*

港では細い魚を釣った
僕たちは子供と短パンで歩き回った
あの植物を探しに
蛍の繁殖する小川を渡った
篭に入れた魚たちはみんな剃刀になっていて
指先やこめかみを傷めた
墓や死んだ貝のいる浜
浜おもとの点々と生えるその浜の
藤壷で僕は足を深く切った
弓状にしなる釣竿
ほとんど頭だけの
ぶよぶよの
海底に棲息する魚は
海の尻から下痢のように浜に上がってきた
僕らは海亀の夢をもう漏らさない
夢は浜の花火にみんなまぎれてしまった
僕らの不安の盃に盛られる魚醤は
しつこい味がする

海亀のはるかに広がった夢
有機体の紐や藻の雲に覆われた夢
僕らはそれを刈る
刈る
ただ一刻の夏の温度のために
刈る
そのようにしてバス発着所の惨劇は終わった



*

悪が高原の花畠に結びつくことは
よくある
徹底的な歯車のずれを
焼けるのもかまわずに
ぐるぐる回すことは
沼気を発散させるが
もう観念だけのことでないことは
ありありとわかる
悪は一挙に花畠に堕ちる
それはしおれた毒草の
貧弱な群落だった
一茎の苦い粉末だった
妖精の森は消えろ



*

ガラス細工を僕らは見てまわる
深い湖に晒されて
僕らの髪の毛は黄色に逆立っていた
湖畔の喫茶店の窓から
もう一人の僕が歩いているのを
確かに見た
そして
僕らは毒草だけを集めた植物園に入る
マグロを吊り下げて
腐ったにおいでいっぱいの温室に入る
毒を持つ菌が日に干からびている
展翅版に僕は一枚の光を留める
それは平面をじわじわと広がり
湿気は硫酸のように僕の頬を侵そうとした
アルカロイドの強い波が植物から出て
肌が揺れている
僕はピストルをゆっくりと胸ポケットから出し
人間の頭に似た毒の果実を撃った
それは軟体動物の破れるようなしぶきをあげて
温室のガラスに幾重にも筋をつけた



*

蝋燭を灯す
蛾は火に飛び込んでただれて落ちる
焼けた蛾を皿に盛り
フォークを動かす
その食事は複雑な計算をくぐり抜けている
鱗粉は塩あじ
そこに大ウナギの輪切りがワゴンで持ち込まれる
浮世絵の細長い女の顔と
病者の群像
そして昆虫の変態
プログラムは聖なる複雑さで
そこここに
火を灯す
フォークの金属の響きが
山を変幻させる核の現象になるとは
気がつかない
食堂は高速度で過疎地帯に向かっているのだ



*

馬の肋骨が
横に伸びている
馬の胴体をトンネルのようにして
列車が尻から頭のほうに
走っている
陳列棚に朝日が照らし
時計が蒸発していた
その時計を吊るす銀の鎖が
部屋の隅で光り
馬の首はゆっくりと
そちらに動く
胴体では高速で列車が走っている
両側の耳のそばでは
水時計の血管が青く
足に向かって下り
やがて床にまで
毛細血管が
広がっていった



*

壊れるボーダーラインで
少年は躯に穴を開けるのに夢中だ
耳たぶや乳首
鼻翼に金色の粒をつけるために
重金属の音楽が鳴っている
少年の一季節で
いっさいの傷がさなぎ化する時がくる
唐突に彼は職探しを始める
貨幣を貯めて旅するために
夜の集積を綴じる
やがて彼は港町の
古本屋の片隅で老いている
人体像のコレクションを
売りつづけるうちに
透明な画像の粉末が
毎朝彼の掌で一粒ずつ気化し
丸い眼鏡をかけて半ズボンをはいた採集者が
捕虫網で
スッスッと追いかけながら
それを捕えようとしている



*

イカは知っている
そのときイカはこちらを見ていた
瞬きのすきに
動物はいなくなった
あの夏の浜は斜めに傾いでいた
重く茂る桜の木は
もうもうとした熱い霧を
浴びている
ソファベッドが
音速で岬を迂回し
弧を描くのが
イカの網膜に
青く滲む


Copyright (C) 1995 Shimizu Rinzo ■エキスパンドブック版「毒草」

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