Inna Zhelannaya _Inozemets (Farlanders)_ (GreenWave, GRCD-99-1, 1999, CD) - 1)Naberu Travy (Gathering Grass) 2)Letai (Fly) 3)Iz-Pod Svet Zarya (Twilight) 4)Pesnya Bez Slov (A Song Without Words) 5)Molchi (Keep Silent) 6)Obryadovaya (Easter Song) 7)Blok (Blok) 8)Severnye Tantsy (Northern Dances) 9)Zerkalo (Mirror) 10)Cherez Sadik (Through The Orchard) 11)Seroglazyi (Grey Eyes) 12)Kolybel'naya (Lullaby) 13)Mak (Poppy) - Produced by Inna Zhelannaya and Sergey Kalachev. - Inna Zhelannaya (vocals,guitar), Sergey Kalachev (bass guitar), Sergey Starostin (folk instruments), Sergey Klevensky (folk instruments), Pavel Timofeyev (drums). Inna Zhelannaya は、1990年代前半に Russia の rock バンド Allians の女性歌手 として活動を始めた。その Zhelannaya が、Allians の bass 奏者 Sergey Kalachev、 Allians にゲストとして参加していた folklore 楽器演奏家・歌手 Sergey Starostin (Misha Alperin / Arkady Shilkloper との folk jazz trio Moscow Art Trio での 活動でも知られる) らと結成したバンドが Farlanders だ。このアルバムは、その 1stアルバムだ。 Starostin と Kalavensky の folklore 楽器をフィーチャーしているだけでなく、 伝承曲を4曲も演奏しており、folklore を現代的な解釈で聴かせるバンドなのだが、 歌詞が聴いて分らないせいか、かなり rock 的に聴こえる。それが僕はとても気に 入っている。folklore をベースにする一方、革命前後の20世紀初頭に活躍した詩人 Aleksandre Blok の詩に基づいた "Blok" なんていう歌も歌っている。 Zhelannaya の歌声は、folklore 的というにはサラっとした (悪く言えばいささか 平板な) 歌唱だ。それが、凛とした印象があってカッコイイ。Joan Baez に比較 されることが多いようだが、背景の音作りもあって、僕は1980年代以降にUSに多く 出てきた女性 SSW を連想する。低く抑えた歌唱も強い感じで良いのだが、そこから 高音に舞い上がる所も良い (例えば、"Zerkalo (Mirror)")。"Iz-Pod Svet Zarya (Twilight)" のような伝承曲は歌詞の内容より声の響きで聴かせるという感じだし、 "Pesnya Bez Slov (A Song Without Words)" のような、Cocteau Twins 〜 Dead Can Dance 以降の dream pop 的な抽象的な歌唱を聴かせる時もある。それが、 また良いのだ。 しかし、Farlanders を魅力的にしているのは、Zhelannaya の歌唱だけではない。 Kalachev の金属的で打楽器的と感じる時すらある一方、唸るように歌う感じで リードを取るときも多い flet-less bass の演奏が、Farlanders の演奏の緊張感を 高めている。この bass の存在感は大きい。伝承曲 "Obryadovaya (Easter Song)" も、 folklore 楽器をフィーチャーしていなかったら、_Movement_ (1981) の頃の New Order かと思わせるような感じの演奏になっている。やはり、伝承曲の "Iz-Pod Svet Zarya (Twilight)" のアップテンポにハチロクのリズムを刻む ファンキーなベースラインも強烈。クレジットが無ければ伝承曲とは気付かない程だ。 Pavel Timofeyev のドラム演奏はそれほど強くないが、多用するハチロクのリズムを 締めている。Kalachev を中心とするこの音作りが、Farlanders を単なる folklore を現代的な解釈で演奏するバンド以上のものにしていると思う。 Starostin は、folklore な楽器演奏という面では Farlanders の folklore 的な 面を担っていると思う。しかし、歌唱という点では、Moscow Art Trio などで 聴かれるものより歯切れ良く rock 的だ。時に高音でビーピー、時に柔らかい音色で 響く木管楽器の音色と並んで folklore 的な要素といえば、ハチロク (8分の6拍子) のリズムの多用だろうか。冒頭の5曲、ハチロクのリズムで畳み掛けてくるので、 その印象も強烈だ。