Noir Desir
_Des Visages Des Figures_
(Barclay, 589 275-2, 2001, CD)
- 1)L'Enfant Roi 2)Le Grand Incendie 3)Le Vent Nous Portera 4)Des Armes
5)L'Appartement 6)Des Visages Des Figures 7)Son Style 1 8)Son Style 2
9)A L'Envers A L'Endroit 10)Lost 11)Bouquet De Nerfs 12)L'Europe
- 1,2,9,10,11) Realises par Nick Sansano et Noir Desir.
3-8) Realises par Jean Lamoot et Noir Desir.
12) Realises par Jean Lamoot, Noir Desir et Akosh Szelevenyi.
- Bertrand Cantat (vo,g,moriyn khuur,harmonica,trombinette,didgeridoo,etc),
Denis Barthe (chorus,ds,perc,petit sampler,tambour marocain,crotales,etc),
Serge Teyssot-Gay (chorus,g,synth,citar,sampler,bariton g,etc),
Jean-Paul Roy (chorus,b,synth,gumbri,orgue,etc);
Nick Sansano (piano), Michelle Lewis (chorus), Manu Chao (g),
Romain Humeau (cor arglais, hautbois), Fabrice Gand (cor arglais, hautbois),
Akosh Szelevenyi (cl,ss,ts,kalimba), Bob Coke (gardon,tambourine,etc),
Brigitte Fontaine (voice).

スタジオアルバムとしては、_666.667 Club_ (Barclay, 533 442-2, 1996, CD) 以来
となる、Bordeaux, France の alt. rock バンド Noir Desir の新作は、ストレート
な rock 色が薄れて、抑えが効いた音になっている。特に、歌手の Cantat の歌声が
低く抑えられていて、呟くようなものも多く、直情的に叫ぶようなところが減っている
のが大きい。ちなみに、_666.667 Club_ の制作は Washington DC, US の hard core
バンド Fugazi の制作で知られる Ted Nicely だったが、今回は、Nick Sansano
(_Daydream Nation_ (1988) 〜 _Dirty Boots_ (1991) 時代の Sonic Youth の制作)
が、US側での制作を手掛けている。France 側の制作は、Brigitte Fontaine,
_Genre Humain_ (1995) を手掛けていた Jean Lamoot。

このアルバムがリリースされたのは、WTC, NY へのテロ攻撃が行われた9月11日。
"Le Grand Incendie" (「大災害」) という曲が、炎上する NY を予言するような
内容であったことが話題になったのだけれど。実際の曲はそんなスキャンダラスな
印象を与えるような煽るようなものではない。続く最初のシングルカット曲
"Le Vent Nous Portera" にしても、むしろ、繊細さを感じる guitar の軽く細か目の
音色に、単調に Cantant の抑えた感じの歌声が乗るというものだ。そういう抑制
された感もそれなりにカッコいいのだが、やはり、金属的な guitar のカッティング
に乗って突っ走る "Fin De Siele" (_666.667 Club_ 所収) のような曲が一曲くらい
欲しかったなぁ、とも思う。

そんな中での聴き物は、Brigitte Fontaine が参加した23分余りの大曲 "L'Europe"。
5拍子の緊張感を感じるようなリズムに、_666.667 Club_ にも参加していた
Akosh S. のリード楽器の東欧風の節回しのいななくようなフレーズが吹き荒れ、
その上に、Cantat と Fontaine の詩の朗読が乗っている、というもの。Cantat の
声も決してがなることなく抑えられているのが、逆に緊張感を高めているように思う。
もちろん、Fontaine のちょっと引っ掛かるような声の、妖しさも良い。ちなみに、
Fontaine の新作 _Kekeland_ (Virgin France, 2001) には、Sonic Youth や
Archie Shepp と並んで、Noir Desir も参加している。

こうして、このアルバムを聴いていると、1990年代前半を最後に、UK や US 発の
alt. rock の新作をほとんど聴く気がしないのに、Noir Desir を聴く気がするのは、
多分に Cantat の歌声に負うところが多いように思う。フランス語ということで
聴いていて意味が判るというわけではないが、思わず耳を止めてしまうような歌声だ。

Akosh S. Unit
_Kebelen_
(Universal Music Jazz France, 549 722-2, 2001, CD)
- 1)Korai 2)Magvak 3)Tan 4)Ota 5)Ek
- Produced by Akosh Szelevenyi.
- Akosh Szelevenyi (ts,ss,bcl,metal cl,gardon,fl,bombarde,kalimba,vo,tmb,tp),
Joe Doherty (vln,viola,as,bcl,fl), Bertrand Cantat (vocals),
Nicolas Guillemet (ss), Mokhtar Choumane (fl,ney,kaval), Quentin Rollet (as),
Bernard Malandain (db), Philippe Foch (ds,perc).

Noir Desir で、そのリード楽器の唸るような吹きっぷりで、緊張感を高めることに
貢献している Akosh S. こと Akosh Szelevenyi は、Hungary 出身で、1990年代に
入ってから France の free jazz / improv. シーンで活躍している。そのバンド
Akosh S. Unit には、Noir Desir の歌手 Bertrand Cantat もレギュラーで参加
しているのだが、その 3rd アルバムも、_Des Visages Des Figures_ に少し先行
してリリースされている。Noir Desir の "L'Europe" の原点とでも言える音だ。

基調となるのは、東欧のフォーク的なリード楽器やフィドルのフレーズを使った
free jazz で、テンションは高め。Akosh S. は、_Orleans_ (Rectangle, 1999) と
いう Albert Ayler トリビュート企画にも参加していたくらいで、いななくような
吹きっぷりを聴かせてくれる。対する Doherty も負けていない。Cantat も、
オープニングの "Korai" で、直情的な雄叫び (歌ではない) を聴かせてくれるし。
"Ota" のような静か目の展開になるときもあるが、それも、張り詰めたような感じだ。

ECM 的な音の多いように思う France の free jazz / improv. だが、ここで
聴かれるのは、むしろ、1970年代に BYG 界隈に残された free jazz の演奏に連なる
音のように思う。といっても、多くの free jazz と違い、後の編集が加えられて
いるようで、サンプリングというより効果音的なものも使われており、"Ota" などは、
かなり編集された電子音響的な音作りだ。その使い方も効果的だし、そういう所に
同時代性も感じる。

2001/10/14
嶋田 Trout Fishing in Japan 丈裕