_Soundslike Herbert_ Liquidroom, 新宿, 2001/2/2, 22:00〜 - Herbert (DJ,live mixing,etc) with Dani Siciliano (vocals), Phil Parnell (keyboards); Little Creatures; Karafuto (a.k.a. 田中 フミヤ); Child's View (竹村 延和); Moodman. 1990年代半ばから Doctor Rockit、Wishmountain、Radio Boy など、様々な名義で UK の techno / house 〜 electronica 界隈のシーンで活動する Matthew Herbert のイヴェントに行ってきた。フライヤによるとライヴがメインという感じだが、 正直に言って、Matthew Herbert / Various Artists, _Let's All Make Mistakes (Globus Mix Vol.5)_ (Tresor, 157, 2000, CD) のような DJ プレイをフロアで 聴くことを楽しみにしていたが、パフォーマンスにはあまり期待していなかった。 Herbert with Dani Siciliano, _Around The House_ (Phonography, GRAPHCD01, 1998, CD) は大好きなアルバムだが、この繊細な雰囲気はライヴ向けでは無い、と 思っていたこともある。 しかし、良い意味で裏切られた、とても良いライヴを体験することが出来た。 electronica 界隈のパフォーマンスは、こそこそと機材を弄くるような、およそ 観られているということを想定していないものが多いわけだが、Herbert のライヴ は人に見せることまで考えたパフォーマンスを展開してくれた。それが、この ライヴがとても楽しめた理由だと思う。ステージ上での手際もなかなか良かったし、 パフォーマンスに慣れているようにも感じられた。地元 UK では、このような ライヴをよくやっているように感じられた。 ステージは、中央にマイクが三本立ち、その後ろにサンプラーやキーボードなど 様々な機材が乗ったテーブルが置かれていた。テーブル前の右手に Parnell が 弾くキーボードが置かれていた。三本のマイクには、それぞれ異なる効果を設定 してあり、それを使い分けながら音を組みたてていっていた。 女性ヴォーカリストの Dani Siciliano は、肩上程度の長さの髪を後ろに纏め、 ホルターネック風の上に、淡いピンクのオーガンジーのロングスカートと、 フェミニンにドレスアップして登場。_Around The House_ に使われていた写真 よりもずっと綺麗で、びっくり。しかし、お飾りの人形という感じではない。 歌い方は上品に気取った感じではなく、むしろ、Herbert とタイミングを取り ながら三本のマイクを使い分けて、という感じ。レコードではか細い印象を 受ける歌声だが、ステージではもっと歌い込んでいた。最後は、マイクを持って、 モニタースピーカーの前にまで出てくるし。時には Herbert と代わって後ろの テーブルに方に行ったり、合間を見て散らかったステージを片付けたり。 登場してすぐにミュールを脱ぎ捨て、引き摺るスカートの裾を持ち上げながら ステージを動き回っていた様子も印象的で、パートナー然として振舞っている所も 面白かった。 Matthew Herbert も後ろのテーブルで大人しく音作りをしていたわけではない。 多くの曲は、三本のマイクの前で音を作る所から始められた。CDやそのケースで マイクをリズミカルに叩いたり、ポリバケツの中にマイクを突っ込んでその中で ガラス瓶を割ったり、ペットボトルをマイクの前で潰したりかき鳴らしつつ、 フットペダルで機材を操作して音やリズムパターンの原型を作り、後ろのテーブル に走り戻って曲に組み上げて行く、という感じだ。その音作りのパフォーマンスも 場を盛り上げるような芸を感じさせるものであり、観ていて面白いものだった。 アコーディオンを抱えての演奏も、ガラス瓶やCDケースを割ったり、ペットボトルを 潰して音を出すのと同じセンスで、それを弾いて(というより、音を出して) いた。 翻って Phil Parnell の演奏はむしろ音楽的なもので、fusion 的な electric piano のソロを聴かせたりも。この Herbert と Parnell のバランスも良かった ように思う。 といっても残念な点もあった。特にPAがあまりよく無かった。音が割れがちで、 レコードで聴くことができるような繊細な音作りの再現には程遠かった。特に、 最初の2曲くらいは、このステージはダメかもしれない、と思うほど酷かった。 もちろん、Herbert や Siciliano のステージ上のノリは、音の悪さを補う以上 のものはあったと思うけれど。それから、Agent Blue, _Blueprint_ (Life, LOWCD6, 1999, CD) も印象的だった、ギター奏者の Richard Vine が一緒に来なかったのも 少々残念だった。最近は一緒にやっていなかったのだろうか。 ほぼ最前列の中央という位置で見ていたので、パフォーマンスを間近で観て楽しむ ことができたけれども。後ろの方で見ていると、何をやっているのだろう、という 感じになるかもしれないなぁ、とも思った。もう少しパフォーマーと客の距離が 近いところの方が、楽しめるパフォーマンスだろうか、とも思った。 アンコールが無かったのも残念だったのだが。アルバムなどで聴いたことの無い 曲も多かったので、次のアルバムのリリースを楽しみにしたいところだ。 ライヴの後、すぐに Herbert のDJになった。確かに _Let's All Make Mistakes_ でのネタも使っていたけれど、house 的な要素は薄くて、もっとハードなノリの DJだった。リズムを崩すことも多くて踊り続けるという感じでもなかったし、 凄く気持ち良かったというほどではなかった。四つ打ちの上に、トランペットや サックスのソロをインターミックスする、という展開とか好きだったけれども。 23時過ぎに会場に着いた頃は、Little Creatures のライヴをやっていたのだが、 ちょっと外でゆっくりして、続く Karafuto (田中 フミヤ) のDJの後半の頃から フロアに入った。Herbert を意識した選曲もあったように思う。Herbert の前が Child's View (竹村 延和) のライヴだったのだけれど。ひたすら機材にかがみ 込んでいるという伝統的な electronica なパフォーマンスだっただけに、 Herbert のライヴが際立ったのかもしれない、と思うところも。26時くらいから 2時間が Herbert のライヴとDJだった。Herbert の後は Moodman のDJだったが、 Herbert に満足してしまったこともあり、疲れもあって、帰ってしまった。 2001/2/4 嶋田 Trout Fishing in Japan 丈裕