Ketil Bjornstad _Grace_ (EmArcy (Norway), 013 622-2, 2001, CD) - 1)No Man Is An Iland... 2)Lovers' Infiniteness 3)The Bait 4)White 5)The Anniversary 6)Love's Growth 7)Song 8)Love's Usury 9)Naked 10)Grace 11)The Indifferent 12)Mystery 13)The Canonization 14)Take Flat Map... 15)Finale: No Man Is An Iland... - Music by Ketil Bjornstad. Musical arrangements by the group. Words from the poetry and prose of John Donne (1572-1631). Recorded live 2000/4/14. Recording engineer: Jan Erik Kongshaug. - Anneli Drecker (vocal), Bendik Hofseth (vocal,saxophone), Eivind Aarset (guitars), Jan Bang (live-sampling,treatments), Arild Andersen (bass), Trilok Gurtu (percussion), Ketil Bjornstad (piano). 1960年代末から Jan Garbarek、Arild Andersen、Terje Rypdal、Jon Christensen らと共に Norway の jazz シーンで活躍してきた piano 奏者 Ketil Bjornstad が、 Voss, Norway でのジャズ祭のために結成したプロジェクトがこの "Grace" だ。 そのジャズ祭でのライヴの録音である。Rainbow Studio でしっかり作り直されて いるようで、ほとんどライヴと感じさせない仕上がりだが。 ライナップは、Bjornstad と ECM レーベルに共演作こそ残していないものの、 同様に ECM で活動しているミュージシャンたちが中心。録音も、ECM の一連の録音で 音作りを知られる Jan Erik Kongshaug 。比較的オフビートな感じで詠唱する歌物が 多く、演奏はいかさか伴奏に引き気味。一番ソロが耳を惹いたのは Andersen の bass だろうか。もっと、ミュージシャンが表に出て派手にソロを取ったり掛け合いを するところを聴かせても良かったかな、とは思う。 この企画は17世紀の England の詩人 John Donne の詩に曲を付けるというもので、 歌手をフィーチャーしている。フィーチャーされた女性歌手は、少々意外なことに かつて「Norway の Cocteau Twins」と呼ばれた alternative rock/pop バンド Bel Canto の Anneli Drecker だ。Drecker がどう歌っているのか、というのが、 僕のこの作品の一番の興味だったのだが。new wave 的に歪んだ歌唱で ECM とは 違う世界に持っていってくれるかと思ったのだが、かなり素直に歌っている。 最初と最後を締める "No Man Is An Iland..." や "Song" (Andersen の bass との 絡みが良い) など、もっと地声で唸って欲しかったように思う。 対する男性歌手は、sax 奏者でもある Bendik Hofseth。folk 的という意味では Richard Thompson (ex-Fairport Convention) の歌い方をふと思い出させられた。 ("Love's Growth" とか。) しかし、やはりもう一癖あってもいいように思う。 1990年前後は US で Steps Ahead に参加していた saxophone 奏者だが、最近は Norway で活動しているよう。ECM には Arild Andersen のバンドで録音がある。 初めて音を聴いたが、ここで聴かれる音は、Garbarek 風の軽い感じの吹き回しだ。 Jazzland レーベルで Audun Kleive と活動する Jan Bang の効果音的な electronics 使いや、Eivind Aarset の歪んだ electric guitar の音使いも、非 ECM 的な試み かなか、とは思うが。4AD レーベルのプロジェクト This Mortal Coil や、Drecker が かつて参加していた Crammed Discs のプロジェクトの音を知っているだけに、 "Mystery" のような Aarset と Bang の音が表に出てくる曲でも、半端な印象は 否めない。もっと思いきって音を弄って欲しいように思う。 歌声にしても、電気的な音作りにしても、綺麗というか滑らかに過ぎる気がして、 もっと引っかかりのある作りにして欲しかったようにも思う。ま、This Mortal Coil 風であればいい、というわけじゃないけど。 この企画は好評で、その後、Drecker / Bjornstad / Bang のラインナップで再演も しているよう。最初のプロジェクトはこんなものかな、と思うところもあるし、 再演などを通して新たなプロジェクトなどへ展開していくと面白い音ももっと 出てくるように思うので、それを期待したい。 Drecker の Bel Canto は1980年代後半から1990年代前半にかけて Crammed Discs に 3枚のアルバムを残している。Cocteau Twins や Dead Can Dance と比較される ような音楽を演っていた。また、Drecker は、様々な近代の詩人の詩に曲を付けた Samy Birnbach & Benjamin Lew, _When God Was Famous_ (Made To Measure, MTM19, 1988, CD) や、Arthur Rimbaud の詩に曲を付けた Hector Zazou, _Sahara Blue_ (Made To Measure, MTM32, 1994, CD) など、Crammed Discs のミュージシャンの プロジェクトで、その歌声を聴かせてきた。(この _Grace_ への Drecker の参加で 僕が連想したのは、これらのプロジェクトだ。) Crammed Discs から離れた 1990年代後半から僕の視野の外に行ってしまったのだが、まだ Bel Canto としても 活動を続けており、Drecker はソロアルバム _Tundra_ (EMI Norsk, 2000) を リリースしていたよう。ソロアルバムで1曲制作したことを契機に Simon Raymonde (ex-Cocteau Twins) との duo のプロジェクトを始めているようで、Various Artists, _Sing A Song For You - Tribute To Tim Buckley_ (Manifest, 2000) に、duo 名義で "Morning Glory" を提供している。また、Raymonde が現在録音中のアルバムに Drecker は参加しているそうだ。 2001/6/20 嶋田 Trout Fishing in Japan 丈裕