1990年前後に活動した Germany の jazz / improv. のレーベル JMT の初期に リリースされ、CD化されずに廃盤になった一枚に、Jay Clayton / Jerry Granelli, _Sound Songs_ (JMT, JMT 860 006, 1986, LP) がある。 Jay Clayton は、Steve Reich の ECM や Nonsuch の一連の録音にも参加している 現代音楽の文脈でも活動する女性歌手 (というかヴォイスパフォーマー) だが、 jazz / improv. の文脈でも女性歌手4tetとでも言える Vocal Summit (Jeanne Lee や Lauren Newton も参加していた) などで活躍してきた。ちょっと澄んだ感じの 歌声を持つ歌手だ。 Jerry Granelli は San Francisco, CA, US を拠点として活動する drums / percussion 奏者で、Vince Guaraldi のバンドのメンバーとして1960年代に活動を 開始。その後、Denny Zeitlin / Charlie Haden とのトリオでも活動していた。 1980年代に入ると Ralph Towner / Gary Peacock と組んで活動している。 拡大編成による録音として、Ralph Towner, _City Of Eyes_ (ECM, ECM1388, 1989, CD) がある。これらの trio については、ECM からは Granelli 抜きの duo での録音が残っているが、Granelli が参加した trio での録音が無い。 そんな彼らの活動が僕の視野に入ってきたのは1990年代も半ば過ぎになってからで、 もちろん _Sound Songs_ は未聴なのだが。1990年前後に彼らが残した音源には、 面白いものが多い。というわけで、軽く紹介したい。 Quartett _No Secret_ (New Albion, NA017, 1988, CD) - 1)Intersection 2)Lonely Woman 3)Willis 4)Prism 5)Fortune Cookie 6)Entrances & Exits 7)Soundscape 8)Duality 9)Dance For Me 10)No Way Out - Recorded 1988/1. - Julian Priester (trombone), Jay Clayton (voice, Korg Digital Delay, Boss Octaver, chorus), Jerry Granelli (percussion, acoustic drums, EMU Systems (SP12, EMax)), Gary Peacock (bass). Jay Clayton / Jerry Granelli に加えて、ベテラン trombone 奏者 Julian Priester (彼の最初期の録音は、John Coltrane, _Africa Brass_ (Impulse!, 1961) だ。) と 1960年代の free jazz 期から活動する ECM の代表的な bass 奏者 Gary Peacock を 加えた4tet編成。 Clayton と Priester の掛け合いが、この作品の一番の醍醐味だろう。声を合わせ たり重ねたり、というよりも、掛け合うという感じ。もちろん、裏で弱い音を出して いるときもあるが。Clayton の歌声が途切れたところで、Priester が落ち着いた 音でソロを吹きだすようなあたりがかっこいい。 もちろん、Peacock も大人しく伴奏に徹しているわけではない、太い音でソロを取り Priester や Clayton に絡んでいく。特に、Priester との絡みは、落ち着いた低音の うねりという感じになって気持ち良い。 Granelli は手数も控えめに、間合いを取った、いささかオフビートな感じに叩いて いることが多い。それが、三者の掛け合いにアクセントをうまく与えている。展開は 遅めでゆったりしているが、適度の緊張感を保っているのが良い。ビート感は、 Peacock や Priester との掛け合いの中から湧き上がってくるという感じだ。 electro-acoustic な音処理は控えめ。ディストーション系の音は用いず、効果的に 残響を用いている。Clayton はディレイで自分の声を重ねていくのだが、厚くなる ことはない。録音のせいもあるのか、音の隙間が見えるような、擦れるような繊細な 音使いも生きた音作りになっている。ECM からリリースされても良いような清涼感を 感じる作品だ。ちなみに、リリースは、現代音楽のリリースがメインのUS西海岸の レーベル New Albion 。 僕が Granelli の作品 (といっても、単独リーダー作ではないが) を初めて意識して 聴いたのは、この _No Secret_ でだったのだが、今でもこの作品が最も魅力的だ と思う。まず聴くなら、これをお勧めしたい。 