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DRUG QUEEN ALICE - ACID SOUND and ALICE
 ハジメニ
 『不思議の国のアリス』や『鏡の国のアリス』の物語の中で起こる不思議な現象を、ドラッグによる幻覚ととらえる人たちがいる。
たとえば、「DRINK ME」の瓶の中の液体を飲み、「EAT ME」のケーキを食べて背が伸縮するアリスのこと。マッシュルームの上で水タバコを吸っているイモムシのこと。そしてそのマッシュルームの、やはり伸縮作用があること。鏡がもやのように溶けて通り抜けられてしまうこと――。
 そして、チェシャ猫の言う「ココに住んでいるものはみんなキチガイだ、わたしも、あんたもね。」の狂った世界観をたとえて、サイケなファンタジーとらえる人たちもいる。

 ルイス・キャロルがドラッグ中毒だったなんて信じている人がいるらしいけれど、「アリス」の物語は幻覚から生まれたなんて本気で思っているんだろうか。『不思議の国のアリス』はボート遊びの最中に3人の少女たちに即興で語ったお話が元になっている。仮にキャロルが常用者だとして、なんでシラフの時にコドモ相手に幻覚の話を挿入しなきゃなんないのか。即興ではなく緻密に考え抜かれて書かれた『鏡の国のアリス』も相当へんてこなお話だけど、アリスは何も口に入れないしカラダも伸び縮みしない。夢の中ではカラダが浮いたり、あり得ないことが当たり前のように起こったりするでしょう? そんな夢を見るあなたもドラッグ中毒者ですか? わたしはおかしな夢をよく見るけれど、薬なんかやってません。ということもあって、ハジメニ断っておきたいのが、「アリス」の物語はドラッグ・ファンタジーではナイのよ、ということ。
 が、キャロル云々を切り離したところでならドラッグ・カルチャーは否定しない。どころか、好き。確かにアリスの世界はドラッグによる幻覚と響きあう要素を持っていると思う。そして、そこにインスパイアされて自身の活動の中に取り入れたその結果にはすごく興味がある。特に、音楽や映像。“ドラッグで見えた世界がキャロルのつくったアリスみたいだった”と“キャロルがドラッグをキメてつくった世界がアリスになった”では、ぜーんぜん違う! この違いは大きい。アリスが穴に落ちながら考えた「猫はコウモリを食べるか?」と「コウモリは猫を食べるか?」とか、マッド・ティーパーティでの「わたしは食べるものを見る」と「わたしは見るものを食べる」がおかしいように。それぞれ前者はアリとしても、後者にはならない。作っている人はそれを理解して作っている。と、私は思っている。

 そんなこんなで音集めしているうちにアリスに関連したレコードの中で、ドラッグと関わりが深いといわれているもの、ドラッグとは直接関係ないけれどなんだか狂った世界だな〜というものも含めて、楽しいから調べてみようという気になったのでした。音楽は好きだけどジャンルは偏っているし、まだまだ勉強不足の未完成ということで今後も加筆・訂正ガシガシやるつもりです。
 ちなみに、“Drug Queen Alice”はドラッグ(Drug)と女王アリス(Queen Alice)からたまたま連想したドラァグ・クイーン(Drag Queen)という言葉の響きで遊んでみただけで特に深い意味はないです。
Line
 サイケデリックなアリス?
 1960年代中期から、ヒッピーとかフラワー・チルドレンと呼ばれる若者たちが台頭する。彼らは髪や髭を伸ばし、ジーンズに極彩色というけばけばファッションに身を包み、既成の価値観からの脱却と解放、独自の価値観で自由に生きることを目指した。“愛と平和”をスローガンに掲げた彼らの運動は、音楽・文学・映像…とあらゆる芸術方面に影響を及ぼしていく。と、書くとものすごーくかっこいい(実際かっこいいなぁと思うし)が、いわゆるコミューン(共同体)をつくりドラッグをキメてフリーセックスをする、という夢見がちで逃避願望の強い若者文化であるともいえる。
 なにはともあれ、60年代後期、サイケデリック・ブームの到来だ。
 LSD、マリファナ、マッシュなどのドラッグを愛した彼らから、その幻覚を追体験するかのようなロックが生まれた。サイケデリック・ミュージックの誕生。当時のサイケデリック・ミュージックの代表格といえば、ジェファーソン・エアプレイン、グレイトフル・デッド、ジャニス・ジョプリン、ジミ・ヘンドリックス、ザ・バーズなどなど。ザ・ビートルズももちろん外せない。
 彼らが残した曲や作品の中には、アリスの世界をイメージしたものがある。ジェファーソン「ホワイト・ラビット」(アルバム『シュールリアリスティック・ピロー』収録)やビートルズ「ルーシー・イン・ザ・スカイ・ウィズ・ダイアモンズ」(アルバム『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』収録)などは有名で、サイケ色も強ければアリス色も強い。どこがどうアリスなのかは、次項でそれぞれ紹介します。

