そんな雪に閉ざされた深い深い森の中に、老朽化してはいるが、城といってもおかしくはない立派な館が建っていた。
そして、その日はめずらしく小春日和といってもいい程に暖かかった。
年の頃は20才そこそこか、一人の若い女性が、館に向かって歩いている。
「もう、なんて世界なの・・・雪、雪、雪・・何処を見回しても雪だらけだわ」
こんな世界には場違いの服装、それでいて顔立ちにはどこか気品があり、見方によっては亡国の姫でも通じる美しさがある。
「う〜ん、たしかにここね」
若い美しい娘にありがちなちょっと高慢な態度、何かを確かめる様に、それでいて無造作に扉に手をかけた。
「クククッ、よく来たね」
年の頃は、どうひいき目に見ても50は過ぎている、頭以外はすっぽりと黒い布に覆われた初老の魔女がいつもの様に答えるのだった。
「久しぶりね!、お姉さん、何十年振りかしらここに来るのは・・・」
「な・なんじゃ、お前は」
「はぁ!?シニー姉さん、私を忘れたの? レイよ レ・イ! 実の妹を忘れたなんて、そんな事は言わないわよね!」
「れい?、れ・・レイって、えぇ〜〜〜〜と、あのレイかい!?」
「あのも、そのも、私以外にどんなレイがいるっていうの?」
「本当に、本物の・・、私をだましたりしたらただじゃおかないよ!!・・・・いや、でも、確かに面影がある・・本当にレイなのかい?!」
「何度いったらわかるの、レ・イっていったらレイよ私は!、あれからたかだか100年くらいじゃないの、もう忘れてしまったの?」
「たかだか100年といっても、あのころのお前は、まだまだ子供で・・・」
「・・本当にレイなんじゃな・・・、よくぞ生きておったな・・・、母上にしろお前にしろ全然連絡をよこさぬから、わしはてっきり・・・。」
ここ百年程、物を見る事にすらあまり使われていない彼女の目から、光り輝くものがこぼれ落ちた。
「かあさん?、母さんは元気よ、たぶんだけどね。何年前だかは忘れちゃったけど手紙が来たわ」
「レイ、大きくなった・・・、見違える様に美しくなって、若い頃のわしにも似ているが・・・、今年でいくつになった?」
「えーと、142才かな?!、普通の人間でいえばお年頃ってとこかしら?あのね、私、今日からここに住むからよろしくね!」
「そうか142になるか・・・?、えっなんだって、ここで暮らす?」
「そう、もう決めたんだから、いいでしょ?私だってここで生まれたのよ、住む権利はあるわ!」
「いや、別に権利がどうこういっておるのではないんじゃが・・」
「それならば問題はないわね!、えーと私の昔の部屋は・・・っと、あったここ!ここ!!ここ私の部屋ね、えーと入口にはこれをぶら下げてっと」
「おいおい、レイ...、まったく久しぶりにあったん・・・ん!、何をぶら下げたんじゃ?・・・「レイの水晶球占い」!?なんじゃお前、ここで占いをやる気か!」
「そうよ、だってお姉ちゃんが最近とっても忙しいって聞いたから、助けにきたのよ、感謝してね!」
「・・・・・・・」
静かだったこの館に、一陣の騒がしい風(!?)が吹き込んだ。