国連難民高等弁務官事務所
 

9月11日事件の余波の中での
難民保護に関する十項目の懸念事項

 米国同時多発テロ事件以降、アフガンを始めとする中東地域出身の難民たちに対する圧迫が世界中で強まっています。東京入国管理局によるアフガン少数民族難民申請者9名の強制収容は、その中でも大きなものの一つです。
 このような難民への圧迫に対して、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)が10月23日、声明を発表し、強い懸念を表明しました。
 この声明は、特定の国における事例を挙げて問題化するといったものではなく、難民や庇護希望者 asylum-seekers に対する、不当な処分の類型をいくつか挙げた上で、そのような処分を行わないように各国に要請する内容ですが、ここで指摘されているいくつかの類型は、日本の難民政策にもあてはまるものであり、UNHCRのガイドラインにそった政策転換が必要です。

 

 UNHCR NEWS  2001年10月23日
9月11日事件の余波の中での
難民保護に関する十項目の懸念事項

 世界は、9月11日のアメリカへの恐るべきテロ攻撃によって変容し、この地球上の何百万もの人々に深刻な影響を与えている。この事件の反動は、この先長年にわたって続くことだろう。
 国連難民高等弁務官(UNHCR)は、世界の最も無防備で傷つきやすい人々を保護し、支援することを使命とする機関として、9月11日の事件が国際的保護と支援を必要としている人々に対して与えた影響に関して、特別の懸念を抱いている。
 UNHCRは、例えば難民 refugees や庇護希望者 asylum seekers を「犯罪者」と受け止める一般的傾向が高まったり、難民とテロの間に確証なしに関連性をもたらそうとする過剰な試みがなされたりすることに懸念を抱いている。庇護希望者たちは、9月11日の悲劇的事件が起こる以前でさえも、数多くの国で、例えば庇護申請手続きへのアクセスをえることや、申請の際に彼らの民族的出自や受け入れ国への入国の手段などといった理由により、彼らの申請の有効性が疑問に付され、それを克服しなければならないといった、増大しつつある困難な障害に直面していたのである。
 UNHCRはまた、何カ国かの政府が、テロリストが庇護権を利用してその国家の領域へ入ってくることを阻むことを目的に、更なる保安措置を発動させようとしていることを察知している。これは理解できることであり、UNHCRはテロを根絶し、効率的にテロと闘うという目的のためにあらゆる努力―多国間、国家的なものを問わず―を惜しまないことを保障する。実際にUNHCRはこれらの見直しを行う国家の「よりよい実践」と名付けられるであろうものに注目している。

 ここで生じる疑問とは、「各国の政府が発動可能な安全保障に基づく保安措置とは何か」というものであり、これは本質的には妥当なものである。しかし私たちはその問いが正確に回答され、いかなる新規の保護措置も、今危機にさらされていると言ってよい難民保護原則との間に適切な均衡が取られているか確認しなければならない。UNHCRはこれらの見直しに関し、各国の政府と共に取り組んでいく心構えである。

 より多くの政府がそのような見直しを行うことによって生じるUNHCRの最大の懸念には以下の二つの側面がある。
・第一に、真正な庇護希望者が一般の人々の偏見や、不当なまでに制限的な法律や行
政措置の犠牲となること。
・第二に、これまで慎重に形成されてきた難民保護の規準が衰退してしまうこと。

 安全保障上の保安措置発動に関する論争は、難民自身が迫害やテロを含む暴力から逃れてきた人々であり、彼ら自身がそのような行動を犯した加害者ではないという前提によって始められなければならない。

 また1951年の難民条約は、安全な避難所をテロリストに供給することや、彼等の身柄を犯罪者としての起訴から守ることを目的としているのでは決してないということを、各国が理解することも非常に重要である。

 以上より、世界各国の政府が9月11日の事件を受けて、テロとの闘いのために更なる保安上の手続を検討する中で、UNHCRは庇護希望者と難民に直接的影響を及ぼす恐れがあり起こりうる状況に関しての十項目の懸念を作成した。

1.人種主義と外国人排斥
 UNHCRは庇護希望者や難民を犯罪やテロと結びつける非常によくありがちな傾向を深刻に懸念している。そのように両者に根拠のない関連性をもたせることは、人種主義や外国人排斥を扇動し、保護に関する深刻な懸念を引き起こす。庇護と、テロリストに安全な避難所を供給することとを同一視することは、法的に誤りであり、事実関係においても証明されていないだけではない。それは多くの人々の心の中で難民を卑しめ、特定の民族や宗教に属する人々が差別や憎しみによる嫌がらせに晒されることになる。

