Various Artists _Sahrauis - The Music Of The Western Sahara_ (Nubenegra / Intuition, INT3255-2, 1998, 3CD+book) - CD1)_A Pesar De Las Heridas_ (Nubenegra / Intuition, INT3251-2, 1998, CD) CD2)_Sahara, Tierra Mia_ (Nubenegra / Intuition, INT3252-2, 1998, CD) CD3)_Polisario Vencera_ (Nubenegra / Intuition, INT3253-2, 1998, CD) 旧 Spain 領で、Morocco 王国による領有か Polisario 解放戦線による Sahara-Arab 民主共和国としての独立かで、1975年以降戦争状態にあった Western Sahara の音楽のアンソロジーが、Spain の world music のレーベル Nubenegra によってリリースされた。(ちなみに、Sahrauis とは、Sahara に 住む人々のことである。) Nubenegra 盤はスペイン語版なのだが、その英語/ 独語版が Intuition からリリースされたので、入手してみた。 戦争状態ということもあるし、これといった大都市のある地域ではないので、 欧米の rock / pops の影響の少ない伝統的な音楽が中心だろう、と予想して いたのだけれど、特に、Spain の Luis Delgado と Alberto Gambino が 制作した1,2枚目が意外と electric-guitar を多用したモダンな音作り。 それが面白かった。題名はスペイン語で書かれているし、旧宗主国の言葉と いうことで、第二言語としてスペイン語が使われているようであるが、 歌に使われている言葉は、Hassania と呼ばれるアラビア語の方言のようである。 強烈な反復感のあるハチロク (6拍子) のリズムに乗せて、メロディをコブシを 効かせて歌うというのが、基本型。これは多くのアラブの音楽に共通するのだが。 1枚目のタイトルは『あらゆる傷もものとせず』とでもいう意味。女性歌手集で、 伝統楽器一つだけを伴奏に詠唱するような伝統的な音楽に近いものも数曲収録 されているのだけれど。そんな中で、Nayim Alal の突っかかるような electric guitar をカッティングする音と女性のテンション高い詠唱が絡む曲が、 とてもカッコイイ。それに、"Hijios De La Revolucion" ("Sons Of The Revolution" という意味。) のように、スペイン人の Luis Delgado のうなりをあげるようで 浮遊するような electric guitar も絡むときがある。意外と New Wave っぽく、 ハチロクのリズムを持つ初期 Cocteau Twins の曲のルーツはここにあるの ではないか、と思ってしまうくらいだ。 2枚目のタイトルは『サハラ、わが大地』。こちらは、男性歌手が多くなっている。 やはり、Nayim Alal の electric guitar が大活躍しているのだけれども、 CD1枚目よりも緩いリズムを持つ rai (Algeria のポップス) の影響を強く感じる 歌謡曲が目立つ。sax もフューチャーされ、Nayim Alal 自身が歌う "Plegaria" など、rai といっていいだろう。というか、まったく同じ旋律の歌を Khaled が 歌っていたような気がするのだが…。もちろん、Cheb Sahraoui と名乗る rai の 歌手もいるわけで、関係があるのだろうが。あと、男性 の electric-guitar/bass (MIDI guitar などというクレジットも見える) 奏者兼歌手の Ali Mohamed と 女性歌手 Mariem Selac が組んだ曲も、数曲あって、これがポップで良い。 3枚目のタイトルは『ポリサリオは勝つ』。これは、前の2枚と違い、編集盤ではなく、 同じミュージシャンたちで1枚制作したという感じである。あまり1〜2枚目と ミュージシャンの重なりがなく、感触が異なる。acoustic guitar の音がちょっと blues っぽい感じを連想させる。いささか地味のように思うが。 このアンソロジーは、CDが1枚ずつ別売りされてもいるが、3枚組の box set では、 14cm X 25cm 大124頁全カラーの本が付いている。例えば、単なる曲目の解説や Sahrauis の音楽の解説だけでなく、Western Sahara の置かれている政治的状況 (現代史、Polisario 解放戦線や The National Union of Sahrauis Women の話) や Western-Sahara の旅行記も載っていて、雰囲気を知るのにうってつけの興味深い 本になっている。完全に、Polisalio 解放戦線 〜 Sahara Arab 民主共和国側の 立場で書かれているのだけれど。音楽に限らず、Western Sahara の地誌を扱った 本をみかけることはないので、それだけでも、かなり貴重な本といえるかもしれない。 なかなか知ることのできない Western Sahara を垣間見るのにうってつけ、という だけでなく、特に1,2枚目は音だけでも面白い、そんなアンソロジーと言えるだろう。 2000/01/10 嶋田 Trout Fishing in Japan 丈裕