Niklaus Troxler _Jazz Blvd - Niklaus Troxler Posters_ (Lars Mueller Publishers, ISBN3-907044-90-8, 1999, book) - 24.5cm X 17.5cm, pp.304. Swiss のグラフィック・デザイナー Niklaus Troxler の作品集が、Swiss の グラフィック・デザイン書で有名な出版社 Lars Mueller から出版された。 ポスターのカラーの図版を中心に構成されており、見ていて楽しい本だ。 Niklaus Troxler は、1970年頃から続く一連の free jazz / improv. の コンサート "Jazz in Willisau" や1975年から続く free jazz / improv. の フェスティヴァルのオーガナイザとして知られる。もちろん、そのコンサートや フェスティヴァルのためのポスターのデザインも手掛けており、それらが彼の 代表作になっている。この本に収録されているポスターの図版の大半も、 それらのポスターである。以前に出版されていた (現在絶版の) 彼のジャズ・ ポスター集 Niklaus Troxler, _Jazzplakate_ (Oreos / Collection Jazz, ISBN3-923657-32-3, 1991, book) と重なりも多いが、1990年代に入ってからの 作品も見られるのは嬉しい。1970年代以降の free jazz / improv. の流れを 知っている人にとって、こういった一連のポスターに登場するミュージシャン たちと、そのミュージシャンに使われているデザインを比較すると、面白い。 必ずしも、イメージが直結しているわけでないのだが。 もちろん、関係するレコードやCDのジャケットのデサインだけでなく、 jazz と関係しない演劇や展覧会、企業広告などのポスター、Swatch の デザインなども載っている。もっと興味深いのは、最終的なポスターの図版 だけでなく、下書きのデッサンの図版も豊富に載っており、_Jazzplakate_ の大幅増補版とも言える内容になっている。 Troxler について語られるときは、jazz に関係するところや、フェスティヴァル の主催者としてのグローバル・ビレッジの理念についてのものが多く、その ポスターのデザインのスタイルについてはあまり語られない。実際、彼の スタイルはかなり折衷的で節操ないところがあると思う。Swiss のデザイナでは あるものの、いわゆる "Die Neue Grafik" とは一線を画した作風なのだが、 この本で、彼が、Herbert Leupin に師事していたことを知った。Leupin も ユーモラスなイラストを用いるグラフィック・デザイナであり、そのユーモアは Troxler にも受け継がれているように思い、納得。Swiss のモダン・グラフィック・ デザインには、こういう流れもあるのだなぁ、と思った。 _Jazzplakate_ では、Troxler 自身による、ポスターに対するコメント、 それも、デザイン論的なものではなく、ちょっとしたエピソードが中心の コメントが書かれていた。そして、それが面白かったのだが。この _Jazz Blvd_ では、このような Troxler 自身によるコメント無いのが、残念。 しかし、_Jazzplakate_ よりも図版は豊富だし、なんと言っても _Jazzplakate_ は絶版だ。1970年代以降の、free jazz / improv. のグラフィックデザインの 1スタイルを成したという意味でも、興味深いデザイン書だと思う。お勧めしたい。 ちなみに、この本を出している Lars Mueller からの音楽に関するグラフィック・ デザイン書としては、ECM (Edition of Contemporary Music), _Sleeves Of Desire - A Cover Story_ (Lars Mueller Publishers, ISBN3-906700-85-2, 1996) というものもある。ECM レーベルのジャケット・デザインの集大成で、こちらも お勧めだ。 ついでに、jazz に関する洋書をもう一冊、軽く紹介。 Klaus-Gotthard Fischer _Jazzin' The Black Forest - The Complete Guide to SABA / MPS - Jazz Records_ (Crippled Library, ISBN3-9805820-1-9, 1999) -- 30cm x 30cm, pp.324. 1958-83の間活動した、Muenchen の jazz レーベル MPS (と、その前身の SABA) に 関する本。LPサイズ (30cm×30cm) の豪華な本で、70頁にわたるカヴァー・アートと、 90頁余りのディスコグラフィが、この本の売りだろう。 カヴァー・アートは、1960年代末から活動する同じく Muechen のレーベルである ECM に比べると節操が無いもので、デザイン的に凄いと思うものは多く無いのだが。 逆にそのポップさというかキッチュさが時代も感じさせてくれて、観ていて面白い。 といっても、レーベルの創設者 Hans Georg Brunner-Schwer のインタヴューもあるが、 基本的にマニア/コレクター向けのレファレンス本だ。レコードを収集しようという 人が最も重宝するような本だとも思う。 2000/6/5 嶋田 Trout Fishing in Japan 丈裕