『グローバル化と民族文化』

目次

序章.グローバル化と向かいあう民族文化(井上順孝)
[第一部]
シンポジウム開催にあたって(阿部美哉)
ヨーロッパにおける文化のアイデンティティ(磯村尚徳)
日中韓の文化原型と未来の展望(金容雲)
激動する東南アジアの宗教情勢―国際化時代のタイの民族宗教(小野澤正喜)
情報化とマルチメディア―バーチャル・リアリティの未来(西垣通)
[第2部]
情報化時代と宗教のグローバル化(井上順孝)
台湾の民族言語と文化の維持―社会言語学的見地からの考察(曹逢甫)
グローバル文化とマレー人へのその影響―家族とコミュニティ(周福堂)
グローバル化における民族文化のボーダーレス化への提言―全体の統合と部分の尊重(レスリー・バウゾン)
グローバル化とアジアの民族文化(小野澤正喜)
アジア・セッション討議 グローバル化のパラドックス―画一化と差異化(笹尾典代)
[第3部]
現代ヨーロッパの宗教―グローバル化理論の妥当性?(リリアン・ボワイエ)
グローバル化への挑戦としてのヨーロッパの多言語的伝統(ジャンヌ・パイフェール)
ヨーロッパにおけるグローバル化・家族・共同体(オリヴィエ・ドルフュス)
「グローバル・トライアド」―普遍と個別の綱引きをめぐって(ローランド・ロバートソン)
グローバル化の明と暗(西垣通)
ヨーロッパ・セッション討議 グローバル化の二重性と地域的差異(樫尾直樹)


【あとがきから】
本書は国学院大学日本文化研究所創立40周年記念事業の一環として、平成8(1996)年1月10〜12日の3日間にわたって開催された国際シンポジウム「グローバル化と民族文化」をもとに編集されたものである。このシンポジウムに関連するテーマのもとに、平成七年度に開催された二つの公開学術講演も合わせて収録してある。なお、国際シンポジウムの様子は同年2月10日、NHK衛星放送第一で一時間にわたり放映された。
日本文化研究所は昭和30(1955)年秋に創立され、これまで宗教学、神道学、民俗学、歴史学、国語学、国文学、法制史など、日本文化にかかわるさまざまな研究を行ってきた。とくに総合プロジェクトというシステムによって、事典、論文目録等の編集・刊行、基礎文献の翻刻など、研究所ならではの研究成果を数多く生み出してきた。最近では5年余をかけて編集・刊行した『神道事典』(弘文堂、平成6年)がもっとも大がかりな総合プロジェクトの成果である。
 平成7年度が研究所創立40周年にあたるため、その記念事業として3つの事業が計画され、その1つがこの国際シンポジウムの開催であった。日本の伝統文化を研究すると同時に、国際交流を力を入れてきた研究所にとって、「グローバル化と民族文化」というテーマは、最近の世界の変化の底流にあるものを探る上で、まことに適切なテーマであったと言えよう。
 研究所のプロジェクトメンバーが相談を重ねたのち、国学院大学以外の方々にも協力を依頼することとし、国際シンポジウムの組織委員会は次のような構成となった。(敬称略。肩書は開催当時)
 井上順孝(組織委員長・国学院大学教授)
 上田賢治(国学院大学学長)
 阿部美哉(国学院大学日本文化研究所所長)
 磯村尚徳(国学院大学教授)
 三角哲生(ユネスコ・アジア文化センター理事長)
 Olivier Ansart(元日仏会館館長)
 Norman Havens(国学院大学講師)
 笹尾典代(筑波大学助手・国学院大学兼任講師)
 樫尾直樹(東京外国語大学助手・国学院大学兼任講師)
 蒲池廉一郎(国学院大学日本文化研究所事務長)
下山信桂(国学院大学国際交流課長)
 約1年にわたる準備ののち、シンポジウムが開催された。会議にあてるのは三日間ということになり、その日程は次のとおりであった。
・公開講演(1月10日)
 磯村尚徳氏「ヨーロッパにおける文化のアイデンティティ」
 金容雲氏「日中韓の文化原型と未来の展望」
・シンポジウム
 @アジア・セッション(1月11日)
 司会 阿部美哉氏
 発題
  井上順孝氏「情報化時代と宗教のグローバル化」
  曹逢甫氏「戦後台湾における言語と情報文化」
  周福堂氏「マレーの家族と共同体におけるグローバル化の衝撃」
 コメンテーター
  Leslie E. Bauzon氏
  小野沢正喜氏
 Aヨーロッパ・セッション(1月12日)
 司会 千葉 弘氏
 発題
  Lilian Voye氏「現代ヨーロッパの宗教ーグローバル化理論の妥当性」
  Jeanne Peiffer氏「グローバル化への挑戦としてのヨーロッパにおける多言語の伝統」
  Olivier Dollfus氏「ヨーロッパにおけるグローバル化ー家族、コミュニケーション」
 コメンテーター
  Roland Robertson氏
  西垣通氏
 まず最初に行われた公開講演はシンポジウムの基調講演となるもので、東京渋谷にある国学院大学百周年記念館講堂において行われた。四百人近い聴衆が熱心に耳を傾けた。翌日からのシンポジウムは、会場を港区六本木の国際文化会館に移して行われた。こちらは研究者を中心に約70名が参加して、2日間びっしりとつまったスケジュールであった。会議ではさまざまな意見が飛び交ったが、同時通訳付きで行われた議論を忠実に再現するのは困難であるので、編集スタッフの責任でまとめ直した。また、ドルフュス氏は直前に体調を崩され来日が不可能になったため、磯村氏が代読という形でヨーロッパ・セッションは進行した。
 ところで、日本文化研究所では春秋に公開学術講演会を開催するのを恒例としている。平成7年度の講演会は国際シンポジウムに連動させて、グルーバル化と民族文化というテーマにかかわりのある次の2つの講演が行われた。
 小野澤正喜氏「激動する東南アジアの宗教情勢ー国際化時代のタイの民族宗教」
 西垣通氏「情報化とマルチメディアーバーチャル・リアリティの未来」
 この講演内容は本書の第1部に収録してある。大変興味深い議論がなされており、基調講演とともに、シンポジウムに対する貴重な問題提起となった。いずれも国学院大学百周年記念館3階の視聴覚教室で行われ、百人を越す聴衆が集まった。
 
 1月の公開講演会およびシンポジウム当日は、研究所スタッフ全員の協力によって、つつがなく、またきわめて意義深い会議として進行することができた。こうした企画の意義を認め、財政面、その他において全面的に支援していただいた国学院大学当局の理解なくしては、この企画は実現しなかったことは言うまでもない。テレビ放映にあたっては、通訳その他でNHKの衛星放送関係者に便宜を図っていただき、番組収録にあたっては、株式会社メイスンのスタッフの方々にご苦労いただいた。さらに会議後、外国からの招待者に対しての見学旅行に際しては、明治神宮と明治記念館の方々に大変丁重なおもてなしを受けた。また国立歴史民俗学博物館の関係者には館内を丁寧にご案内いただいた。これらの方々にこの場をお借りして篤く感謝の言葉を申し述べさせていただきたい。
 シンポジウムの報告書は英文も同時に刊行されるが、日本語版である本書の編集に当たっては、とくに樫尾直樹、笹尾典代両氏にご苦労いただいた。また、どちらかと言えば地味な本書の刊行に関し、その意義を認めていただき、快く出版を引き受けていただいた新書館の方々にもお礼を申し上げたい。
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