CD 高野山の声明
謂立論議 山王院月次問講

 いきなり「声明(しょうみょう)」と言われても難しそうに聞こえるが、真言宗の大本山である高野山で録音された声明シリーズの最新作だ。今回紹介する「謂立論議(いいだてろんぎ) 山王院月次問講(さんのういん つきなみもんこう)」は、高野山の伽藍の中にある山王院(ジャケットの写真)で毎月行われる問答の含まれる儀式を収録したもの。
 まあ難しい話はさておき、独特の声で唱えられ、また節の付いた声明はなんといっても日本の伝統声楽の原点とも言えるものだ。その独特の響きと節回しがその後の様々な歌や芸能に多大な影響を及ぼしている。今回のものはやや地味なものではあるが、高野山の有志によって近年結成された“SAMGHA(サンガ)”による初CDだ。
VZCG-640 定価¥3,150(税込)
 この企画は私の同僚の企画した声明企画としてこれまでにも高野山の真言声明はじめ比叡山での天台声明などを収録するいずれも秀作の揃った中での最新作である。いずれも現地で収録する為に機材とともに高野山に登り、たいていの場合寒さに耐えながらレコーディングしてきたものだ。これまで収録した場所も高野山伽藍の金堂や金剛峯寺の中など、いずれも暖房のあまり効かない場所で収録してきたためであるが、今回は幸いにも高野山大学の講堂が新しく完成し、非常に快適にレコーディング出来たことは幸いであった。勿論、本来の月次問講は写真の山王院で行われるので冬場はかなり寒いはずであるが、通常この「論議」は一般には公開されないものであるため、斯様な収録方法と相成ったわけだ。
 内容については是非CDを購入して解説をお読み頂くとして、私にとっては今回で4度目の高野山ということもあり、勝手知ったるとまでは行かないまでも、山内の様子も把握出来ているので以前に比べればだいぶ動きやすくなってきた。
 このCDとは直接関係はないが、毎回楽しみは何と言っても宿坊で出される素晴らしい精進料理である。高野山の中で宿泊する場合はいくつもある宿坊に宿泊することになるわけだが、今回の収録ではこの声明グループ“SAMGHA”のリーダーの運営する総持院という宿坊にご厄介になることとなった。この総持院、高野山の宿坊の中でもとりわけ高級?なお寺なようで、朝夕出される手の込んだ精進料理にはただただ圧倒されてしまう。おまけにこの御坊、かなりの酒豪のようで、収録後の夕餉に舌鼓を打っている最中へ酒瓶を担いで現れ、様々なお話しをお聞かせ頂けたのも今回の収穫?であった。
 いずれにしても、現代の生活の中で精進料理ほど贅沢な料理はないのではないだろうか。1品1品大変な手間と労力をかけて様々に工夫されて作られるわけで、どれを取っても早くても数時間、ものによっては何日も下ごしらえをしないと決して作ることが出来ない料理の数々が、幾つかの膳に惜しげもなく並べられる。高野山の澄んだ空気の中にたたずむ宿坊で、精進料理を肴に酒盛り三昧という贅沢なような罰当たりなような作業で完成されたのがこの1枚である。