『宗教学を学ぶ』
井上順孝・月本昭男・星野英紀編、有斐閣、1996年、1,900円。
この本の使い方
この本は、宗教学の教科書として編集されました。第1部が理論的な紹介で、宗教学に関連する基本的な学説や研究視点の紹介がなされています。
第2部は、具体的な宗教の紹介です。理論ばかりではピンとこないので、宗教の歴史的展開や今日のありかたの両方に接しながら、宗教というものの奥行きを感じてもらいたいという趣旨で書かれています。
【目次】
序章.宗教へのアプローチ(井上順孝)
第T部.現代宗教学の基礎
第T部へのイントロダクション(星野英紀)
第1章.宗教学の歩み(星野英紀)
第2章.社会の変化と宗教(岩井洋)
第3章.宗教心理と宗教思想―現代宗教における「悪」について(島薗進)
第4章.社会構造・文化形成と宗教(樫尾直樹)
第5章.宗教的表象の解読―ヘルメスの例を中心に(松村一男)
第6章.宗教現象のフィールドワーク(池上良正)
第U部.宗教の歴史と現代宗教
第U部へのイントロダクション(月本昭男)
第7章.オリエント宗教の展開(月本昭男)
第8章.インド宗教の展開(宮元啓一)
第9章.イスラームの時代(鎌田繁)
第10章.東アジアの中国宗教(第1、2節、池澤優、第3節、吉原和男)
第11章.熱帯アフリカと中南米の宗教(竹沢尚一郎)
第12章.現代世界の宗教(弓山達也)
第13章.日本の伝統宗教(林淳)
第14章.現代日本の宗教(井上順孝)
【はしがきから】
現代日本において、宗教はともすれば否定的にとらえられがちになってきている。宗教と政治の関わり、宗教のビジネス化、強引な布教など、一部の宗教団体の活動に対して、社会的批判がしばしばなされる。オウム真理教事件は、そうした宗教へのマイナスイメージを一挙に増幅した感がある。
しかしながら、人間と宗教の関わりは長い歴史をもち、あらゆる社会でその多様な展開を観察できる。たんに好き嫌いの次元では片づけられない深いつながりがそこにはある。そうした宗教を研究する方法や視点というものも、一筋縄ではいかない。一見単純に見える儀礼や教え、日々の活動形態の中に、実は幾重にも積み重ねられた人間の営みが隠されているからである。
国際化、さらにグローバル化と呼ばれる現象が日々深まりをみせ、人と人の交流が格段に盛んとなり、多様な文化が交錯する時代となれば、当然のことながら、人間相互の理解は以前より複雑なプロセスになる。自分は宗教を信じていないから、宗教のことは知らないではすまされなくなりつつある。自分の文化についての認識を深めるとともに、他の文化を受け入れる態度を形成しようとすれば、宗教について考える視点を今少し幅広いものにしなければいけない。
本書はそうした意図のもとに、宗教や宗教学に関心をもつ学生、さらに一般の読者を想定して編集されたものである。これまでの研究の蓄積を紹介し、宗教現象に近づくためのいくつかの基本的な見取り図を示すと同時に、現在の宗教学が格闘している問題についても触れた。宗教学の第一線で活躍中の執筆者から、それぞれの個性あふれる原稿を頂戴した。まだまだ論及せねばならないテーマが背後に控えているが、宗教学の入門書としては、ほぼその役目を果たす内容になったのではないかと考えている。
最後に、この企画の実現にあたり終始ご尽力いただいた有斐閣編集部の伊藤真介氏に篤く感謝の言葉を申し述べたい。
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