Evan Parker Electro-Acoustic Quartet 神奈川県民ホール小ホール, 関内 2000/9/29, 19:00-21:30 - Evan Parker (soprano sax), Joel Ryan (signal processing instrument), Paul Lytton (percussion,live electronics), Lawrence Casserley (signal processing instrument). 1960年代末から活動する free improv. の sax 奏者 Evan Parker が1990年代 中ごろから本格化させている電子音響プロジェクトの来日公演の初日。 フィラメント (大友 良英 + Sachiko M) の前座の後、3セット1時間ほどの 演奏をしたが、もっと聴きたいと思わせるほど面白い音だった。 最初は Evan Parker と Joel Ryan の2人による演奏。soprano sax の Parker は 循環気法を使って高音を細かくトレモロするようにピロピロピロピロと音を 出しつづける。こういうソロの演奏は、以前の来日公演の際にも聴いてたことも あったし、いささか催眠的なところもあったと思うのだが。Ryan は Parker の 出す音を加工するわけだが、あまり音色は弄らずに音を高音や低音に振ると いう感じ。CDで聴いていたときはもくもく泡が湧き上がってくるような感じに 聞こえた演奏だが、ライブで大きい音で聴くとどんどん重ねられていく音によって 包まれていくような感じすらした。特に体に響くような低音が出たときが気持ち 良かった。後半に入ると、Parker も循環気法を止め、低音でブロウしたりする ときもあって、そういう間の入り方というかアクセントの入れ方も絶妙。 最後まで単調に感じることなく楽しめたセッションだった。個人的には、 この最初のセッションが一番気に入った。 続いて Paul Lytton と Lawrence Casserley の2人による演奏。Lytton は 舞台奥に陣取っていて手元が見辛かったのだが、パーカッションというか 音の出る小物をキーキーカシャカシャと鳴らし、それを Casserley が弄ると いうもの。Casserly は PowerMac のディスプレイを見ながら、マウス様のものを 操作したり、パッドを叩いたりしているようなのだが、その操作と実際の音の 関係が見取れなくて、最初のうちは何をやっているのだろうか、という感じ だった。後半、Lytton が強い音を出すようになると、Casserley の動きと音の 関係がなんとなく見取れるようになったが。Casserley は Ryan ほどに広く 音域は使わないが、音色などはかなり派手に変形させているようだった。 音色は確かに多様だったけど、いささか音が薄めだったように感じて、 いまいちだった。 最後は4人揃ってのセッション。Parker も最初のセッションほどに循環気法 ― マルチフォニックは多用せず、Lytton も2人のときよりも強い音を出す ことが多く、デュオのときよりも様々な音が聴かれたように思う。Ryan と Casserley の音弄りはいささか Lytton の出す打楽器音に偏っていたように思う。 打楽器の音の雨霰の中を sax が耐える、とでもいうような感じを受けるところも 多かったが。最初のセッションのような、sax の音に分厚く包まれるような 感じにはほとんどならなかったのは、残念。そういう点で、最初のセッション よりもものたりなく感じてしまった。 全体の印象としては、やはり、Joel Ryan を含む編成ということで、ECM から リリースのある Electro-Acoustic Ensemble というより、Evan Parker with Noel Akchote, Lawrence Casserly and Joel Ryan, _Live At "Les Instants Chavires"_ (Leo, CDLR255, 1998, CD) の、Akchote の代わりに Lytton が 入った編成といったところか。最後に大団円を迎えるセッションの組み方にしても。 4人の後、また編成を減らして演奏してくれるかとも期待したけれども、それは なかった。Parker と Casserley の組み合わせなど、もっと異なる組み合わせで 聴いてみたかったのだが。 _ _ _ 前座のフィラメントの演奏は、ほとんど正弦波ではないかと思われる電子音を 鳴らし続けるというミニマルなもの。もちろん、高さが変わったりという 変化もあるが。微妙に音像が動くというかそんな印象を受けるときもあって、 気になったのだが。聴きながら頭を動かしてみたら、どうやら節が出来て いたようで、音が大小する。周波数の変化による節の移動が、そういう効果を 出していたのかもしれない。それに気づいたときは、ちょっと面白かった。 2000/10/1 嶋田 Trout Fishing in Japan 丈裕