Marisa Monte
_Memorias, Cronicas E Declaracoes De Amor_
(Phonomotor / EMI (Brasil), 525990-2, 2000, CD)
- 1)Amor I Love You 2)Nao Va Embora 3)O Que Me Importa 4)Nao E Facil
5)Perdao Voce 6)Tema De Amor 7)Abololo 8)Para Ver As Meninas 9)Cinco Minutos
10)Gentileza 11)Agua Tambem E Mar 12)Gotas De Luar 13)Sou Seu Sabia
- Produzido par Arto Lindsay E Marisa Monte
- Marisa Monte (vocals,steel guitar), Arnaldo Antunes (additonal vocals),
Davi Moraes (guitar,electric sitar,buziki,drums), Melvin Gibbs (bass),
Liminha (bass), Carlinho Brown (percussions), Andres Levin (Fender Rhodes),
Mark Batson (keyboards,piano), Peter Scherer (keyboards),
Joao Donato (no piano), Marc Ribot (guitar), Arto Lindsay (guitar), etc

1990年代から活躍する Brasil の女性歌手 Marisa Monte の久々の最新作は、
出世作の 2nd アルバム _Mais_ (EMI (Brasil), 796081-2, 1991, CD) の制作
をして以来続いている、Arto Lindsay との共同制作。Andres Levin ら、最近の
Lindsay の活動で見かけるミュージシャンを従えての作品になっている。
それも、彼女自身によるレーベル Phonomotor からのリリースだ。

僕が惹かれた _Mais_ での彼女の歌唱というのは、もちろん、bossa nova 風の
ものでもなく、前世代の MPB の歌手、例えば Gal Costa のようななめらかで
響きに奥行きを感じさせる歌声でもなく、平板に感じるものだった。そして、
その歌声が、Arto Lindsay はもちろん、Marc Ribot などの、NY の post-free
/loft 世代の jazz/rock のミュージシャンの作りだす、ちょっと歪んだ音を
残したザラっとした音に合わさったとき、はっとさせられるような違和感を残した
歌となり、それがとても良かったと思っている。しかし、その後の彼女の作品
(_Verde Anil Amarelo Cor De Rosa E Carvao_ (EMI (Brasil), 830080-2, 1994, CD)
と _Barulhinho Bom - Uma Viagem Musical_ (EMI (Brasil), 854211-2, '96, 2 CD's))
は、音作りも厚くなり、歌声も通るようになり、滑らかさを増したことによって、
制作が凝るにつれて残念ながらその魅力を減じていたように思っていた。

この新作の良さは、_Mais_ ようなザラっとした感覚がかなり戻った作品になって
いるように思う。それは、例えば、オープニングの "Amor I Love You" で Monte の
甘目の歌唱に割り込んでくる Arnaldo Antunes の癖のある声による詩の朗読がある
からかもしれない。(Arnaldo Antunes, _Nome_ (BMG (Brasil), M30.072, 1993, CD)
での、この2人のデュエット "Alta Noite" ほどではないが。) Arto Lindsay や
Marc Ribot の一癖ある guitar の音も良いのだが。"Tema De Amor" などで聴かれる
Monte 自身が弾く steel guitar の音も、巧みな演奏ではないが psychederic とも
近い歪みがあるし、それが緩い funk のリズムに乗ると、とてもカッコいい。
こういう歪みの音が、爽やかにいささか甘く聴かれるラヴソング ― それが全体の
基調であるのだが ― の隠し味になっているように思う。そして、それがこの
アルバムの魅力になっていると思う。

_Mais_ のような勢いは望むべくはないが、制作が緊張感を削ぐことの無い、
良い作品になっていると思う。お勧めだ。

Arto Lindsay
_Prize_
(Rykodisc (EU), RCD10498, 1999, CD)
- Produced by Andres Levin and Melvin Gibbs with Arto Lindsay.
- Arto Lindsay (vocals,guitar), Melvin Gibbs (bass,programming,keyboards,
filters), Andres Levin (acoustic guitar,keyboards,programming,rhythm 700,
stylophone,pandeiro), Davi Moraes (timbal,caixas,surdos,pandeiro,
electric guitar), Skoota Warner (drums); Vinicius Canturaria (acoustic
guitar), Eyvind Kang (violin,viola), DJ I-Sound (noise bits),
Brian Eno (sonic thing), etc.

その Marisa Monte を制作した Arto Lindsay の去年リリースされたアルバムは、
最近の Lindsay のリリースの中では、良くできた出来だと思う。Andres Levin や
Melvin Gibbs らとのコンビは、前作 _Noon Chill_ (1998) に続くものだが。
僕がこのアルバムで好きなのは、DJ I-Sound の参加した "Prefeelings" や
"Resemblances" といった曲。特に "Prefeelings" での scratching 音は、
フィーチャーされている rap と合わせて、Lindsay の弱い歌声や緩めのホーンの音と、
強いコントラストを生んでいるのが良い。最近、興味が失せかけていたのだが、
こういう曲があると、まだまだかなと思う。

Ana Torroja
_Pasajes De Un Sueno_
(BMG (U.S. Latin), 74321 72969 2, 1999, CD+)
- Producido por Andres Levin and Arto Lindsay.
- Ana Torroja (vocals), Sterling Cambell (drums), Davi Moraes (guitars,etc),
Matt Groenberg (bass), Peter Scherer (keyboards), Andres Levin (guitars,etc),
Steve Barber (arrenges), Ze Nando (programming); etc.

Spain の男性2人女性1人 pop グループ Mecano の女性歌手だった Ana Torroja の
ソロデビューのアルバムも、Andres Levin と Arto Lindsay の2人による制作で、
バックを固めるメンバーも、Marisa Monte, _Memorias, Cronicas E Declaracoes
De Amor_ や Arto Lindsay, _Prize_ と共通している。

が、あまり良いと思えないのは、Monte に比べて緩めの歌声が、僕はあまり好き
ではない、ということかもしれない。良いポップだと思うけれども、もう少し
ひっかかりある所があった方が良いと思うのだが。この制作の面子のせいもあって、
それを期待したくなるところもあるのだが…。

2000/6/4
嶋田 Trout Fishing in Japan 丈裕