難民申請中の人に対する収容は行われてはならない。
国際連合難民高等弁務官事務所(UNHCR)執行委員会の結論第44の「難民申請者の拘禁」、さらに1997年7月付「庇護希望者の拘禁に関してのUNHCRガイドライン」等が採用する見解に従い、当協会は難民申請を行っている人の収容は原則として行われてはならないと考えています。日本での難民申請中の者の収容は1997年以降、実務上ほとんど行われなくなっており、この実態は‘98年以降の難民認定数の増大とあわせて、ここ数年における日本の難民認定手続改善の大きなポイントであると、関係者の間で評価されていたところであります。難民申請中の者は収容されないという実務上の運用によって、申請者は精神的にも比較的安定し、かつ十分な立証活動の機会を事実上保障することとなってきました。したがって、難民申請中のアフガニスタン人が一斉に収容されたという今回の出来事は、近年の難民認定制度の改善に大きく逆行する流れであるといわざるを得ません。 さらに、難民が故郷を去る際には着のみ、着のままの状態で逃れることもあることも稀ではなく、また、本国の現政権からのパスポート発給等を拒絶されることから、正規のパスポートやビザをを所持しない状態で避難国へ到着して保護を求めることは往々にしてあります。そのような特殊性に鑑み、難民については非正規な入国という事実をもって処罰されてはならないという考えが広く受け入れられているところです。これは日本も1981年に加入している難民条約第31条にも定められているところであります。
特定の国籍を対象とした難民申請者の取締りは行われてはならない。 報道されたところ及び当協会の把握するとことによれば、日本政府によって10月3日、アフガニスタンからの難民申請者が一斉に摘発を受けました。10月3日に一斉摘発・収容された難民申請者は、そのほとんど全てがアフガニスタン国籍の(あるいは同国籍であることを主張する)者です。難民申請は個々の事情を勘案し、保護の必要性を判断する手続です。それを国籍が共通していることのみを理由として一斉に摘発することは難民申請手続における適正手続の原則を著しく欠いていると言わざるをえません。
難民認定手続を通して把握した情報を摘発の目的に流用してはならない。 前記9人全員は、日本政府に対して難民として認定されることを求めて申請をしています。つまり、危険の待ち受ける祖国へ送り返されないよう自ら日本政府へ名乗り出て保護を求めているのです。難民認定申請書に住所等を記入させ、またその後の難民認定手続における事情聴取の中でその個人情報を取得し、その取得した情報に基づいて10月3日に日本政府は彼らの自宅に行き、身柄を拘束しました。政府における難民申請を判断するためだけに用いられるべき個人情報が、その人を摘発し、収容するために流用されたのではないかと、難民支援協会は懸念しています。 難民申請者への深刻な影響 アフガニスタン人難民申請者の摘発に対して、アフガニスタン人難民申請者のみならず、他国からの難民申請者の間でも強い動揺が広がっています。特にアフガニスタン人難民申請者に関しては、そのほとんどが9月11日以前に日本で難民の申請を行い、アフガニスタン情勢を伝える報道が増えていく中でアフガニスタン難民への保護の必要性の議論が大きくなり、保護必要性の議論が高まってきた矢先での同国人の収容であり、ようやく保護が現実化してきたという期待が大きかった分、その失望は計り知れないほど大きく、次は自分かもしれないという恐怖が大きく広がっています。また、その他の出身国の難民申請者、また難民申請希望者にも、自分も収容され、迫害の待ち受ける祖国に送り返されるのではないか、という恐怖を抱いている人が増えています。このことは本来、故郷に送り返されないために難民申請を行なうはずの手続が、難民申請の抑止になりかねず、歪な手続へと導くことになりかねない問題です。このままでは官民を含めた関係者の努力によってこれまで改善を続けたきた日本の難民認定制度を著しく後退させかねない、と難民支援協会は懸念しています。 [注釈]
※2:難民保護のための国際会議
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