1990年代の分裂後の Yugoslavia の、Milosevic 政権下の抑圧の強い Belgrade,
Serbia で活動してきた独立系ラジオ局 Radio B92 は、地元の音楽の制作と
CDリリースも行ってきた。特に、Serbia だけでなく US, UK, France や Germany
などのアーティストも参加した house / techno 〜 drum'n'bass の編集盤のシリーズ
_Radio Utopia_ は、「透過的な国境を持つ電子的なグローバリズムとユートピア的
な音楽世界へのささやかな寄与」という政治的な意図を込めて制作していたという
( http://www.b92.net/thetensepast/music.html を参照)。

Various Artists, _Radio Utopija B92 1989-1994 _ (Radio B92, 1994, CD)
Various Artists, _Utopia Revisited_ (Radio B92, 1998, CD)
Various Artists, _Radio Utopia 1999 - Millennium Funk_ (Radio B92, 1999, CD)

の3枚のリリースがあるようだが、残念ながら僕は入手できていない。NATO による
空爆が行なわれ、Milosevic 政権によって Radio B92 が強制閉鎖された1999年の
_Millennium Funk_ のクレジットには、僕が知ったUK のアーティストの名として、
The Sabres Of Paradise, Red Snapper, E-Z Rollers, Buckfunk 3000 といった
名前が見られる。

Milosevic 政権崩壊後、Radio B92 は活動を再開し、Free B92 とレーベルの名前を
改めて、音楽制作/CDリリースも再開した。そして、_Radio Utopia_ シリーズの
第4弾としてリリースされたのが、この編集盤だ。

Various Artists
_Radio Utopia 4 - Belgrade Coffe Shop_
(Free B92, CD004, 2000, CD)
1)Svitac (Vanama) 2)To You (Speed Limit) 3)I Remember U (Vukan)
4)Nervous Lady (Jazzva) 5)Sila (Linear Draft) 6)Memories (It's All About Trip)
7)Parobrodom Uzvodno (Extravaganja) 8)Nebeska Vrata (Welljam)
9)Mala Paranoja (Vukan) 10)Beauty And The Liquid People (Modern Quartet)
11)Supernova Peva (Chiq Toxiq) 12)Slow Motion Helicopter (Teget)
- Compiled by Vladimir Janjic.

全て Serbia のアーティストによる曲で、様々なミュージシャンが参加している
ようだけれど、プロデュースなどのクレジットを見ると、ミュージシャンの重なりは
大きいようだ。

基本的に、1994年に始まった Crammed / SSR レーベルの名編集盤シリーズ _Freezone_
と共通する雰囲気を感じる。dance floor 向けというより、ambient / lounge 的な
編集で、特に、drum'n'bass の流行がひと段落した1998年の第5弾あたりから顕著に
なった jazzy だったり dubwise だったりする deep house 〜 downtempo breakbeats
とでもいった音作りだ。低音がダメということもなく、音作はもかなり洗練されて
いるように思う。

deep house 的な Speed Limit, "It's You" や Linear Draft, "Sila" のような
軽快さも好きだし、ambient techno 〜 IDM っぽさのある Welljam, "Nebeska Vrata"
も気に入っている。Modern Qartet, "Beauty And The Liquid People" の変な
リズムも面白い。

最も気に入ったのは、The Drutti Column のような guitar や、harmonica を
フィーチャーした Teget, "Slow Motion Helicopter"。バックのリズムの細かさと
ソフトさも、guitar や harmonica の音色に合っているように思う。

しかし、これで、_Radio Utopia_ シリーズは終了。副題の _Belgrade Coffe Shop_
を受けて、それがシリーズ化された。これは、社会情勢の変化を受けた、という
面も大きいように思う。Serbia 外のアーティストも参加しなくなったのも、
単に、Milosevic 政権が崩壊し、「透過的な国境」を強調する必要がなくなくなり、
むしろ地元密着を意識するようになったように感じられる。

Various Artists
_Belgrade Coffee Shop 2_
(Stereo Freeze / Free B92, CD302, 2001, CD)
1)Evening (Vukan) 2)Are You Ready (Speed Limit) 3)G-din Lakoprsti (Sova)
4)Steppin' Out (Darkwood Dub) 5)Kadett (Jerema) 6)Sea Pipe (Jazzva)
7)Water Element (Linear Draft) 8)Three Drops (Shazalakazoo)
9)Goodbye Jupiter (Modern Quartet) 10)Streetwise (Switch Mono vs Natural Born)
11)Shoobaryna Thema (Teget)

第二弾は、Free B92 傘下に作られた electronica/breakbeats 系のレーベル
Stereo Freeze から。Vukan, Speed Limit, Jazzva, Linear Draft, Modern Quartet,
Teget など第一弾の顔ぶれと重なりも大きく、deep house 〜 breakbeats を基調
とする音楽性も同じだ。

Belgrade の国際的な altenative music fest. である Ring Ring Festival に参加し、
Serbia の techno で最も成功したと言われるアーティスト Darkwood Dub も参加
していて、fusion っぽい guitar のフレーズが印象的な曲 "Steppin' Out" を提供
している。第一弾で最も印象的だった Teget も guitar をフィーチャーした曲
"Shoobaryana Thema" を提供しているのだが、ちょっと中近東〜インド的な雰囲気
になっていて、面白い。もちろん、deep house な Speed Limit や Jazzava も
気に入っている。

ちなみに、この2枚の編集盤に参加しているアーティストの中でアルバムを
リリースしているのは、僕が気付いている限りでは、Darkwood Dub と Vukan
(a.k.a. Wolfgang S.)、あと、Jazzva と Speed Limit がスプリット・アルバムを
出しているくらいだろうか。まだまだこれからのシーンだと思う。Belgrade 外の
シーンや他ジャンルとの交流を含めて、今後の展開に期待したい。

2002/03/02
嶋田 Trout Fishing in Japan 丈裕