東欧 Poland に、"Yass" と呼ばれる音楽のカテゴリというかシーンがある。 といっても、明確な音楽スタイルがあるわけでも無く、free jazz / improv. を ベースにしながら、英米の post/avant-rock や techno 〜 breakbeats からも 影響を受け、パフォーマンスやポエトリーリーディング、ビデオインスタレーション なども交えながら活動している一連のミュージシャンたちが、自分たちの音楽を "Yass" と自称しているのだが。その Yass のミュージシャンたちの拠点となる ウェブサイト ( http://www.yass.art.pl/ ) もある。そんな Yass について、 自分が聴いた範囲で、ざっと紹介したい。(ちなみに、ポーランド語のラテン文字 表記の補助記号は、都合により省略してある。) といっても、Yass の音盤を網羅的に聴いているわけではないのだが。今のところ 最も耳を惹いた音盤は、これだ。 Robotobibok _Jogging_ (Vytvornia Om, CD001, 2001, CD) - 1)Sonda - Jungle 2)N.O.L. 3)Maraton Tanca 4)Lincoln Continental 5)Podroz Do Meksyku 6)Piecioro Dzieci I Cos 7)Jogging 8)Piecioro Dzieci I Cos (live) - Produced by Tomasz Gwincinski. Recorded at Studio PiK, Bydgoszcz, 2000/4-6. - Artur Majewski (trumpet), Adam Pindur (saxophone,Moog), Maciek Baczyk (guitar,ARP Odyssey), Marcin Ozog (contrabass), Jakub Suchar (percussion). オンビートの演奏で、冒頭の "Sonda - Jungle" というタイトルにしても、細かく 刻むリズムは、人力の drum'n'bass というか jungle を意識しているのだろうか。 electric Miles の焼き直し、というよりも、keyboards の音色や guitar の 歪ませ方に、サイケデリックな印象を受けるので、Ponga (Wayne Horwitz 率いる US のジャムバンド) を連想させるような音だ。といっても、それほど迫力のある 演奏ではなく、ダウンテンポのときなど、緩過ぎと思う。アップテンポな "Podroz Do Meksyku" や "Piecioro Dzieci" のような曲の方が良い。こういう 曲はフロントの管やキーボードにもう一癖あると、ぐっと面白くなると思うが。 このアルバムが録音されている Bydgoszcz (ビドゴシチ) は、Gdansk (グダンスク), Pomorskie の南、Kujawasko-Pomorskie 県の中心都市で、Yass シーンの中心 ともなっているクラブ Mozg ( http://www.mozg.art.pl/ ) がある。 また、Mozg は Yass 関係のCDのリリースもしている。そんな Mozg の1990年代の 活動のドキュメントともいえる編集盤も出ている。 Various Artists _5 Lat_ (Mozg Production, 004, 2000, CD) - 1)Carmen (Marzena Pawlicka / Joanna Czapinska) 2)Andrzej (Mazzoll & Arhythmic Perfection) 3)Mars Bars (Teleecho) 4)Ostatni Raz (Trytony) 5)Fragment Koncertu (Sylvie Couvoisier & Tomasz Pawlicki) 6)Dialogi Na Tube, Kontrabass I Tasme (Zdzislaw Piernik & Slawomir Janicki) 7)Ayler's Song (Pieces Of Brain 2nd edition) 8)Ojczyzna Nasza Dobroc, Dobroc, Dobroc (Maestro Trytony) 9)Mozg (Kazik Staszewski) 10)Venus In Furs (Maslo) 11)The Identity Of Relative And Absolute (Tomasz Gwincinski / Peter Gonzales / Tomaz Pawlicki / Grzegorz Daron / Phillipa & Hariert) 12)Be Be Cia Cia (4 Syfon) 13)This Love Is Not Good For Me (Caridad De La Luz) 14)Unleashing The Dobermans (Barondown) 15)Lies (Tymon Tymanski) 16)Fragment Koncertu (Fred Frith) 全ての録音は、基本的に Mozg でのライヴ録音であり、音質はあまり良くない。 音がちょっとオフ気味で、迫力に欠ける。音が良ければもっと楽しめるような 気もするのだが、この音では、サンプラー盤としてもたいして使えないようにも思う。 資料的価値がメインだと思うが、ブックレットはポーランド語のみ。 