約一年前に出た本だが、遅れ馳せながら手に入れたので、軽く紹介。 Rick Poynor _Vaughan Oliver: Visceral Pleasures_ (Booth-Clibborn Editions, ISBN1-86154-072-8, 2000, book) Vaughan Oliver は写真家 Nigel Grierson とのデザインチーム 23 Envelope で 1980年代初頭に出てきたグラフィックデザイナー。1987年に Grierson 写真家 (Simon Larbalestier、Chris Bigg、Jim Friedman など) と協働を始め、 v23 名義での活動を続けている。そんな Oliver のグラフィックデザインの作品を 集めたA4大200頁余りの本で、全頁カラーで図版がふんだんに使われている。 1980年代初頭から最初期の数タイトルを除き 4AD (London, England の post-punk rock / pop のレーベル) のグラフィックデザインを手掛けてきたことで知られる わけだが、この本に載っている作品のほとんどが、やはり、4AD がらみのもの。 4AD レーベルのグラフィックデザイン本と言っていいくらいだ。 僕は、1980年代は4AD のレコードをよく買っていたし、そのジャケットのデザイン も大好きだったこともあり、その思い入れ込みで楽しめる一冊だ。ジャケットは いろいろな形で目にすることも多いけれども、プロモーション等のために作られて いるポスターは、なかなか目にする機会が無いので、こういう本でも観られるのは、 ファンとしてはありがたい。 デザインの形式としては、モダンというよりシュール。象徴的だったり非具象な 感じを強調するように拡大・変形されたりした写真の使い方もそうだし、 スクリプト的、装飾的なフォントをアクセントに使うようなタイポグラフィもそう。 しかし、1990年代半ばくらいから、作風も広がっているように感じる。サンセリフの フォントをきちっとレイアウトするような、モダンと感じるデザインも増えている ように思う。Russell Mills のような、同じ頃に出てきた似たような作風の デザイナーもいるが、以降、レコードジャケットのデザインに影響力のあった デザイナーだろう。 あまり 4AD レーベル以外の作品が無いデザイナーなのだが、確かに、写真に何が 写っているのか見易かったりテキストが読み易い、というデザインではないので、 レコードジャケットやアーティスト本以外に使いづらいような気もする。そんな 意味では、建築本のデザインを一冊手掛けている、というのは、ちょっと意外。 どうやら表紙と1枚4頁のリーフレットだけで、中身までは手掛けてないようだが。 学生時代の習作や、1982年の電球のパッケージデザインなど、最初期の音楽とは 関係ないデザインも載っているが、こちらは、資料的な意味以上のものはあまり ないように思う。 4AD レーベルのファンなら持っていて損はないように思うし、レコードジャケットの デザインに興味がある人にもお薦めな一冊だ。 2001/09/02 嶋田 Trout Fishing in Japan 丈裕