Jay Clayton _Live At Jazz Alley_ (ITM Pacific, ITMP970065, 1991, CD) - 1)Birk's Works 2)Once Upon A Summertime - The Meaning Of The Blues 3)Sunshower 4)My Foolish Heart 5)There Will Never Be Another You 6)But Beautiful 7)Equinox - Recorded live 1987/6. - Jay Clayton (voice), Julian Priester (trombone), Stanley Cowell (piano), Gary Peacock (bass), Jerry Granelli (drums). Quartett でもスタンダード曲を一曲、"Lonely Woman" (Ornette Coleman ではなく Horace Silver の曲) を演っていたわけだが、この約半年前のライヴ録音 (リリースは _No Secret_ の3年後) は、全曲スタンダードな歌ばかり。live electronics を 使わず、piano を加えたアコスティックな音作りにしている。Clayton の飛び跳ねる ようなスキャットに周囲も煽られるようにのる "Sunshower" (Kenny Barron) の ような曲もあるし、僕はそういう曲が好きだが。4ビートにしっとり歌う歌が多くて _No Secret_ と対称的な仕上がり。Quartett の裏コンセプト的な作品なのだろうか。 Jerry Granelli _One Day At A Time_ (ITM Pacific, ITMP970055, 1990, CD) - 1)Point Of Departure 2)Life Line 3)One Day At A Time 4)Helium Tears 5)Until Now 6)City Life 7)23rd & Cherry - Recorded 1988/11/21-25. - Jerry Granelli (drums,synth,drum machine); Ralph Towner (synth) on 1,2,3; Charlie Haden (bass) on 3,4,7; Julian Priester (drums) on 3,4; Robben Ford (guitar) on 3,4,6,7; Denny Goodhew (alto saxophone and clarinet) on 1,2,4,5. Jerry Granelli _Koputai_ (ITM Pacific, ITMP970058, 1990, CD) - 1)Koputai 2)Pillars 3)Haiku 4)I Could See Forever 5)Julia's Child 6)In The Moment 7) - Recorded 1988/11/21-25. - Jerry Granelli (drums,synth), Ralph Towner (synth), Charlie Haden (bass), Julian Priester (trombone), Robben Ford (guitar), Jay Clayton (vocal), Denny Goodhew (alto sax). Quartett, _No Secret_ に続いてリリースされたのは、約半年後の同じスタジオ セッションで録音された2枚だ。_One Day At A Time_ は部分編成での録音で、 Jay Clayton は参加しておらず、いささか地味な仕上がり。 _Koputai_ は Quartett の拡大編成版といえるもの。bass が入れ替わり、synth、 guitar、alto sax が加わっている。しかし、音が厚くなったというより、音色が 増えたという感じだ。特に、澄んだ synth の音や、軽めの sax の音が、前作に 比べて明るい色を加えているように思う。Ornette Coleman 的な sax の節回しに Haden らしい走るように唸る bass の "In The Moment" (Haden の曲だ) では、 若干歪んだ guitar の音色が割り込んでくるのも効果的なのだが、こういう曲の 勢いも _No Secret_ には無かった良さだと思う。 惜しむらくは、_No Secret_ に比べると録音がいまいち悪いこと。音の隙間を 感じさせるような作りの _No Secret_ に比べていささかノッペリした感じ。 live electronics の処理はもちろん、特に Towner の synth の音がペラペラに 聴こえる所など、これが ECM で録音されていたら、と思ってしまうのだ。 ちなみに、ジャケットや盤面の記載では収録曲は6曲だが、7曲収録されている。 (7曲目のタイトルが不明。) Jerry Granelli _A Song I Thought I Heard Buddy Sing_ (ITM Pacific, ITMP970066, 1992, CD) - I)His World 1)Wanderlust 2)Smoky Row 3)The Oyster Dance 4)Billie's Bounce II)Buddy's Journey 5)Coming Through Slaughter 6)In That Number III)Memories 7)Prelude To Silence: Shell Beach / Lincoln 8)I Put A Spell On You 9)Blues Connection IV)Epologue 10)Blues Connections (Reprise). - Produced by Lee Townsend. Recorded 1992/2. - Jerry Granelli (drums), Kenny Garrett (alto saxophone), Julian Priester (trombone), Bill Frisell (guitar), Robben Ford (guitar), Anthony Cox (bass); J Granelli (electric bass) on 2,5,6,9, Denny Goodhew (soprano saxophone) on 6. _Koputai_ から2年後にリリースされたこの作品は、4人のメンバーが残っている ものの、Clayton の歌声が無くなり、live electronics を使わなくなったという こと以上の変化がある。 