数年前に出版された本なのだけれど、最近になって出版されていることに気付いた この本。取り寄せて、やっと入手したので、遅れ馳せながら、紹介したい。 Barry Lazell (comp.) _Indie Hits 1980-1989: The Complete U.K. Independent Charts (Singles & Albums)_ (Cherry Red Books, ISBN0-95172-069-4, 1997) - 23cm x 15cm, pp.314, B+W, paperback. 「インディーズ」(indies; 独立系レーベル (independent labels)) というのは、 もともとメジャー・レーベルの配給を受けないレーベル、という意味であり、 その扱うジャンルは rock / pop に限ったものではない。1950s〜60s の modern / free jazz において「革新的」な音をリリースしてきたのも独立系レーベルだった。 他にも、classic、folk や blues、world / ethnic music はもちろん、reggae や techno のような都市型の dance 音楽など、様々なジャンルの音楽を扱うレーベルが 英米で活動してきている。 しかし、「インディーズ」という言葉は、時に、単に「メジャーの配給を受けない レーベル」以上のニュアンスを持つ場合がある。1980年代以降の英米から出てきた、 punk 以降の、表面的なイデオロギーでは非商業的な雰囲気を持つ rock / pop 、 とでも言うような。そして、それを意味付けを決定付けたのが、1980年代以降、 英国の音楽誌に掲載された "Indie Chart" だった。 この本は、この1980年代の英国の "Indie Chart" を編纂したチャート本だ。 出てくるアーティストの名前を眺めていると、今や風化しつつある「インディーズ」 のある種の雰囲気を思い出させられるようだ。 編集は、チャートに入ったアーティスト毎にまとめられており、バンドの出身地 もしくは活動拠点地、音楽形式 (ジャンル) の簡単な記述、メンバーや主に担当 しているパート、からなる数行のプロフィールに続いて、チャートに入った シングルとアルバムについて、レーベル、カタログ番号、最高ランク、チャートに 入った週の数、チャートに入った日 のリストが載っている、というもの。 モノクロのレコード・ジャケットやポスター、ミュージシャンのポートレイトが いくつか載っているが、基本的にチャート資料に徹した本になっている。 毎週のチャートは載っていないので、年や月を指定してその時に流行していた 曲を調べることには使えないのは、少々残念。むしろ、アルバムやシングルを 指定して、それが流行った年代を確認するような使い方を想定した本だろう。 レーベルやカタログ番号も載っているので、ディスコグラフィー的な利用も可能だ。 例えば、レヴューを書くときに、関係するアーティストの代表作やそれが出た年月を 調べる、という使い方には大変重宝しそうだ。 この本の巻頭の編集者による解説によると、初めて "Indie Chart" が載ったのは、 音楽業界紙 _Record Business_ 1980年1月19日号で、もともと、大手独立系レーベル Cherry Red のオーナー Ian McNay と、_Record Business_ 誌のジャーナリスト John Hayward のアイデアによるものだという。そういう逸話に、Cherry Red ような 脱 punk 的な独立系レーベルの戦略を見るような気がしたし、その後、脱 punk 的な rock / pop の独立系レーベルのためのチャートとして主に機能したのも、わかる ように思う。実際、僕が、1980年代前半に、最もレコード購入の参考にしていた 情報源の一つが、この "Indie Chart" であり、このようなチャートを作り上げる ことは、いわゆる「シーン」と言われるようなものを作り上げるものとして機能 していたように思う。そして、市場作りというビジネス的な意味合いもあったと 思うのだが。 決して一般向けの本ではないが、1980年代の英国における脱 punk の rock / pop を 考えるときに、重宝する資料になるように思う。 2000/4/17 嶋田 Trout Fishing in Japan 丈裕