングラングランを加えたスタイルとした。7音ならではの楽器の味わいを少しでもお披露目したくこの曲を選択した。
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昨年(2024年)、GSPの演習場の上にあるベルサール汐留でインドネシア大使館主催の大阪万博キックオフイベントがあり、現在GSPの演奏の要のPutu Colax君と一緒に入場時のティンクリックを演奏する機会があった。そのパーティーには江の島サンセットの中心人物である長谷川亜美さんが藤沢市の副市長さんと一緒にいらしていて、地下二階のGSP練習場までわざわざ見にいらしてくださった。その頃はまだ極少人数のメンバーしかいなかったGSPだったので、まさかこんなに早く江の島バリサンセットで披露することになるとは思っていなかったのだが、来年6月のチャロナラン公演等の依頼もあったおかげでプロジェクトメンバーが集まり、今回の江の島での舞台が実現することとなった。
ガボールは言わずと知られた歓迎のための古典的な舞踊曲だが、プレゴンガンの特性を十二分に発揮できる曲でもあり今回のチョイスとなった。ごく一般的な演奏スタイルだが、踊りには長谷川亜美さんの優秀なお弟子さん二人(バスンダリ(BASUNDHARI)のユリアデウィさんと、鈴木静流さん)を選抜していただき、伴奏するGSPにとって大きなパワーとなってくれた。亜美さんには本当に感謝である。
踊っていただいた一人はバリの方とのハーフで17才だという。ガムランを通じてこういう出会いがあることは実に嬉しいものだ。今後日本でガムランがどのような展開をしていくのかを考えると実に楽しみである。
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来年6月に予定されている福島県三春町でのチャロナラン劇の公演に向けての1曲。
2015年に深川バロン倶楽部で1時間の短縮バージョンでチャロナラン劇を披露したことがあった。その時に全体リーダーだったコマン・バトゥアン(I Nyoman Sudarsana)君との「いずれスマル・プグリンガンでチャロナランをやりたいね!」という約束がそのままになってしまっていたのだが、昨年大学時代の同級生がアドバイザーをしている三春町のまほらホールから「昨年インド音楽の公演をやったので次はまこっちゃんのガムランやってよ」との依頼が舞い込んだ。これはチャンスとばかり無謀ながらも「チャロナラン劇」を提案してしまったのだった。
現在一時間半〜二時間のチャロナラン劇の上演に向けて準備中なのだが、チャロナランの曲の中で最も長いシシヤンはこの劇の華でもある。シシヤンは魔女ワルナテン・ディラの若い弟子たちのこと。ストーリーが始まる前に若い女性たち(8〜12名程)によってで踊られることもあって、男の子たち垂涎の演目という面も併せ持つ。今回は来年のチャロナラン劇でも舞踊の核として尽力いただく安田冴さんが、お弟子さんと二人でここまで仕上げてくださった。本来この舞踊は単独で演じることのない儀礼舞踊なのだが、せっかくの機会なので皆様にチャロナランの一部でも楽しんでいただければと演目に加えることとなった。これで来年がますます楽しみになってきた。
チャロナランのような古典芸能では村によって曲やスタイルがかなり異なるが、言うまでもなく私たちの演じるものはコマン君から伝えてもらった古いバトゥアン村スタイルのものである。
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来年のチャロナラン劇で核となっていただくもう一人の舞踊家の荒内琴江さん。来年のチャロナラン劇では大変に重要な役割を担うラルン(魔女ワルナテン・ディラの一番弟子)を演じていただく予定だ。ラルンは単なる舞踊ではないので今回の江の島ではお披露目できないのだが、今回はそんな彼女の十八番中の十八番でもあるJauk Manisを披露していただいた。
実は練習中に彼女とGSPメンバーの娘さんとおふざけで踊りの中で即興的にお絵かきしてみた(彼女のもう一つの得意技は美術家であること)のがとても面白く、今回の江の島でも「お絵描きタイム」を入れる事となったのだ。おかげでお客様にも大いに盛り上がっていただけたのは嬉しい限りである。来年のラルンでもさぞ予期せぬ面白いことが起こるのではないかと期待している。
曲と踊りについてはあえてここで説明する必要もないだろう。荒内琴江さんはこれまでにも様々なグループなどと一緒に演じているだけに、この踊りが生まれた当時のプレゴンガン(スマル・プグリンガン)でどれだけ表現できるかが今回のGSPにとっての課題だった。
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バリ島の伝統的なコメディー。チャロナランに限らず多くのガムラン劇の中でも「道化」は重要な出し物だ。日本の古典芸能でも「狂言」があるように、バリの芸能の中でも外せない演目の一つなのだ。
今回演じてもらうのがNova君とその相棒(Kadek Nova AriasaとI Kadek Aditia Jaya Perkasasa)。当日の舞台で初めて二人そろったこともあって、演じる私たちも本番がどうなるかは全くの未知数だった。今後GSPがガムラン劇を演じるためにもこういう「何が起こるかわからない」ことへの対応力は絶対に必要なスキルでもある。そんな状況でも公演最後を上手に締めくくってしまうところはボンドレスの真骨頂。こういうところもガムランの演奏の醍醐味の一つと言える。
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〈終わりに〉
GSP Tokyoはまだまだ産まれたばかりの団体だが、ガムランを通じてバリ島の文化を日本に伝えるのと同時に、ガムランを通じて日本文化を世界に広めて行ければと願っている。それだけガムランの持つポテンシャルが高いことは、世界中でガムランを実演している団体が多いことでも証明されている。日本人にしかできないガムランを目指して。
今回の江の島でのGSP初舞台のチャンスを作っていただいた長谷川亜美さんには心から感謝申し上げたい。
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