Corin Tucker (ex-Heavens To Betsy) が1990年代後半に結成した Slater-Kinney も、 それなりにメジャーになったものの、その最新作 _All Hands On The Bad One_ (Kill Rock Stars, KRS360, 2000, CD) は、もはや、名作の3rd _Dig Me Out_ (Kill Rock Stars, KRS279, 1997, CD) にあった活きの良さを感じることができない 出来だった。正直に言って、この界隈はひと段落ついてしまったかな、と思って いたところもあったけれども、僕が見落としていただけで、まだまだ続いて いたようだ。 Le Tigre _Le Tigre_ (Mr. Lady, MRLR-07, 1999, CD) - 1)Deseptacon 2)Hot Topic 3)What's Yr Take On Cassavetes 4)The The Empty 5)Phanta 6)Eau D'Redroom Dancing 7)Let's Run 8)My My Metrocard 9)Friendship Station 10)Sideshow At Free University 11)Dude. Yr So Crazy 12)Les & Ray - Produced by Chris Stamey and Le Tigre. - Kathleen Hanna, Johanna Fateman, Sadie Benning; Chris Stamey, Lake Lloyd, Tammy Rae Carland, Jen Smith. Le Tigre _From The Desk Of Mr. Lady_ (Mr. Lady, MRLR-14, 2000, CD) - 1)Get Off The Internet 2)Bang! Bang! 3)They Want Us To Make A Symphony Out Of The Sound Of Women Swallowing Their Own Tongues 4)Yr Critique 5)Gone B4 Yr Home 6)Mediocrity Rules 7)All That Glitters (Remix By Rachael Kozak) 1990年代前半に Heavens To Betsy や Bratmobile と共に Riot Grrrl の中心的な バンドだった Bikini Kill を率いていた Kathreen Hanna の新たなバンドが、 この Le Tigre だ。 正直に言えば、Bikini Kill は単調な金切り声による歌唱もあって、一本調子の パンクの範囲を越えていなかった、と思っている。しかし、このバンドは、 音作りが安っぽいながら打ち込みによるリズムになり、金切り声も控えめに、 落ち着いた声の掛け声が用いられるなど、曲の中に様々な「声」が聴かれる ようになり、ぐっと面白くなったように思う。 ただ、目新しい音かと言うと、それほどでも無い。ドライヴ感のあるベースライン、 粗く刻む (techno 以前を思わせる) 打ち込み、など、Digital Hardcore とかも 意識しているようであるが、1980年代初頭っぽくある。歌唱を除けば Joy Division や初期 Wire にも似たところがあるように思う。ちなみに、初めて1st アルバムを 聴いたときに僕が連想したのは、1980年前後に San Francisco, CA から出てきた 女性歌手をフィーチャーしたNew Wave バンド Romeo Void 。もしくは、ちょっと punk 風味の B-52's とか。意外にポップだ。アルバムの制作を手がけているのは、 1970年代末に登場し、punk 以降の初期の US indie シーンで活躍した Chapell Hill, NC 出身の dB's の Chris Stamey。その制作のセンスも あるのかもしれない。 去年末リリースされたシングル (ミニアルバム?) _From The Desk Of Mr. Lady_ は、 punk 色を薄め、サンプリングなどの手法への傾斜を強めている。しかし、1990年代の techno 〜 breakbeats 的なものからは遠い。スカスカポコポコの electro-pop 風の 曲 ("Gone B4 Yr Home") すらあって、それがまた良かったりする。 歌詞も結構面白く、有名人の名前を沢山折り込んだ、皮肉っぽい "Hot Topic" (_Le Tigre_ 所収) も良いのだが。一番笑ったのは、"Get Off The Internet"。 (_From The Desk Of Mr. Lady_ 所収) 「政治的であることって / 80年代、 もしくは90年代初頭っぽい / 私の友達はどこ? // (コーラス) インターネットを 抜けて! / 通りで会いましょう! / インターネットを抜けて! / 右翼をやっつけろ! // これは繰り返し / だけど何も変わってない / 私がおかしいの? / 私の友達は どこに行ったの?」 なんて歌詞を読むと、こういう1980年代の post-punk な 音作りもかなり意識的なのかな、なんて思ってしまう。 1980年代の post-punk にハマったことがある人ならなかり苦笑いしながらも 楽しめるだろう。もちろん、そういう文脈抜きでもかなり刺激的な音だと思う。 2001/2/24 嶋田 Trout Fishing in Japan 丈裕