 ところで、サイケとアリスの関係は?
 まずは、サイケの説明を。サイケデリック(psychedelic)とは、幻覚剤を飲んだときに起こる幻覚状態のことをいう。愛用されていた幻覚剤として、LSD、マリファナ、マジック・マッシュルームあたりが挙げられると思う。
 “LSD”とは、リゼルグ酸ジエチルアミド(lysergic acid diethylamide)の略称。錠剤か紙にLSD溶液を染み込ませたものが一般的だが、もちろん違法だから手を出しちゃダメですよ。
 さて、LSDをキメるとどんな幻覚が見えるのか。人それぞれなんだが、よく言われるのは「音が見える」とか「色が鮮明、色が聞こえる」とか。ものが曲がったり伸びたり歪んだりもする。音と色彩に対する知覚が鋭敏になり、瞳孔の拡大により目にするものの明るさが増すのだ。なるほど、サイケなファッションというのはだから派手でゆらぁっとしてるんですなー。
 “マリファナ”とは、大麻を乾燥させたもの。トリップ感は得られるが中毒性はないと言われている。サイケ時代の68年からその後3年間でアメリカの33州がマリファナ所持を重罪から軽罪に格下げしたんだって。マリファナは、カウンター・カルチャーのシンボル的存在だったのだ。あ、でも現在は厳しいっす。
 もうひとつのナチュラル系アイテム“マジック・マッシュルーム”とは、LSDに極めて近い分子構造の幻覚性物質シロシビン(psilocybin)とシロシン(psilocin)を含むキノコたちの総称。幻覚症状はLSDに近く、適量ならば軽い酩酊感と浮遊感が得られる。自分のカラダがぐにょーんと伸びていくような気持ちになってみたり、とね。
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 で、イモムシが座っているマッシュルームをマジック・マッシュルームだと設定した場合、それを食べたアリスの背が伸び縮みすることはある意味正しいキノコ・トリップといえるかもしれない。アリスに初めて話しかけたときのイモムシは、けだるい眠そうな声だった。マッシュを過剰摂取すると、動作がひどく緩慢になったりする。うんうん、キノコの症状だ。――じゃあ、これはホントにマジック・マッシュルームなの? では、キノコを示唆したイモムシとは。イモムシはアリスに「ファーザー・ウィリアム」を暗唱してみろという。アリスの暗唱した詩は、桂冠詩人ロバート・サウジー(1774-1843)による教訓詩“The Old Man's Comforts, and How He Gained Them”(1799)のパロディだ。「老子の心境 いかにして解脱せしや」(石川澄子氏訳)をヒッピーに結びつけて考えると、「ヒッピーの快楽、どうやって手に入れたか」となる(なるか?)。まさにサイケ時代。アリスにトリップを与えたイモムシの正体は、なんとヒッピーだったのだ。
 って、そんなわけないじゃん。この詩は1799年のものであり、『不思議の国のアリス』は1865年に正式出版されている。それよりも、サイケ時代を知るはずのないキャロル(1832-1898)を考えれば、どれほどムリヤリかがわかる。この物語を幻覚ファンタジーとして読めば、どんな風にも解釈(というよりこじつけ)できるよというトンデモな一例とでも思ってくださいまし。
 あと、イモムシの吸っている水タバコだが、これは嗜好品(になりうる)という意味ではタバコもマリファナも同じようなものだろう。リラックスしている状態、というくらいでいいんじゃないでしょうか。

 そうは言っても、サイケなアリスってけっこう好きです。ここからは、ドラッグとアリスが結びついちゃっててイイ感じのレコードを紹介していきます。
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