図解雑学 宗教
(ナツメ社、2001年5月)


【この本の目指したもの】
大学の一般教育における宗教概説や宗教立の高校で宗教について広く教えるときに手助けになる本をと思って作りました。宗教の本質についての議論は厄介で、なかなか簡単には整理できません。
しかし、なぜ宗教はあるのだろうかという基本的な問題にしても、実情を知らずして議論しても、話が空回りするだけです。ですから、ごく基本的な事実を知っておくことも大切と思い、この企画に乗りました。
イラストが大変でしたが、どう表現するか、なかなか楽しくもありました。


帯から:
現代を考える上で重要なキーワードである宗教について、世界宗教や日本の諸宗教、現代宗教を取り上げ、その成り立ち、歴史、教え等の概要をやさしく解説しました。
目次から

第1章 宗教についての基礎知識
  宗教のとは何か/宗教の起源はいつか、何かは、いまだに謎/死の恐怖などの根源的不安が宗教には大きく関わる/・・・・・・
第2章 古代宗教の世界
  古代宗教とは/古代エジプトの宗教/ゾロアスター教/・・・・・・
第3章 仏教
  ブッダとは/ブッダの悟りの内容/五百羅漢と十大弟子/・・・・・・
第4章 キリスト教
  わずか2年余りの活動で世界を変えたイエス/ユダヤ人のイエスが新たに説いた教え/イエスの弟子たちの活動と治癒神アスクレピオス/・・・・・
第5章 イスラム教
  ムスリムが唯一絶対なる神と信じるアッラー/ムハンマドの生涯とウンマの形成/・・・・
第6章 南アジアの宗教
 ヴェーダの宗教/ヒンドゥー教の成立/シヴァ派とビシュヌ派/・・・・・・
第7章 中国の宗教
東アジアの倫理・道徳の源となった儒教/無為を重んじた老荘思想/陰陽説と易の思想/・・・・・
第8章 世界の新宗教
  19世紀以降、世界に興った新宗教運動/戸別訪問で知られるエホバの証人/モルモン教/・・・・
第9章 日本の伝統宗教
  日本人と宗教/日本神話の世界/神社の成立/・・・・・
第10章 近代日本の宗教
  近代神祇制度と神仏分離/明治の宗教行政と神道十三派/近代の仏教宗派/・・・・・
第11章 現代社会と宗教
  現代世界の宗教/現代のファンダメンタリズム/セクト、カルト/・・・・・


「はじめに」から
 多くの日本人は宗教についてあんまり深く考えたがらないし、自分とは関係ないと思っている人も少なくない。1990年代に新聞社などが行った多くの世論調査をみても、信仰をもつと答える人は2〜3割程度である。しかし、実際には、宗教は日常生活のいろいろな面に顔をのぞかせている。
初詣となれば、有名な神社やお寺に数多くの人が押し寄せ、家内安全、商売繁盛といった一年の無事や幸せを願う。あるいはおみくじを引いてその年の運勢を確かめたりする。お盆やお彼岸には、先祖の供養をし、墓参りをする。七五三には子供に晴れ着を着せて、神社で無事な成長の祈願をしてもらう。結婚式は、キリスト教式や神道式でする人が多い。葬儀にはたいてい僧侶を呼んで読経してもらう。
こうしたことを宗教的な行為とは思っていない人もいるかもしれない。だが、霊魂などまったく信じないのであれば、墓の前で手を合わすのは何のためであろうか。神など絶対いないと思うなら、神社で鈴を鳴らし、しばらくといえども手を合わせて祈願し、賽銭を投げ入れるであろうか。そこにはやはりなにがしかの宗教心なるものが働いているであろう。
ところが、現代の日本社会では宗教を信じているということが、必ずしも肯定的にとらえられない。信仰をもっていることを隠す人さえいる。それはもちろん理由があってのことである。宗教家への信頼度が落ちているし、宗教がらみの事件も少なくない。だが、世界には、イスラム圏に代表されるように、宗教抜きの社会生活が考えられない国々もある。約半数が毎週教会に通うアメリカのような国もある。そうした国々では、信仰をもたない人間の方がむしろ信用できないと考えられる。
現代日本で宗教家があまり尊敬されないとしても、昔からずっとそうだったわけではない。宗教のあり方は、どの国や地域においても、時代や社会によって大きく変化し、多様な姿をみせてきたのである。おそらく宗教は、人類の文化の誕生とともに、その素朴な姿を見せたであろう。そして社会の展開にともなって、宗教もまた複雑な教えや儀礼、あるいは組織というものを生み出した。
世界にはこれまで数知れないほど多くの宗教が、生まれては消えていった。しかし、歴史の風雪に耐えた宗教もある。そして、仏教、キリスト教、イスラム教という世界宗教をはじめとして、特定の地域において、人々と特別深い関わりを築きあげた宗教もある。
その結果、世界には「宗教文化圏」とでも呼ぶべきものが、互いに入り組みながらも、いくつかできあがった。ヨーロッパや南北アメリカは、キリスト教文化圏である。中東を中心として東西にイスラム文化圏が広がる。南アジア・東南アジアは、基本的にヒンドゥー教・仏教文化圏が支配的である。東アジアには儒教・道教・大乗仏教が深くからみあった中国宗教文化圏が広がる。日本は大雑把にいえば中国宗教文化圏に属すことになる
むろん、これらはきわめておおまかな区分であって、実際にはどの地域にも数多くの宗教がひしめきあっている。現代世界には、新宗教その他の新しい宗教が次々と生まれているし、近代以降は、宗教の組織や活動形態がどんどん複雑になってきた。とはいえ、それぞれの宗教文化圏には、独特の宗教的な特徴が感じられるのも事実である。
 たとえば、ユヤダ教、キリスト教、イスラム教は一神教の宗教であるが、東アジアなどでは多神教が主流であり、その特徴はなかなか変わらない。また東アジアでは、複数の宗教が混ざり合って信仰されるのがごく一般的である。日本でもそうだが、神も仏もいっしょに信仰するようなやり方は、専門用語でシンクレティズム(重層信仰)と呼ばれる。
調べれば調べるほど、宗教は複雑な顔をもつことが分かってくる。簡単に理解できるようなものではない。それでも、宗教による文化の違いをおおまかにでもつかみ、地域ごとの特色や歴史のあらましを知るだけで、異なる文化の人たちとのつきあいが、ぐっと興味深いものになるはずである。宗教の知識を深めることは意外に面白い、と感じてもらえばと願っている。


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