2000年に発売された中から選んだ10枚。 第一位: Laika, _Good Looking Blues_ (Too Pure, PURE89CD, 2000, CD). electric Miles Davis 的な音を techno 〜 breakbeats の枠組みで蘇らせよう、 とでもいう音作りは、1990年代後半によく聴かれたが、このアルバムは jazz と 異なる文脈ながら一番の出来。変拍子 funk に乗る Margaret Murphy Fiedler の 歌声も良い。 第二位: Matthew Herbert / Various Artists, _Let's All Make Mistakes (Globus Mix Vol.5)_ (Tresor, 157, 2000, CD). 自身による音源、自身が remix を手がけた音源も用いているが、もっと広く音源を 取った DJ mix 盤だが、deep house 的という以上に Herbert らしい一つ一つの 音がソフトな音世界を作り上げている。ソフトながらぐいぐいひっぱるような ノリも良い。自身の作品 Doctor Rockit, _Indoor Firework_ (Lifelike, LL10CD, 2000, CD) よりも良いくらいだ。 第三位: Luke Vibert / B.J. Cole, _Stop The Panic_ (Cooking Vinyl, COOKCD193, 2000, CD). Cole の steel guitar のエキゾチックな響きに、Vibert の breakbeats がぴったり はまった一枚。 第四位: Kev Hopper, _Whispering Foils_ (Duophonic Super 45's, DS45-CD26, 2000, CD). musical saw の不安定な音程と音色が、easy listening 風に優しいバックに見事に ミスマッチした、不気味可愛い小品。 第五位: Marisa Monte, _Memorias, Cronicas E Declaracoes De Amor_ (Phonomotor / EMI (Brasil), 525990-2, 2000, CD). 1990年代の Brasil の代表的な女性歌手の新作は、_Mais_ (1991) の緊張感は望む べくもないが、本人の弾く steel guitar をはじめ、様々な歪みのある音が、 爽やかにいささか甘く聴かれるラヴソングの良い隠し味になっていた。 第六位: Michael Riessler, _Orange_ (Act, 9274-2, 2000, CD). 曲や音の組み合わせという面では1990年代の free jazz / improv. 的なものだが。 この作品の聴きどころは、やはり barrel organ、つまり、手回しオルガンだ。 ひょうきんな音色で、リズミカルに繰り出されてくる音が、うまく生かされている。 この Pierre Charial の barrel organ は、Burgess, _Le Nombril Du Monde_ (Alienor, ALIEN025, 1999, CD) や Sylvie Courvoisier / OCRE, _Y2K_ (Enja, ENJ9383-2, 2000, CD) でも楽しむことができ、今年、最も印象に残った 脇役だった。 第七位: Ambitronix, _We Da Man!_ (Plush, 01, 2000, CD). free jazz / improv. と big beat の出会いだが、ほとんど big beat らしさは 残しておらず、ギクシャクとおよそ踊れないビートながら、それでも dance music 由来の低音の組合せが良い作りになっている。これで、管楽器を1本入れると、 かなり面白くなるようにも思うのだが。 第八位: Rob Schwimmer / Uri Caine / Mark Feldman, _Theremin Noir_ (November, NVR2005-2, 2000, CD). Theremin trio による室内楽的 jazz 。映画音楽を多く手掛けた Bernard Herrmann のトリビュート企画ということで、いささか大人しいが。fiddle 的な violin と 重い piano の響きに Theremin が対抗するような展開もあるし、今後、このような 展開に期待したい。 第九位: Koch-Schuetz-Studer plus DJ M. Singe and DJ I-Sound, _Roots And Wires_ (Intakt, CD60, 2000, CD). sampling を通して異種格闘を繰り広げる Swiss 出身の free jazz / improv. bass-less cello trio の新作は、NYの Illubient な DJ との対決。downtempo breakbeats ながら、scratching と clarinet の見事な掛け合いも楽しめた。 第十位: Flanger, _Midnight Sound_ (Ntone, NTONECD40, 2000, CD). Burnt Friedman & The Nu Dub Players, _Just Landed_ (~scape, 004CD, 1999, CD) にしても、Burnt Friedman, _Con Ritmo_ (Nonplace, 3, 2000, CD) にしても 煮え切らない出来の Burnt Friedman と Atom Heart の duo だが。そんな dub 〜 techno を通過しながら生音を基調とした 1970s fusion を思わせる展開の音作りの 中では、このアルバムが一番楽しめた。 次点: 1990年代半ばに一揃いした音作りの延長を脱しきれず、かなり低調に感じた2000年 だったので、十枚以上選びたいと感じる作品は無かった。 番外特選: Evan Parker Electro-Acoustic Quartet のライヴ (神奈川県民ホール小ホール, 2000/9/29) は、Parker の循環気法で吹かれる音が live electronics で重ねられ、 音に包まれていくように感じるところが気持ちよかった。Kjell Bjorgeengen との 映像と合わせてのソロ (原美術館, 2000/10/2) も、ライティングと立ち位置の 選び方もユーモラスな小品という感じで楽しめた。Evan Parker with Noel Akchote, Lawrence Casserly and Joel Ryan, _Live At "Les Instants Chavires"_ (Leo, CDLR255, 1998, CD) 以来楽しみにしていた音世界を生で感じることが できた、秋の2つのライヴだった。 2001/1/1 嶋田 "Trout Fishing in Japan" 丈裕