Buzzcocks _Time's Up_ (Mute / The Grey Area, SCRATCH2CD, 2000, CD) - 1)You Tear Me Up 2)Breakdown 3)Friends Of Mine 4)Orgasm Addict 5)Boredom 6)Time's Up 7)Lester Sands (Drop In The Ocean) 8)Love Battery 9)I Can't Control Myself 10)I Love You, You Big Dummy 11)Don't Mess Me 'Round +)footage from the gig at the Lesser Free Trade Hall, Manchester, July 1976. - Recorded 1976/10. - 2,3,5,6) originally released as _Spiral Scratch_ (New Hormones, 1977, 7"). - Pete Shelley (starway guitar), John Maher (drums), Howard Devoto (vocals), Steve Diggle (bass). You know me, I'm acting dumb. You know the scene, very humdrum. Boredom, boredom. -- Buzzcocks, "Boredom" (1976). You know me, I'm acting dumb - dumb. You know the scene, it's very humdrum. And my favourite song's entitled "Boredom". -- Orange Juice, "Rip It Up" (1982). と、Orange Juice が1982年の大ヒット曲 "Rip It Up" の歌詞で引用していた ことを思い出させるように、「"Boredom" は、その場限りのアンセムとなった。 というか、むしろ、聞き手によって捉えられるべき流れ去っていくアンセムの 断片となった。」と、Greil Marcus は、このリイシューのライナーノーツで言う。 後に Magazine のリーダーとして活躍する Howard Devoto を歌手にフィーチャー した、"Boredom" を含むデビューシングル _Spiral Scratch_ を全曲収録した、 Buzzcocks の最初期のセッションを収めたCDが、正規盤としてリリースされた。 今まで、同題名で何回となくブートレグでリリースされてきたものだが。特に、 "Boredom" は、Devoto 脱退後の Buzzcocks はレコード化しなかった (Buzzcocks, _Another Music In A Different Kitchen_ (United Artists, 1977) の intro と reprise に使われているが。) こともあり、伝説化しつつあっただけに、この リリースは嬉しいものだ。"Boredom" を聴くことができるだけでも、このCDを買う 価値がある。もちろん、enhanced CD として付属する Devoto 在籍時のライヴ 映像が観られる、というのも貴重だが。 Buzzcocks は punk バンドと見なされていたけれども、「政治的」「社会的」な テーマをほとんど扱わず、ラヴ・ソングをよく歌っていた、という点で際立っていた。 この最初期の録音で聴かれる演奏は、確かに punk 流儀という面はあるけれども、 このような歌詞の扱いは、後の Orange Juice や The Smiths のようなバンドが 歌う歌の原点にもなっていたと思う。 Buzzcocks が "the scene - it's very humdrum" と歌った町 Manchester から 出てきた The Smiths の Morrissey が、 The rain falls hard on a humdrum town. This town has dragged you down. -- The Smiths, "William, It Was Really Nothing" (1984). と歌ったとき ― 町を形容する言葉に "humdrum" を選んだときに、"Boredom" が 頭にあったとしても不思議ではない。実際のところは "Boredom" を意識したものでは ないかもしれないが、Buzzcocks のアンソロジー _Product_ (EMI, 7243 8 32767 2 1, 1989/1995, 3CD) のライナーノーツで、Jon Savage はこう書いている。 「Buzzcocks はまさにそういうグループだった。」と、Morrissey は言う。 「僕は彼らの知的な鋭さが好きだった。僕はグループに加入して激しい音楽を 演奏するためには、自分自身の汚い言葉で自分を被わなくてはならない、 なんて考えを軽蔑していたんだ。」 平凡な町での馬鹿げた行為という「退屈」を歌うという主題は、さらに、いささか ロマンチックだとは思うが不条理としての恋愛を歌った歌 ("Ever Fall In Love (With Someone You Shouldn't've)?"、"You Say You Don't Love Me" ― いずれも _Product_ で聴くことができる。) は、The Smiths の歌詞に繋がるものがある。 ただ、ちょっと pop な感じもある punk、という音作りということも含めると、 むしろ _NME C86_ 世代のバンド ― The Wedding Present や Talulah Gosh の 方が、その影響を聴き取りやすいかもしれないが。 Buzzcocks は、Wire や Joy Division のようには rock 脱構築としての post-punk の道を切り開かなかったけれども、punk 以降において rock のイデオムを排する post-punk の対比として、rock のイデオムを残した The Smiths や Postcard 一派 (Aztec Camera や Orange Juice)、さらに、_NME C86_ 世代へのバンドへの 道筋を付けたバンドだったのだと思う。そして、この最初期の録音 ― "Boredom" に、 すでにその始まりを聴くことが出来る。 _Spiral Scratch_ は、punk の中では最初期の「インディ」によるリリースであり、 その後の「インディ」の動きの先駆けとなったという点で評価されることも多い。 しかし、その意味は、"Boredom" が付けたこの道筋の持つ意味よりは小さいと、 僕は思う。 2000/3/20 嶋田 Trout Fishing in Japan 丈裕