熊本日日新聞編『オウム真理教とムラの論理』 葦書房  

 オウム真理教が、熊本県阿蘇郡波野村に、道場を建設したことで起こった「事件」と取組んだ、熊本日日新聞社の一連の取材が、一冊の本としてまとめられたものである。題から推測されるように、新興の宗教運動がもつ論理と、ムラの論理とが、対比されながら描かれている。報道関係者が新宗教を扱った書としては、かなり慎重に作られたものといえる。

 事件の経過を追いながら、村民へのインタビューがなされているが、決して強固な反対派にだけ。焦点を当ててはいない。それぞれの立場の人間の微妙な心理の差も追っている。一方、オウム真理教の信者や、教祖の麻原彰晃への

取材もなされているが、こちらもできるだけ主観的判断を抑え、現状を感じたまま伝えようという配慮が感じられる。かつて信者であったが、今は運動を批判的に見ている人や、脱退したばかりの人にも接している。また、「被害者の会」のメンバーを含めて、信者の親たちの声も紹介されており、若者信者の論理と親の論理という対比も、興味深いものがある。

 当事者のみならず、宗教学者など、いろいろな立場の人びとの見解も、参考意見として収録してある。できるだけ客観的に問題をとらえたいという姿勢が見えて、好感がもてる。国土利用計画法違反容疑による熊本県警の強制捜査についても、いろいろな視点から扱っている。ただ、取材班による、全体的な結論は、はっきりとした形では出されていない。「事件」そのものが、まだ終りとは言えないからでもあるが、それだけではない。結論を出すことよりは、事件を語り、問題を投げかけることのほうに、重点が置かれているからであろう。

 小さな宗教運動に対する大きな社会的反響。さらに、研究者などの各様の解釈。いささかでも社会常識に挑戦する新宗教運動に対して、現代日本人がどのように反応するかの縮図が、本書から見えてくる。考えさせるところのある書である。

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