1980年代後半から1990年代前半にかけて活動した Munich, Germany の jazz の レーベル JMT は、同じ町の先輩レーベルの ECM や ENJA を受けて出てきた ような音作りやコンセプトを持つレーベルで、M-Base の活動拠点になるなど、 同時代的な活きの良い音を紹介していたのだが。配給元であった PolyGram の リストラによって、そのオーナー Stefan F. Winter は、今は Winter & Winter レーベルを設立、JMT 時代には無かった classical な要素も持ったレーベルとして 活動している。その Winter & Winter が JMT のカタログのCD再発を開始した。 初期の作品は、M-Base 関係でないものはあまり注目されず、消えてしまったもの もある。いささか地味な作品だが、そんな中からいくつか紹介したい。 Jay Clayton / Jerry Granelli _Sound Songs_ (Winter & Winter / JMT Editons, 919 006-2, 2001, CD) - 1)Four Tom-Toms 2)Goodbye Porkpie Hat 3)Togi 4)Joyous March 5)Somewhere Else 6)I'm Nobody 7)Forgotten Song 8)Everything Machine 9)Chrystals
- Recorded 1985/12. Jay Clayton (vocals), Jerry Granelli (drums,percussion). - Originally released as (JMT, JMT 860 006, 1986, LP). Julian Priester (trombone) と Gary Peacock (bass) を加えての Quartett, _No Secret_ (New Albion, NA017, 1988, CD) という名盤も残している duo。 Clayton は現代音楽 (Steve Reich など) でも知られる女性歌手で、ここでも、 スキャットというよりもっと抽象的な発声を聴かせるし、対する Granelli も オフビートな感じで叩く。jazz っぽさはほとんど無いのだが、ぽこっと Mingus の歌 ("Goodbye Porkpie Hat") が入ったりするのも良い。 間合い、というか、音数の割に空間を感じる音作りだ。Quartett で使っている live electronisc は使っておらず、自然な残響を生かした録音になっている。 それも良いのだが、まず Quartett の方を聴くのを勧めたい。それが気にいったら この盤に聴き進むのが良いだろう。 Jane Ira Bloom / Fred Hersch _As One_ (Winter & Winter / JMT Editons, 919 003-2, 2001, CD) - 1)Waiting For Daylight 2)Desert 3)A Child's Song (For Charlie Haden) 4)Miyako 5)Inside 6)Winter Of My Discontent 7)Janeology - Recorded 1984/9. Jane Ira Bloom (soprano saxophone), Fred Hersch (piano). - Originally released as (JMT, JMT 850 003, 1985, LP). Bloom は、飄々とした、というか、いさささクールな演奏をする女性 sax 奏者。 Lee Konitz や Jimmy Giuffre の流れを汲むようなところもあると思う。Bloom の リーダーで、この2人に bass - drums を加えた 4tet での録音も残している。 (Charlie Haden - Ed Blackwell を加えた _Mighty Lights_ (ENJA, ENJ4044-2, 1982/?, LP/CD)、Mark Dresser - Bobby Previte を加えた _The Red Quartet_ (Arabesque Jazz, AJ0144, 1999, CD) などがある。) ここでは、リズム隊がいないせいか、4tet よりも jazz 色は薄め。Wayne Shorter のカヴァー ("Miyako") もあるし、その逆、ちょっと free improv. 的な展開も 見せるときもあるが、基本的に旋律を静かに聴かせる感じ。Hersch の piano も、 タッチの柔らかい音で、あまりリズミカルに弾かないし。内部奏法らしき音も使うが、 基本的にメロディアスだ。落ち着いた室内楽的な音だ。 Jerry Granelli, _Another Place_ (veraBra / Intuition, vBr2130-2, 1994, CD) での Bloom の演奏とか好きだし、良いと思うときもあるのだが。Bloom の リーダー作を聴くたびに思うのだが、もう一歩踏み出すというか、外れた感じの ことをやるといいのにと思ってしまう。 Herb Robertson Quintet _Transparency_ (Winter & Winter / JMT Editons, 919 002-2, 2001, CD) - 1)Prolog 2)Floatasia 3)Flocculus 4)Transparency 5)They Don't Know About Me Yet 6)Enigmatic Suite 6-1)Part 1: Synergy 6-2)Part 2: Overcast 6-3)Part 3: A Little Ditty 7)Epilogue - Recorded 1985/4. - Herb Robertson (cornet, trumpet, flugelhorn), Tim Berne (alto saxophone), Bill Frisell (guitar), Lindsey Horner (bass), Joey Baron (drums, percussion). - Originally released as (JMT, JMT 850 002, 1985, LP). Robertson と Berne の2管の組合せの 4〜5tet というのは、Berne のリーダー作 でも沢山あって、基本的に相性は良いと思う。"Floatasia" のようにユニゾンで テーマを吹くような曲だと、Don Cherry - Ornette Coleman を連想したりもする のだが。 ただ、この作品は、単にフロント2管で引っ張っているわけでなく、それぞれの パートが立っているように思う。勢いで吹きまくっている、というより、全体と してよく構成されているように思う。(これは Robertson ならではか。) 特に、このアルバムで僕が好きなのは、Frisell の guitar と Horner の bass。 piano であったら平凡な jazz 5tet になっていたかもしれないところを、 Frisell のエフェクトを多用した guitar が救っている。Horner のぶんぶんうなる bass の音も負けてない。 これから聴こうという人へのとりかかりの一枚としては、ここで紹介した3枚は、 いささか小粒で、まず他のもっと良い作品を聴いて欲しい、と僕は思う。 ただし、さらに聴き進もうというのには、充分に薦められる内容だと思う。 2001/12/27 嶋田 Trout Fishing in Japan 丈裕