Spring Heel Jack / The Blue Series Continuum _Masses_ (Thirsty Ear, THI570103-2, 2001, CD) - 1)Chorale 2)Chiaroscuro 3)Interlude 1 4)Masses 5)Cross 6)Salt 7)Medusa's Head 8)Red Worm 9)Interlude 2 10)Coda - Produced by John Coxon & Ashley Wales. - Tim Berne (alto & baritone saxophones), Guillermo E. Brown (drums), Roy Campbell (trumpet), Daniel Carter (flute,alto & tenor saxophones), Ed Coxon (violins), Mat Maneri (acoustic & electric viola), Evan Parker (soprano saxophone), William Parker (double bass), Matthew Shipp (piano), George Trebar (acoustic & electric double bass), John Coxon & Ashley Wales (all other instruments). 1990年代から jazz / improv. と electronica / breakbeats の折衷・融合的な 試みは多く行われてきている。しかし、多くは、オンビートな electric funk を electronica / breakbeats で再解釈するような試みだった。また、その一方で improv. における electro-acoustic な音弄りが「実験的」な electronica / breakbeats に置き換わったような試みもそれなりにあった。しかし、そんな中で、 咆哮するような sax やパーカッシヴに叩きつけるような piano などからなる 1960s free jazz 〜 1970s loft jazz に典型的で、1990年代に ecstatic jazz と 呼ばれたような音は、このような electronica / breakbeats とろくに遭遇すること なく今に至ったように思う。が、ついに、その試みを記録したCDがリリースされた。 このプロジェクトでの electronica / breakbeats 側は East London のユニット Spring Heel Jack (John Coxon & Ashley Wales) 。もともと Rough Trade 界隈の エンジニアで、Everything But The Girl の _Amplified Heart_ (1994) で 打ち込みを使った "Missing" 他3曲で制作に参加し、続く _Walking Wounded_ (1996) でも drum'n'bass 風のタイトル曲を制作。Everything But The Girl が dance 音楽に傾倒していくときに鍵となっていたユニットだ。その他にも、 Tortoise の remix や、_Extreme Possibilities_ 界隈の企画への参加もして いたけれども。Spring Heel Jack としての活動は、いまいちぱっとしなかったのも 事実なのだが。 一方、jazz / improv. 側は、ecstatic jazz の中心的な piano 奏者 Matthew Shipp がディレクションする Thirsty Ear レーベルの Blue Series のミュージシャンたち。 主に、New York を拠点に活動する free jazz / improv. のミュージシャンたちだが、 UK の Evan Parker のように Blue Series からのリリースが無いミュージシャンも 参加している。 多くの electro-acoustic の jazz / improv のように Spring Heel Jack が セッションに参加して音弄りしているのではなく、録音された音源を再構築する ような形で作られているようだ。しかし、演奏を「ネタ」にビートを構築する という感じではなく、各ミュージシャンのソロ演奏はそのまま生かされている。 最も好きなトラックは、William Parker のぶっとい bass の音をそのままループ して、その上に Daniel Carter の唸る sax を重ねた "Chiraroscuro" 。Parker と Carter の組み合わせは、In Order To Survive などのユニットで御馴染みのもの だけれども、Spring Heel Jack の構成によって持ち込まれた反復感によって、 むしろ持続的な強さを感じるようになったように思う。 一方で、Tim Berne と Evan Parker の演奏から組み上げた "Red Worm" は、 もちろん Spring Heal Jack による音響的な背景も二者の取り持ちに巧く機能 しているのだが、生演奏ではそうそうは実現しないであろう、吼える Berne の sax に、ノンブレスでピロピロいう Parker の sax が交わるだけでも、 スリリングな仕上がりだ。 全てのミュージシャンの演奏が使われているタイトル曲 "Masses" は、冒頭の Cecil Taylor のような Matthew Shipp の piano やそれに応じてチャカポコいう Guillermo E. Brown の drums 、途中の全員による強奏など、まさに、 Cecil Taylor Unit の試みを Spring Heel Jack の編集によって構成してみた、 とでもいうべき作り。笑えるというか、よく出来ている。ま、5分余りという 短さは、Cecil Taylor らしくないのだが。 派手な打ち込みのビートも無いし、音の変形もほとんどしてないし、breakbeats と いうより edit という感じなので、electronica / breakbeats ファンからすると 物足りない面もあるかもしれないが。edit のセンスはかなり良いと思うし、 十分に楽しめる作品になっていると思う。 2001/08/26 嶋田 Trout Fishing in Japan 丈裕