Michael Ondaatje, _Coming Through Slaughter_ (1977) という New Orleans の ホーン奏者 Buddy Bolden の伝記的小説に基づくサウンドトラック的な作品で、 パンフレットには、曲の題名に合わせて小説の抜粋が添えられている。それを 意識したか、Blues や Funk からの影響が強い音作りになっている。Screaming Jay Hawkins の名曲 "I Put A Spell On You" も演っている。 Ralph Towner の代わりに Bill Frisell が入った、というのも象徴的なのだが、 guitar 2本をメインにフィーチャーして、かなりノリの良い音作りになっている。 ちょっとズレた fusion とでもいうか。Frisell はもちろん、Yellowjackets (LA の jusion のグループ) の Robben Ford の音も、コンセプトに合っている ように思う。このような音作りは、Germany 出身者にメンバーを全面的に入れ替え 管抜きで guitar 2本をフィーチャーした1990年代後半の Granelli のバンド UFB (2枚の録音 _News From The Street_ (veraBra / Intuition, vBr2146-2, 1995, CD) と _Broken Circle_ (Intuition, INT3501-2, 1996, CD) を残している) や、 その後の、Knitting Factory, NY 界隈のミュージシャンとのバンド Badlands (2枚の録音 _Enter, A Dragon_ (Songlines, SGL1521-2, 1998, CD) と _Crowd Theory_ (Songlines, SGL1526-2, 1999, CD) を残している) に繋がる ものだろう。未聴だが、最新作 _Music Has Its Way With Me_ (Traumton, 1999) では、さらに編成を変えて DJ もフィーチャーしているという。 Jerry Granelli _Another Place_ (veraBra / Intuition, vBr2130-2, 1994, CD) - 1)Opening 2)Hello Nellie 3)The Wheel 4)Hills 5)What'll I Do 6)Wood And Steel 7)Alambro 8)Time Recovered 9)Another Time, Another Place - Produced by Lee Townsend. Recorded 1992/11-12. - Jane Ira Bloom (soprano saxophone), Julian Priester (trombone), David Friedman (vibes, marimba), Anthony Cox (bass), Jerry Granelli (drums, electro-acoustic percussion). 続いて 1994 にリリースされたこのアルバムは、再び live electronics を使った 作品に戻った。guitar 2本の代わりに vibes が入り、sax の音色も Clayton の 歌声のように抽象的な感じで、時には live electronics で軽く歪められるような 感じもある。ビート感のある曲も良いが、ビートが抑えられ間合いを感じさせる 展開が良い。Prister の trombone が再び表に戻ってきた感じもあって、落ち着いた その音も気持ち良い。録音も ITM Pacific 時代の一連の作品よりぐっと良くなり、 Quartett, _No Secret_ ほどクールな感じではないが、とても近い音世界に 仕上がっている。ジャケットデザインが Steve Byram ということもあって、 JMT からリリースされていたような一連の作品とかなり似た雰囲気だ。_No Secret_ 並んでお薦めしたい。 ちなみに、この録音で聴かれる David Friedman - Anthony Cox の組合せは、その後、 Lee Townsend 制作 Intuition リリースによる accordeon をフィーチャーした 企画 Dino Saluzzi, Anthony Cox, David Friedman, _Rios_ (Intuition, INT2156-2, 1995, CD) と David Friedman, Anthony Cox, Jean-Louis Matinier, _Other Worlds_ (Intuition, INT3210-2, 1997, CD) へとも繋がっている。 2001/6/25 嶋田 Trout Fishing in Japan 丈裕