2001年11月22日、入管法改定案が衆議院本会議で可決され、成立しました。私たちは日本各地で移住労働者・家族の支援に取り組んでいるNGO、労働組
合、移住労働者の当事者グループのネットワーク組織です。まず、今回も重大な人権
侵害が生じる恐れがあるにも関わらず、十分な法改定の必要性なども検討することなく、入管法の改定に踏み切った行政府、特に、法務省入国管理局に抗議をすると同時
に、大きな人権侵害が生じる恐れがあることが分かっていながら、十分な審議をする
こともなしに、法改定を承認した立法府に対しても、遺憾といわざるをえません。私
たちは日頃から、移住労働者とのかかわりの中で、入管行政に関する人権侵害の相談
を当事者から受けています。89年、97年、99年そして今年の入管法改定と、管理を厳しくする一方で、いつになったら、移住労働者の人権を真摯に考えていただけるのでしょうか。入管行政による人権侵害を真摯に受け止め、人権の保障から入管行政の見直しを要請します。特に下記の事項に関し、懸念を表明します。
1、政治弾圧の強化につながる上陸拒否措置の盛り込み
フーリガン対策と称して、政治弾圧を目的とする上陸拒否、退去強制事由の整備法改定により、日本国内で開催される国際競技会、国際会議に際し、暴動等を加える
恐れがある者を上陸拒否にするという予防的措置が可能とされました。また、市民団
体や労働組合への弾圧を目的とした外国籍市民の退去強制も可能とされました。衆参
法務委員会の審議の中で、法務省は建前上はフーリガン対策といいながら、その対象
者がどれぐらいいるのかすら把握しておらず、法改定の十分な必要性すらも提示でき
ませんでした。この改定の裏側には、外国籍市民は危険である、危険分子は排除しよ
うという、根拠のない思想が伺えます。この、政治弾圧の強化へつながる改定に強い
懸念を表明いたします。
2、外国籍市民との共生を拒否した退去強制事由の整備
この改定により、執行猶予付の有罪判決を受けた者や在留資格の申請等に関する不正
行為をおこなった者は刑事手続き無しの退去強制が可能とされました。この改定は今
までの改定とは全く、性質が異なります。正規の在留資格を持っている者を、例え
ば、万引き程度の極めて、軽微な罪を犯しただけでも、退去強制することが可能で
す。法務省は、運用上では、刑事手続きを先行させる、在留特別許可という救済措置
があると主張していますが、法の運用ですましてしまうほど、外国籍市民の人権は軽
いものではありません。また、在留特別許可にはそのような者が救済される等の具体
的な基準は示されておらず、救済措置の保証とはいえません。この改定により、軽犯
罪でも退去強制されるという外国籍市民は恐怖と向きあわされました。政府の外国籍
市民との共生を拒否した改定に強い懸念を表明いたします。
3、入国審査官および特別審理官による事実の調査権限の付与に関して
今回の改定により、入国審査官および特別審理官に対し、事実の調査権限が与えられ
ました。以前より、入国警備官には調査権限が与えられたいましたが、こういった事
実の調査の範囲、必要性の判断、調査にあたっての手順、人権侵害が生じた時の対処
などに関するマニュアルはないとされています。入管がが弾圧を目的とした日本籍お
よび外国籍市民、市民団体、労働組合などの調査を行うことすら可能であります。付
帯決議では「人権擁護の観点に十分配慮し、慎重に行うこと」と掲げられましたが、
それが十分に保証されていないことに強い懸念を表明いたします。
4、難民の受け入れ−特にアフガニスタン人難民申請者への処遇に関して
今回の入管法改定案の審議にあたり、10月3日に東京入国管理局によって、収容さ
れたアフガニスタン難民申請者の問題をはじめとし、日本における難民の受け入れ体
制および認定システムの不備が大きく取り上げられました。特に、在パキスタン日本
大使館が帰国する保証のある人にしか、査証を発給しないという事実上、難民申請を
目的としたアフガニスタン人に対しては、査証を発給しないという運用が判明し、そ
の結果、査証の発給件数が激減している実態が衆議院法務委員会(2001年11月2日)
および毎日新聞の報道(2001年11月22日朝刊)中で、明らかになりました。日本における難民の受け入れ体制および認定システムの不備に関し、懸念を表明いたします。
以下の事項を行政府、特に法務省入国管理局、そして、立法府に対し強く求めていき
ます。
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1、人権の観点からの法の改定も含め、入管行政の見直しを3年以内に行うこと。
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2、見直しを行うために、特別委員会を国会に設置し、外国籍市民、市民団体、労働
組合、弁護士団体などの関係機関の意見を十分に聞きながら行うこと。
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3、今回の法改定にあたり、付帯決議にも掲げられている、難民認定申請システムの改善を立法府として、責任を果たすために、同時に検討をすること。
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4、入国審査官、特別審理官および入国警備官の事実の調査に関し、調査の範囲や必
要性、手順、および人権侵害が生じた時の対処手段を明らかにするために、手続きに
関するマニュアルを作成し、公開すること。
以 上
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