アリスはとても退屈していました。絵も会話もない本を読んでいるお姉さんの隣で。すると「大変だ、大変だ、遅れちゃう！」と言いながら目の前を駆けていく白うさぎ。アリスはハッとして起き上がりました。だって、その白うさぎはチョッキを着てポケットから懐中時計を取り出していたのですから！　アリスは全速力で走り出し、白うさぎの後を追って穴の中へ飛び込んでしまいます。穴の中をゆっくりゆっくりと落ちていき、こうしてアリスの不思議の国の冒険が始まるのでした。

誰もが知っている『不思議の国のアリス』。でも、実は読んだことがない、という人も多くいるようです。けれどみんなだいたいのストーリーは知っているんです。それだけ世の中に浸透し、いまもなお世界中の人々を魅了し続けている「アリス」の物語ですが、最初はたったひとりの女の子のために書かれたお話だったのです。

ある初夏の午下がり、チャールズ・ドジソン（ルイス・キャロルの本名）が三人の少女たちにせがまれて、ボートを漕ぎながら即興で語ったお話。その後、物語の主人公だったアリスの頼みで、イラストをつけて絵本として完成させます。それが『地下の国のアリス』です。
少女アリスのために書かれた『地下の国のアリス』を見た、友人でもあり児童文学作家であるジョージ・マクドナルドやオックスフォード大学の同僚は、この本の出版を強く勧めました。最初は乗り気ではなかったキャロルでしたが、マクドナルドの息子グレヴィルの「こういうお話なら6万巻でも読みたいよ」という言葉に出版を決意します。文章を加筆し、挿絵はすでに著名だった風刺画家ジョン・テニエルに依頼しました。
こうして『地下の国のアリス』は『不思議の国のアリス』として1865年、マクミラン社から出版されたのでした。