Sylvie Couvoisier、Barondown (Joey Baron / Josh Roseman / Ellery Eskerin)、 Fred Frith といった、free jazz / improv シーンで既に知られた Poland 以外の ミュージシャンも収録されているが、中心となるのは、地元 Poland の Yass シーン を形成しているミュージシャンたちだ。 Mazzoll & Arhythmic Perfection や Pieces Of Brain は、Mozg を運営している Slawomir Janicki (bass) - Jacek Majewski (drums) が参加しているバンドだし。 (Maestro) Trytony は、上で紹介した Robotobibok, _Jogging_ の制作をしている Tomasz Gwincinski (guitar) 率いるバンドだ。Maslo は Tymon Tymanski (bass,guitar) 率いる Yass の中心的なバンド Milosc のサブユニットだ。こうして聴く限り、 意外と、jazz 的なイデオムを残した演奏が多いように思う。 1988年に Gdansk から出てきた Milosc は、Yass シーンをその始まりから引っ張って きたバンドだ。Poland の jazz レーベル Gowi から5枚のアルバムをリリースした後、 リーダーの Tymanski は自身のレーベル Biodro ( http://www.biodro.com/ ) を設立。 Mozg Production と並んで Yass の中心的なレーベルになっている。 Kury _V.O.L.O.V.I.R.U.S._ (Biodro, BRCD001, 1998, CD) - Tymon Tymanski, Piotr Pawlak, Jacek Olter; Olaf Deriglasoff, Jerzy Mazzoll, Leslaw Mozdzer, Tomasz Gwincinski, Jacek Siciarek, Radowan Jacuniak, Larry Okey Ugwu, Grzegorz Nawrocki, Miroslaw Rymarz, Michal 'Misiu' Jarzebski Biodro レーベルの第一弾は、Tymon Tymanski を中心とする pop trio、Kury の アルバム。安っぽい打ち込みやボコーダーも用いた pop で、18曲で約50分。 ブックレットからしても芝居かかったコミカルなコミックバンドといった感じで、 パフォーマンスとして観たら面白そうな気もするが。音楽的に特に斬新なことを しているわけではないので、CDで聴いても、という気もする。 試聴しかしていないが、Pogodno, _Pogodono_ (Biodro, BRCD006, 2000, CD) は、 むしろ alt. rock という感じだし (Yo La Tengo や Dream Syndicate と例えられて いるが…。)、こんな感じで、Biodro のリリースは、特に jazz / improv. に 限らないものになっているようなのだが。 Milosc & Lester Bowie _Talkin' About Life And Death_ (Biodro, BRCD005, 2000, CD) - 1)Venus In Furs 2)A Tribute To Drukpa Kunley 3)Maple Leaves 4)Duet 5)What If 6)Fukan Zazen-gi 7)Facing The Wall 8)Let's Get Serious 9)The Bardo Of Life 10)Impressions - Recorded 1997/7/9-10. - Lester Bowie (trumpet), Nikolaj Trzaska (alto & soprano saxophones), Maeiej Sikala (tenor & soprano saxophones), Leslaw Mozdzer (grand piano), Tymon Tymanski (double bass,vocal), Jacek Olter (drums). Biodro からの Milosc の第一弾 (6枚目のアルバム) は、Art Ensemble Of Chicago の Lester Bowie との共演盤。(ちなみに、Bowie が死ぬ前の録音。) Milosc と Bowie は、以前にも _Not Two_ (Gowi, CDG34, 1995, CD) という共演盤を リリースしている。_5 Lat_ では Maslo 名義で演っていた、Velvet Underground, "Venus In Fur" で幕を開けるが、基本的に jazz のイデオムが強い作品だ。 Bowie の吹きっぷりを支えるだけの演奏はしているが。コード楽器が piano で、 それがあまり滅茶苦茶しないので、いささか保守的に聴こえるところが難か。 Bowie と Mozdzer の "Duet" での piano はいい感じなのだが。それから、 John Coltrane, "Impressions" を reggae のリズムで演奏しているのも、途中の ちょっとした piano の外し具合といい、一発芸かもしれないが、とても良い出来 なのだが。あと一歩ふっきれれば、とても面白くなるのではないか、と思うだけに…。 正直言って、とても面白い、と強力に薦めたいと思うような音が出てきている わけではないが。Mozg や Biodro のような拠点となるクラブやレーベルもあり、 層も厚くなっているようだし、今後、この Yass 界隈から面白い音が出てくる ことを、期待したい。 2001/10/14 嶋田 Trout Fishing in Japan 丈裕