Koch-Schuetz-Studer plus DJ M. Singe and DJ I-Sound
_Roots And Wires_
(Intakt, CD60, 2000, CD)
- Hans Koch (saxophones,clarinets,electronics),
Martin Schuetz (cellos,electronics), Fredy Studer (drums,percussion),
DJ M.Singe (a.k.a. Beth Coleman) (turntables),
DJ I-Sound (a.k.a. Craig Willingham) (turntables).

"Hardcore Chambermusic" と銘打って、sampling を通して異種格闘を繰り広げる
Swiss 出身の free jazz / improv. bass-less cello trio 、Koch-Schuetz-Studer
の新作は、DJ というか turntable 奏者2人との競演盤だ。

前々作 Koch-Schuetz-Studer & El Nil Troop, _Heavy Cairo Traffic_ (Intuition,
INT3175-2, 1997, CD) における Egypt の音楽、前作 Koch-Schuetz-Studer
& Musicos Cubanos, _Fidel_ (Intakt, CD056, 1999, CD) における Cuba 音楽と
いった エスニックな「ネタ」が無い分だけ、原点の Koch-Schuetz-Studer,
_Hardcore Chambermusic_ (Intakt, CD042, 1995, CD) に戻ったような仕上がりだ。

フィーチャーされる2人のDJはNY拠点を活動拠点としており、DJ Spooky らの
いわゆる "Illbient" といわれる界隈で活動しているらしい。このアルバムでの
演奏は、Christian Marcley のような「フリーキー」なレコード演奏をするものでも、
打ち込みと繋ぎやミックスが中心の techno 的なものではなく、むしろ、scratch 音
を多用する hip hop 的なものである。といってもアクロバティックなものでもないし、
rap がフィーチャーされないので、abstract hip hop (trip hop) に感触は近い。
jazz と hip hop、といえば、1980年前後の Grandmaster D.ST と Bill Laswell の
関係 (Material はもちろん、Harbie Hancock, _Future Shock_ (Columbia, 1982))
を思い出すし、そのときのエンジニア Martin Bisi が、_Hardcore Chambermusic_
も手がけていることを考えると、この _Roots And Wires_ も、その流れの上にある
とも言えるだろう。1980年代前半との根本的な違いといえば、funk 色がほとんど
無いこと。ズーンという低音使いはむしろ techno 的だが、ダンサブルな感じは
強調されていない。このような時間軸の使い方は、旋律の扱いも併せて、実に
1990年代以降の bass-less guitar/cello trio らしい。

全体的な音の枠組みはもちろんだが、"Loop Eleven" での、scratch 音と clarinet
の見事な掛け合いなど、スリリングで実にカッコいい。このような聴き所もある
秀作だ。今までの作品も併せて、お勧めしたい。

2000/4/23
嶋田 Trout Fishing in Japan 丈裕