シェイダさん在留権裁判、東京高裁が再び不当判決
焦点は第3国出国の可否へ

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            判決新聞報道>

初歩的な事実誤認に基づく最悪の判決
〜シェイダさん在留権裁判 第2審判決の解説〜

 屈辱の第1審判決から1年足らず、第2審の判決の日がめぐってきました。
 1月20日午後3時、東京高等裁判所第809号法廷。ここで、3つの訴訟の判決が同時に言い渡されました。最初は離婚裁判。次が、企業に対する損害賠償請求裁判。そして、最後がシェイダさんの訴訟。新しく着任した裁判長は、前の裁判長が書いた3つの判決の3つの主文を、合計1分足らずで読み上げました。全く異なった3つの裁判。しかし、判決の主文はすべて同じでした……「本件控訴を棄却する。訴訟費用は控訴人の負担とする。」
 残念な判決でした。しかし、その内容はもっと残念なものでした。
 第2審では、シェイダさんをマンデート難民として認定したUNHCRが、独自にシェイダさんのサポートに動きました。シェイダさん側は、UNHCRが発行した「シェイダさんが、『1951年の難民の地位に関する条約』および『1967年の難民の地位に関する議定書』に基づく難民であることを証明する」という証明書を証拠資料として法廷に提出しました。また、夏には、UNHCRが東京弁護士会の求めに応じて作成した、シェイダさんの難民としての地位に関する法的意見を法廷に提出しました。そこには様々なことが書いてありました。しかし、少なくともこのことは明らかになったはずだったのです:UNHCRは、シェイダさんを「条約難民」(つまり、上記の難民条約及び難民議定書に基づく難民)として認定したのだということは。
 ところが、判決には、次のように記されていました。すなわち、UNHCRは条約難民の他に国内避難民なども保護することになっており、UNHCRの難民認定は条約に基づくものとは限らない。だから、シェイダさんがUNHCRの難民認定を受けたからといって、それは条約難民として難民認定されたのかどうかわからない。そうである以上、日本政府も難民認定しなければならないというものではない。
 もう一つの理由は、シェイダさん側がUNHCRに出した証拠や文書と法務省に対して出した証拠や文書とが異なっていたかも知れず、もしそうなら、判断が異なっていてもおかしくない。ということで、いずれにせよ、UNHCRがなんと言おうが、法務省の判断に違法性はなく、高裁としては第1審判決を支持する。
 判決の要点はこれだけで、本文はわずか2枚しかありませんでした。
 UNHCRがシェイダさんを条約難民として認定していることは、証拠資料を少し見るだけで一目瞭然なはずです。彼らは、証拠資料を見なかったのか。それとも、証拠資料は見たけれど、そこに書いてある内容は黙殺して、法務省がいう通り一遍の理屈を引用して判決を作ってしまえばそれでよい、と思ったのか。結局、判決を受けた側は、その判決に反論できる機会があるわけでもなく、最高裁は一つ一つの事案にきっちりつきあうわけでもない。高等裁判所はいわば絶対権力です。絶対権力の砦の上で、何の緊張感もなく書かれ、言い渡される判決。2審の闘いの中で、日本の司法権力にいささかなりとも期待した私たちが愚かだったのかも知れません。
 もちろん、シェイダさん側は上告します。しかし、事実上、舞台は法廷ではなく、一つは、シェイダさんが第3国に出国できるかどうか、もう一つは、入管がシェイダさんに収容・送還攻撃を加えてくるかどうかに移ります。私たちは第3国出国の実現に全力を挙げ、シェイダさんが安全に第3国に脱出するのを見届けたいと心から願っています。

 

亡国の難民訴訟敗訴判決を嗤う
〜難民の排除・拒絶政策の末に来るものは何か〜

チームS・シェイダさん救援グループ
法務担当 稲場 雅紀
(本声明はチームS全体の見解を代表するものではありません。)