2.入国と難民認定へのアクセス
 すべての人は庇護を申請し、個別的に難民認定をうける権利を有する。入国拒否は送還(refoulement:ルフールマン)、すなわち人々を危険へと送り返すことに帰結する。これは難民に関する国際的な法的義務に反する。UNHCRは、宗教、人種、国家、政治的意見を理由に、何らかの形でテロに関わっていると推測されるある特定の集団や個人に対して難民認定手続へのアクセスを拒否することや、国境における入国拒否さえ可能にする法律が立法化されることを懸念する。1951年の難民条約には既に、特に重罪を犯した人々を排除する「除外条項」が存在している。加えてそれは国家の保安上の脅威となる人々の「送還」の禁止を解除している。もし1951年の難民条約を適切に運用したならば、テロ攻撃に責任のある人々は庇護から排除されるであろうし、また、それは彼・彼女等の身元を割り出したり、起訴を行う上でも役に立つであろう。端的に言えば、1951年の難民条約は、保護されるべきでない人間に対してまで保護を拡大するものではない。

3.除外
 UNHCRは、各国の政府が機械的に、あるいは不適切に、宗教、人種、国籍、政治意見を理由に、個別の庇護希望者をテロリストではないかと推測し、除外条項やその他の評価基準を庇護希望者個人に適用することを懸念している。真の難民たちはテロや迫害による被害の当事者であり、加害者ではない。UNHCRは、1951年の難民条約などの国際的難民条約に含まれる除外条項を厳密に適用することが適切な場合には、各国政府に対して、そうした処分を行うことを各国政府に奨励する。だが、いかなる除外条項の適応も入手可能な証拠に基づき、公正さと正義という基本的な基準に従って、個別的に査定されなければならない。そしてその査定は総体としての難民認定手続の一部でなければならない。

4.庇護希望者の処遇
 UNHCRは各国政府が庇護希望者を全件収容する手段に訴えたり、適性手続の規準を満たさない手続を設置したりする傾向があるのではないかと懸念している。UNHCRの長年にわたる立場は庇護希望者の収容は例外的な措置であって、原則ではないというものである。収容は、テロとの関連を示す確固たる証拠がある場合を含む、個々の事例をとりまく状況がそれを正当化する場合に限って許される。しかし、収容は常に適性手続の原則に則ったものでなくてはならない。同様に、テロリストである疑いが持たれる者の難民認定申請を審査する場合であっても、その者は最低限の適正手続きの基準を満たし、そこに資格や知識がある審査官が立会い、再審議の可能性を含んでいなければならない。

5.難民認定の取消
 UNHCRは、各国が宗教、人種、国籍、政治的意見を理由に、テロリストかもしれないという仮定のもとに、個人の難民認定を取消す傾向があるのではないかということを懸念している。難民認定の取消の原則は、虚偽の証拠もしくは事実の誤認がその決定の核となっていた場合のみに適用される。難民の民族や出自それ自体は、難民の地位を拒否したり取消したりすることの根拠にはならない。考慮されるべきものは事実なのである。

6.送還
 UNHCRは、各国政府が宗教、人種、国籍、政治的意見によってテロリストの恐れがあるとの推定のもとに、集団あるいは個人を送還する傾向があるのではないかと懸念している。1951年の難民条約は、国の安全や公の秩序を理由とする個人単位の難民の国外追放を認めているが、そのような処置は法が定める適性手続のもとで決定が導き出された時に限ってなされるべきである。また、難民に送還するという側の主張に対して異議を唱える機会を与えることも含まれる。

7.引き渡し
 UNHCRは各国政府が宗教、人種、国籍、政治的意見によってテロリストではないかと推定される集団もしくは個人を引き渡すことを性急に受け入れる傾向があるのではないかと懸念している。引き渡しとは、合法的で適切な訴訟手続きを経た決定によってのみ認められるものであり、それが起訴ではなく迫害のためにその国へ送還するために要求されていないのだということが明らかにされた時に限って行われるものである、というのがUNHCRの立場である。

8.再定住
 第三国への定住は、難民に対する3つの永続性のある解決策のうちの1つである。(残りの2つは出身国への帰還と一次庇護国への統合)UNHCRは各国がいま特にある特定の民族集団や国籍所有者に対しての定住プログラムを期待される水準にまで保持していない傾向があるのではないかと懸念している。UNHCRが知る限りでは再定住は回避できない緊急な問題であり続けている。これは例えば女性が多大なる危険に晒されているアフガニスタンなどの地からの難民など、傷つきやすい弱い難民に対して特に当てはまることである。

9.国連安全保障理事会決議1373号
 国連安全保障理事会決議1373号が2001年9月28日に採択された。とりわけこの決議は、各国にテロ行為の防止と鎮圧のために緊急に協調体制をとることと、新たに国内で方策を講じることによってそのような国際協力を補完することを求めた。決議1373号は、適切に解釈され実施されたならば、国際難民法と調和する。だが反テロリズムのための施策の必要性を擁護することが真正な庇護希望者及び難民の基本的人権を否定しないことを保障するために、その実施には十分な注意が払わなければならない。

10.テロリズムに対抗する包括的条約草案
 UNHCRはテロリズムに対抗する包括的条約の進展と迅速な採択を歓迎する。だが、それは庇護希望者/難民とテロリストとの間の根拠の無い関連性に法律上の効力を付与するようなものであってはならない。かつ、その条約が1951年の難民条約がテロリストを難民認可から排除するためには不十分であることや、それが何らかの形でテロリストに安全な避難場所を提供することを意味するかのように起草されてはならない。

 



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