ECM レーベルなどに Mikhail Alperin (piano) との共演作を残していることで 知られる Arkady Shilkloper は、folk 的な要素を強く残した jazz / improv. 演奏を聴かせてくれる Russia 出身の horn 奏者だ。フリーキー音や強い音は あまり用いずに、丸くて柔らかい音で folk 的な旋律を吹くところが、彼の魅力 だと、僕は思っている。そんな彼の演奏を堪能できるソロアルバムを2作紹介。 Arkady Shilkloper _Hornology_ (Boheme, CDBMR809016, 1998, CD) - 1)He Descended From The Heaven 2)Talking To Myself 3)New Jerusalem Way 4)Virgin Ocean 5)Ostinato 6)Through An Electric Mirror 7)Tales Of Alexandra - Arkady Shilkloper (flench horn,flugelhorn,electronics). 彼の初ソロアルバムは、electronics を使った作品。単純な多重録音というの ではなく、サンプラーでリズムのラインを作ったり、サウンドプロセッサで 音色を変形したりしている。 といっても、音色弄りは元のホルンの丸い音を生かしたもので、ノイズ的な要素は あまり強くない。サンプラーの使い方も、techno 〜 breakbeats はものではない。 そういう点では、1990年代に出てきた jazz / improv での (live) electoronics の使い方とは距離があるのだが、それが逆に新鮮に聴かれる。刺激的な音という わけではないが、爽やかな horn の音色の軽快な節回しは B.G.M. にしていても 気持ちよいものだ。 しかし、electronics な処理をライヴで行っているのか (つまり live electronics なのか)、多重録音的に処理しているのかは、クレジットからは不明。もし、live electronics ならば生で観てみたいようにも思う。 Arkady Shilkloper _Pilatus_ (Boheme, CDBMR906063, 2000, CD) - 1)Dragon's Dream 2)Song For Everyone 3)Bazaar 4)Heightened Serenity 5)Dance Five 6)Shepherd's Tune 7)Useless Talk 8)Alpine Sketch 9)Funky-Etude 10)Elegy 11)Pilatus - Recorded 1999. - Arkady Shilkloper (alphorn Fis,F,G,corno da caccio,flugelhorn, flugelhorn con surd,horn,Wagner tuba). 続く第二弾のソロは Alphorn (いわゆるアルペンホルン) を大幅にフィーチャー したもの ("Pilatus" という題名も、Alphorn に因んでいる。) が、他にも様々な 楽器を用いている。やはり、多重録音・サンプラー使用の音作りなのだが、 1stほど音色はあまり弄ったように聴こえない。音色の変化は、むしろ楽器を持ち 替えることによって実現している、という感じだ。特に、1st で長く引き伸ばした 音とかが Alphorn で巧く置き換えられている、という感じだ。 後半になって一人 Balkan brass band 的な展開になる "Bazaar" (horn と flugelhorn を使用) は、実際は中央アジアあたりをイメージしたものだろうか。 キャッチーな旋律も軽快な "Song For Everyone" (Ravi ではなく ECM レーベルの Shankar の曲。flugelhorn と corno da caccio を使用。) も楽しいし、 Alphorn でリズミカルに "Take Five" 的な5拍子を展開する "Dance Five" (hatART にいくつか作品を残している Alphorn 奏者 Hans Kennel の曲) も、 気にいっている。 1st で用いた音弄りのギミックももっと使って欲しかったように思うが、そういった ものが無くても、展開や音の多様さで、_Pilatus_ の方が楽しめるように思う。 improv 的に electronics も用いて horn の音の可能性を追求したというような ものでも無いが、horn や Alphorn の音を丸い音色を堪能できる作品だと思う。 2001/7/29 嶋田 Trout Fishing in Japan 丈裕