雨月の使者
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行かなくちゃ、
行かなくちゃ、
ちぎれ雲より
早く飛び

 雨のそぼ降る秋の宵、雲のすきまから、満月が皓々と影をおとす。

 妹の存在は、ロマンティシズムにあふれている。それが、三日かぎりのかけがえのない妹であるならば、なおさらだろう。
 妹への愛情は、妹から愛されるときのくすぐったい感覚と谺きあう。だから、妹が身を賭した犠牲に、谺となって応えなければ。
 トンネルのむこうへスカーフを飛ばし、妹は幻の駅へと誘った。麦わら帽子に、生きたあかしのすべてを残し。だから、兄もスカーフを飛ばすのだ、生きた妹のしるしをさしだす、雨月の使者となって。

 『雨月の使者』は、当初、唐十郎脚本、三枝健起演出による実験的なテレビドラマとして制作され、1987年11月21日NHK総合テレビで2時間半にわたり放送された。最愛の妹の出現と喪失という感傷的なテーマを感覚的映像美でつづり、高い評価を得る。
 主演の少年役に杉本哲太、仮の妹役に横山めぐみ。この年の春、フジテレビ『北の国から'87初恋』で吉岡秀隆演ずる主人公・純の初恋の少女れいに抜擢されたばかりの新人・横山は、この作品の好演で若手清純派女優の道を歩み出す。
 唐自ら作詞を手がけた主題歌は、中島みゆきの作曲・唄により放送された。ながらくレコード化されていなかったが、1993年10月に中島が発表したアルバム「時代-Timegoes around-」にようやく収録された。

 本書は、10年を経て、「大人にも子どもにも通用するひそひそ話」としてあらためて執筆された童話である。主人公の兄妹たちの年齢が小学生に引き下げられているものの、全体のストーリーはもちろん、細部のエピソードもドラマ版と大きく異なってはいない。
 上田秋成『雨月物語』の一篇「蛇性の婬」に着想を得、待ち伏せする少女の側に焦点を合わせた、ロマンティックで幻想的な異端の雨月。合田佐和子の挿絵が、ドラマ同様に、めくるめく感覚世界をもえたたせる。

雨月の使者/唐十郎/エー・ジー出版/1996

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