Locust
_Wrong_
(Touch, TO:51, 2002, 2CD)
- CD1-1)Heal 2)Make A Difference 3)Believe In The One 4)Sweet Sky
5)What Do You Care? 6)Separate 7)Wrong 8)Impossible Adventure 9)Haze
CD2-1)Pressence And Gifts 2)Create, Dissolve And Recreate
3)Faith Grows From Trees 4)Distopian 5)Strings That Bind Or Drop
6)Playing With Time 7)Night Navigation 8)Candle Wishes
9)Conversations Beyond The End Of The Sky
- Recorded and Produced by Mark Van Hoen 1998-2001.
- CD1) Holli Ashton (vocals), Lisa Millet (backing vocals),
Mark Van Hoen (synthesizers); Sarah Peacock (backing vocals) on 1;
Tara Patterson (backing vocals) on 6; James Wigrall (guitar synthesizer) on 5;
Vinny Miller (2nd lead vocal) on 8.
CD2) written by Mark Van Hoen.

Appollo や Warp、Rephlex、Touch といったレーベルを拠点に活動してきた UK の
techno のアーティスト Mark Van Hoen の歌物プロジェクト Locust の久々の新作は、
ちょっと意外なことに実験的というか音響的な electronica を多くリリースしてきた
Touch から。Locust 名義では、_Morning Light_ (Appollo, AMB7942CD, 1997, CD)
以来だ。

CD2枚組なのだが、少々変則的な構成。というのは2枚目のCDは、それだけで再生
されることは意図されておらず、CD1に収録されている音楽の背景音とでもいった
ものが収録されている。3〜4秒以内のズレの範囲内で、CD1の方を主のシステムで、
CD2の方を副のシステム (パソコンや隣室のシステム) で小さめ (3:1 程度) に
再生するように、という指示があるのだ。複数のCDを同時再生することを意図した
アルバム、といえば、alt. rock の文脈でも The Flaming Lips, _Zaireeka_
(Warner Bros, 9362-46804-2, 1997, 4CD) の4枚のCDを同時再生する作品もあった
くらいで、その手法自体はもはや実験的とかそういうものではないと思うが。

CD1の方は、1998年に録音した歌物のトラック。前作 _Morning Light_ は生楽器も
使われ比較的明るめな音作りだったし、フィーチャーされた歌声も素直で軽く感じ
られたのだが。この作品は、pop な旋律を残しつつも electronica 的要素が高く、
歪んだ音が多用され重め。女性歌手 Holli Ashton の歌唱も Sarah Peacock
(Seefeel, Scala) を少しハイトーンにしたいささかひっかかるような感じのもの。
Mark Van Hoen がプロデューサ兼準メンバーとして参加していた、1990年代後半に
活躍した (現在は解散) バンド Scala と非常に近い雰囲気に仕上がっていて、
Scala が好きな人にも薦められる内容だ。CD1だけを聴いていても、十分に楽しめる。

CD2の方は、いわゆる通奏低音 (ドローン) のような電子音や不明瞭な物音といった
音が収録されている。それだけ聴いても、ノンビートな電子音響作品という感じで
けっこう聴ける。オーディオセットでCD1を、同時に同じ部屋にあるパソコンでCD2を
再生して聴いてみたのだが、劇的にCD1の曲の聴こえ方が変わる、というわけでは
無かったけれど、ちょっと音の奥行きが深くなったような感じがした。曲の切れ目は
合わせてあるし、CD1の曲の展開と、CD2の電子音響のうねり具合も、それなりに
計算してあるように思う。その展開の微妙なズレ具合も良かったように思う。

CD2枚組にした必然性というのはそれほど強く感じないけれども、CD2枚同時再生と
いうコンセプトで終わらず、歌として普通に楽しめる作品だと思う。

2001/12/31
嶋田 Trout Fishing in Japan 丈裕