Conlon Nancarrow _Studies For Player Piano_ (Wergo, WER6907-2, 1999, 5CD+book) - CD1)Studies No.3, 20, 41, 44. CD2)Studies No.4, 5, 6, 14, 22, 26, 31, 32, 35, 37, 40, tango? CD3)Studies No.1, 2, 7, 8, 10, 15, 21, 23, 24, 25, 33, 43, 50 CD4)Studies No.9, 11, 12, 13, 16, 17, 18, 19, 27, 28, 29, 34, 36, 46,47 CD5)Studies No.42, 45, 48, 49 政治的な理由から US から Mexico に移住して活動した現代音楽の作曲家 Conlon Nancarrow (1912-1997) が、自動ピアノ (player piano, reproducing piano) の演奏のために作った作品を集めた CD box set。1990年までに作曲された全ての曲を、 Mexico City にある Nancarrow の所有する改造された 1927年製の Ampico の 自動ピアノを使って、録音したもの。もともと、1988年から1990年にかけて 3タイトル (Volume I & II、Volume III & IV と Volume V) に分けてリリース されたものである。Nancarrow の自動ピアノ作品の全容を知るのにうってつけの box set だろう。 自動ピアノは、巨大なオルゴール、とでもいうようなピアノで、穴を開けられた ロールを使って自動的に演奏する仕組みになっている。"reproducing" というように、 ロールは実際に演奏者がピアノを演奏することによって作成し、ロールを使って 演奏を再現することを目的としていた。Nancarrow の一連の作品はこのような元と なる演奏が無く、直接ロールを作ることよって人が演奏できないような曲を実現 している。音量についても Nancarrow は改造を加えており、よりソフトな音が 出るようにソフトペダルが押されたときのストロークの幅を小さくする一方で、 より大きな音が出るようにテンションを高めてあるという。音色についても、 歯切れの良い音が出るよう、ハンマーには皮のストリップが付けられている。 (この皮のハンマーのものが通常の演奏で使われる第一の自動ピアノだそうだが、 もう一台、ハンマーのフェルトを金属で被った自動ピアノもあり、それでよく演奏 される曲もあるとのこと。このCDでは全て皮のハンマーのもので演奏されている。) ロールの作り方や自動ピアノからも予想つくことなのだが、聴いていて耳を捉える のは、やはり、ちょっと狂騒的な曲だと思う。人が弾けなさそうな感じにアクロ バティックに音が飛んだり、鳴り続けたりするような曲だ。例えば、CD1なら No.3e のひたすら背景でドルドルと鳴り続けるドローンとは違うが似たような効果を 感じる低音 (もちろんその前景で飛び交う高音も良いのだが。)。CD2なら、No.31。 ポツポツと並行するメロディから強音でズンズンパッと入る瞬間が良い。しかし、 この CD1、2 はこの box set の中では地味だと思う。派手な展開を見せるのは、 CD3、4。No.7 の中盤の強音を使ってめくるめくリズムが変化していくような所も 良いが、No.21 の低音のテンポが加速する一方で、 逆に高音のテンポが減速 していく、すれ違っていく感じがスリリング。No.27 の周囲の様々な展開を無視 するかのように、ほとんど音程を変えずにパルス的にトントントトトトンと続く 強音も印象的。CD5は長い曲が多いのだが。音数少なく弱い音でポロポロ始まり 7分かけてだんだん濃く強烈になっていく No.42 の展開も面白い。ピャラランと 鍵盤の上を手を滑らすような音の多用と、強音と弱音の落差の大きい No.45c も 好きだけれども。このような感じで、CD5枚約5時間、聴き所には事欠かない出来だ。 もちろん、スローな展開のところも、聴き込めばまた面白いところもあるのだろう。 jazz や blues に影響を受けたリズムやメロディを持った曲が多いので、 ぱっと聴いてとっつきやすいように思う。 こんな感じで楽しんで聴くことを、僕は薦めたいが。自動ピアノの可能性を極めた ところが凄いという感じよりも、jazz や blues の影響のリズムや旋律、そして なにより歯切れの良いピアノの音色などから沸き上がってくるひょうきんさが 良い作品だと思うからだ。もちろん、もっと分析的に聴きたいのであれば、 James Tenney の手による曲毎の詳しい解説を付属のブックレットを参照するのも 良いだろう。 2000/3/26 嶋田 Trout Fishing in Japan 丈裕