マルチリードとは
                

 マルチリードとは、複数のリード楽器を扱うことを言います。マルチリード・プレイヤーとは何種類かのリード楽器を扱う演奏者を指します。そして、フルートなどもリード楽器に含まれることが普通です。

 どういった理由かはわかりませんが、昔からビッグバンドなどのサックスプレーヤーはクラリネットやフルートを持ち替え楽器としてやってきました。そこで一般的には、他の楽器が演奏できるサックスプレイヤーをマルチリード・プレイヤーと呼んでいますが、これは正確ではありません。サックスやクラリネットなどは1枚のリードを使うので(実際にはマウスピースにリードをつける)シングルリードと呼ばれます。これに対し、ファゴットやオーボエは2枚のリードを上下に組み合わせて使うのでダブルリードと呼ばれます。フルートなど笛系、シングルリード系、ダブルリード系などいわゆる木管楽器、英語で言うwoodwinds全般を扱う演奏者をマルチリード・プレーヤーというのが正しい認識でしょう。

 スペシャリストが要求される今日では、持ち替え楽器が多いということが素晴らしいというわけではありませんが、ミュージカルなど舞台の仕事ではユーティリティープレーヤーとしてマルチリード・プレイヤーは欠かせない存在です。多くの場合、サックスプレイヤーのパートにはフルートやクラリネットへの持ち替えが書いてありますが、アメリカのオリジナルミュージカルなどには、完全なマルチリード・プレーヤーを想定した持ち替えを指定する譜面もあります。「クレイジーフォーユー」などはダブルリードを含んだ持ち替えを要求しています(バリトンサックスからバスクラリネット、そしてファゴットへの持ち替えなど)。また、ヘンリー・マンシーニのオーケストラのサックスセクションは、全員で総数27の楽器を扱うマルチリードプレーヤーの集まりだったといわれています。もちろん、そのような状況はあまり普通ではありませんが、様々な音色のヴァリエーションを提供できたことは確かでしょう。
 
 どの程度、習熟すれば楽器ができる(吹ける)というのかは難しい問題ですが、現在のところ日本ではダブルリードを含んだマルチリード・プレーヤーといえる人はあまりいないようです。個人的な意見ですが、サックスプレーヤーが他の楽器を始めるというのはあまり効率が良くないように思えます。というのは、木管楽器で1番扱いやすいのはおそらくサックスだからです。他の木管楽器をやっている方が新たに持ち替え楽器としてサックスを選ぶという方がマルチリードへの近道のような気がします。
 ですが、クラシック・サックスの教則本として有名な、ラリー・ティール氏の書いた著書にも、持ち替えについての記述があるくらいなので(ダブリング、ダブラーというように表現されています)、持ち替えはサックス・プレイヤーの義務と思ってあきらめた方がいいのかもしれません。

 このようにいろいろと役に立つマルチリードですが、残念ながらこれらの楽器に共通する点は、実際それほど多くはないのです。わずかな形状の類似、何気なく似ている運指、これら以外は全く違う楽器といって構いません。他の楽器を買い揃え、維持するという金銭的な問題もあるでしょう。「マルチリードになるには人生は短すぎる」といった人はいないようですが、大変なことなのです。ある楽器の練習が、ある楽器にはあまり良くないことだったりすることもあるようですし、やはり大変な時間と労力がかかる仕事なのです。


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