 本日(2005年1月20日)、イラン人同性愛者難民シェイダさんの在留権裁判控訴審において、東京高等裁判所は、シェイダさんの在留権を認めず、シェイダさんの退去強制処分を妥当とする判決を言い渡した。
 これは、日本国家によるシェイダさんへの3度目の拒絶の意思表示である。
 シェイダさんはまず、2000年7月に、難民不認定処分と退去強制令書発付処分を受けた。これが一度目の拒絶である。その後、国連難民高等弁務官事務所は、シェイダさんを難民条約上の難民とする判断を下している。にもかかわらず、2004年2月、東京地方裁判所はシェイダさんに敗訴判決を下した。これが二度目の拒絶である。そして本日、東京高等裁判所は、シェイダさんの控訴を棄却した。これが三度目の拒絶である。
 シェイダさんも、支援するわれわれも、もはやこう言うしかない。ここまで拒絶されたら、もう嗤うより他に手がないと。
 日本国家に、シェイダさんを拒絶する理由はない。日本は難民条約に加盟し、これを批准している。日本国家には、難民条約に規定する5つの理由(人種、宗教、国籍、特定の社会的集団の構成員であること、政治的意見)により十分に理由のある迫害の恐れを有するが故に、本国以外の土地におり、本国の庇護を受けることができず、もしくは庇護を受けることを望まない者を難民として受け入れる義務がある。イランでは、同性愛者に対する死刑を含む迫害が続いている。それを理由として、欧米諸国、ニュージーランド、オーストラリアでは、イラン人ゲイを難民認定する決定や判決が継続して出されている。難民条約は国連の条約であり、この条約に基づいて設置されている国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は、彼を難民条約上の難民として認定しているのである。
日本国家の、シェイダさんに対する拒絶には、何の道理もない。ちなみに日本政府は、難民や外国人移住労働者に対して、道理なき拒絶と排除をますます苛烈に行っている。ビルマ人の難民申請者は、収容所からの仮放免にあたって「就労禁止」の条件を付けられ、それに違反した廉で再収容された。ベトナム人とペルー人の「超過滞在者」は、全身を拘束具で縛られ、実力で飛行機の中に押し込まれた。そして18日、クルド人の難民(UNHCRが難民条約上の難民として認定している以上、れっきとした難民である)2名が、収容後わずか1日にして、彼らの「国籍国」であるトルコ共和国へ暴力によって強制送還されるに至ったのである。これが国際法上最大の原則の一つである「ノン・ルフールマン原則」(迫害される可能性のある国に強制送還しないという原則)に違反していることは、誰が見ても明らかである。さらに法務省は、日本国に難民申請を行うわずか500人に満たない外国人の6割が「在留資格が切れた後に難民申請」している、この連中は難民制度を悪用しようとする意図を持っている、などとして、マスコミを使ったキャンペーンを仕掛けようとしている。これ以上稚拙なキャンペーンはない。それならば、法務省が難民認定した難民のほとんどが、「在留資格が切れた後」に難民申請した人たちであるのはなぜなのか。難民を、外国人を拒絶し排除しようというわが法務省官僚の欲望には際限がない。
 問題は単に人道や人権にのみ存在するのではない。われわれが例えば「日本人」という視点に位置どる時、そこから見えてくる最大の問題は、彼ら=法務省=の難民、外国人を拒絶しようとするこの欲望が、道理を持たないどころか、日本国の国益という観念に照らしても不条理なものにすぎないということにある。日本は2年後の2007年から、人口減少時代に突入する。地球人口が百億近くにまで増大し、中国とインドが欧州並みの経済力を持って君臨することが予測されている時代に、日本の人口は2050年には1億人を切り、2100年には6000万人へと半減すると予測される。この予測を前にしてなお、日本はこれに対して正面から取り組む前向きの改革ビジョンを立案形成して前に足を踏み出すことに躊躇し、「外国人犯罪の増大」、「テロリストの潜入」といった、実のところ自己の内なる恐怖に由来する幻影との闘いに、自らを耽溺させているのである。幻影への恐怖にとらわれた内向きの昏い力を、迫害から逃れ、翼をむしり取られた難民たちに向けて行使する……難民への拒絶と排除とは、国家が直面する真の課題に正面から取り組む力を喪失し、「幻影との闘い」に沈潜する悲しむべき日本国家の姿、国の力の弱りを象徴するものに他ならない。
 いささか大げさかも知れないが、誤解を恐れず、われわれはここにあえて言おう、れっきとした難民であるシェイダさんを拒絶し、日本から排除しようとするこの判決は、人口減少時代におけるわが日本の亡国への歩みを一歩進めるものであると。われわれに、それを押しとどめる力がない以上、われわれはその歩みを「他者の歩み」として見立て、それを嗤うしかない。結局、ふたたびの光へと向かう道は、いったんの亡国への歩みの果てにしか見えてこないのだ。

 

第2審判決の新聞報道(朝日新聞2005年1月21日朝刊)

  シェイダさん敗訴判決に関して、朝日新聞が1月21日朝刊第2社会面において大きく取り扱っています。記事自体は短いものですが、配置は割と目立つところで見出しも大きかったです。また、UNHCRがマンデート難民と認めたと言うことで、シェイダさんを「難民申請者」ではなく「難民」と表記しているのは、適切な記述というべきでしょう。

■UNHCR認定の難民イラン人 退去処分を支持 東京高裁■

 国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)が難民(マンデート難民)と認めたイラン人の40歳代の男性が、「同性愛者なので母国に送還されると死刑になる恐れがある」として、国を相手に退去強制処分の取り消しなどを求めた訴訟の控訴審判決が20日、東京高裁であった。村上敬一裁判長は請求を棄却した一審・東京地裁判決を支持し、男性の控訴を棄却した。
 マンデート難民は、UNHCRが難民条約上の難民にあたると判断した人。
 高裁判決は「UNHCRは、難民条約で定義された条件が満たされていなくても、保護が必要な『援助対象者』を独自に難民と認めている」と指摘。「難民かどうかの判断が、条約加盟国との間で分かれることは十分にあり、UNHCRの判断は加盟国を拘束しない」と述べた。
 そのうえで、男性について「帰国すれば刑に処せられる恐れがあるという根拠は認められない」とした一審判断を支持した。男性の代理人の弁護士は上告する方針だ。
 男性は91年に来日。00年に難民認定申請を退けられ、退去強制処分を受けた。01年にマンデート難民に認定された。



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