それも、Farlanders の個性になっていると思う。 金属的な fletless bass のカッティング、バックで高音で響く Zhelannaya の コーラス、平板に詠唱する Starostin、時折ピーピーと切り込んでくる folklore 楽器の響きからなる "Obryadovaya (Easter Song)" が、Farlanders の中でも 最高の一曲だろう。 今まで聴いた Russia の pop / rock バンドの中で、最も楽しめた一枚。英米の indie rock / pop を聴いてきたような人にも薦められるアルバムだ。 Inna Zhelannaya & Farlanders _Moments: Live In Germany_ (GreenWave, GRCD-2000-2, 2000, CD) - 1)Do Samogo Neba (Up To The Sky) 2)Vir-Vir (Vir-Vir) 3)Iz-Pod Svet Zarya (Twilight) 4)Tuman (Fog) 5)Obryadovaya (Easter Song) 6)Seroglazyi (Grey Eyes) 7)Cherez Sadik (Through The Orchard) 8)Pod Kievom (Near Kiev) 9)Naberu Travy (Gathering Grass) 10)Sestra (Sister) 11)Kolybel'naya (Lullaby) 12)Mak (Poppy) - Recorded live in Bremen, Germany on 1999/10/24, except 2,8,11) Recorded live in Bochum, Germany on 1999/10/26, 10) Recorded live in Prague, Czech on 2000/4/4. Produced by Inna Zhelannaya, Sergey Kalachev, Alexander Cheparukhin and Ilya Khmyz. - Inna Zhelannaya (vocals,acoustic guitar, tambourine), Sergey "Grebstel" Kalachev (6-string fretless bass), Sergey Starostin (vocals,clarinet,rozhok,kaliuka,prosvirlka), Sergey Klevensky (clarinet,zhaleika,kaluika,salgflojt,gaida, low whistle,hulu-se,vocals), Pavel Timofeyev (drums), Alexander Cheparukhin (darbouka,djembe). その Farlanders が1999年に欧州ツアーした際の評判の良かった Bremen でのライヴの 録音を中心に構成したライヴ盤もリリースされている。_Inozemets (Farlanders)_ からの曲が中心だが、伝承曲が多めで7曲を占めている。新曲が少なくて残念だ。 "Do Samogo Neba (Up To The Sky)"、"Vir-Vir (Vir-Vir)"、"Sestra (Sister)" は _Inozemets (Farlanders)_ の前の、Zhelannaya のソロアルバム _Vodorosl'_ に 収録された曲なのだが、これらなどは、この _Moments_ の方が遥かに良いように思う。 live の勢いは若干あるように思うけれども、mini disc による録音ということで 音が悪いなと感じるときもあって、相殺だろうか。しかし、"Sestra (Sister)" や "Mak (Poppy)" のような演奏の勢いは好きだ。スタジオ盤と同じくらいの切れ味の 演奏をライヴで出来る、という点では、一度、是非ライヴを観てみたい。 1990年代前半に録音された、Farlanders 関連の音盤も、これらに合わせて一緒に紹介。 Mari Boine / Inna Zhelannaya / Sergey Starostin _Winter In Moscow_ (JARO, JARO4235-2, 2001, CD) - 1)Das Aiguun Cuozzut 2)Pjesna Ljesorubov 3)Korridorsangen 4)Sjestra Maja Notsj (Inna Zhelannaya & Allians) 5)Vozlje Tvojej Ljobvi (Allians) 6)Odinotsjestvo-Sestritsa (Andrej Misin) 7)Roahkkadit Rohtte Luodi, Manazan (Mari Boine Band) 8)Balada O Gorje (Sergey Starostin & Allians) - Mari Boine (vocals), Gjermund Silseth (bass guitar,percussion,vocals), Roger Ludvigsen (guitars,percussion,vocals), Helge Nordbakken (percussion,vocals); Igor Zuravljev (vocals), Konstantin Baranov (guitar), Vladimir Misarzjevskij (percussion), Jurij Kistjenjev (drums), Sergey Kalachev (5-string fretless bass guitar); Inna Zhelannaya (vocals), Sergey Starostin (vocals,rozjok), Andrej Misin (vocals,keyboards), Narodnyj Prazdnik (vocals); Konstantin Gavrilov (keyboards), Muratsjeldi Bajrambjerdeijev (gidzjak). - Originally released as _Mote I Moskva_ (BMG, 74321-10176-2, 1992, CD) except 6). Farlanders の前身バンドとも言える Allians は何枚かアルバムをリリースして いたようだが、現在はいずれも入手困難になっている。そんな1990年代前半の Allians の活動を垣間見ることができるCDが Farlanders の欧州盤をリリース している Germany の world music 系のレーベル JARO から再発された。 (ちなみに、6曲目は "Starik (Gamlingen)" から差し替えられている。) Norway の Sami (Lapland の民族) の女性歌手 Mari Boine の率いるバンドが Russia の rock バンドと共演するという Norway の Radio Channel 2 での "Joik in Moscow" (Sami 系の folklore の詠唱歌唱のこと) という企画番組の ために録音 (1〜3曲目) を中心に、そのセッションに関わったミュージシャンの 音源を1曲ずつ収録した企画盤になっている。 通して聴くと、やはり最初の3曲が聴き所だと重う。共演の形の録音がこれしか 残っていないのは、少々残念。Farlanders でも鍵を握る Kalachev の bass の ブリブリいうビートの上に、Boine と Starostin の folklore 的な詠唱が交差する "Das Aiguun Cuozzut" がこのCDのベストトラックだろうか。"Pjesna Ljesorubov" にしても、Allians 〜 Farlanders 的な曲の上に、Boine の詠唱と accordion が 入るもの良い。ビートが無く詠唱中心の "Korridorsangen" も悪くはないが。 残りの曲は、参加ミュージシャンの顔見せという感じで、いささか散漫な印象もある。 ここで Allians の演奏を聴く限り、Farlanders とあまり変わらなかったのかな、 と思う。Kalachev の bass の演奏はこの頃から変わらないと思う。Zhelannaya も Starostin もフィーチャーしていない Allians の "Vozlje Tvojej Ljobvi" では、 Igor Zuravljev という男性歌手をフィーチャーしている。声量はあるが、いささか マッチョというか大袈裟な印象もある。Zhelannaya をフィーチャーした "Sjestra Maja Notsj" (Farlanders で "Sestra" として演奏している曲) にしても、 pop / rock 的な過剰さがある。Farlanders で焦点が合ったという感じなのだろうか。 Inna Zhelannaya _Vodorosl'_ (General, GR95056CD, 1995, CD) - 1)Sestra (Sister) 2)Tol'ko S Toboi 3)Ballada 4)Dal'she 5)Seroglazyi (Grey Eyes) 6)Kolybel'naya (Lullaby) 7)Iz-Pod Svet Zarya (Twilight) 8)Ivan 9)Vir-Vir (Vir-Vir) 10)Mama 11)Do Samogo Neba (Up To The Sky) - Recorded 1994/8. - I. Zhelannaya (vocal,accoustic guitar), A. Miansarov (keyboards,computer), S. Grebstel' (bass,percussion), S. Berezkin (guitar), A. Kobzon (drums), S. Starostin (folk instruments), I. Ksenofontov (percussion), O. Il'darova (harp), A. Avramenko (violin), I. Dzhavad-Zade (drums,percussion), I. Zhuravlev (guitar). Zhelannaya は Farlanders の結成以前に、ソロアルバムを Moscow, Russia の レーベル General からリリースしている。Kalachev (ここでは、Grebstel' 名義) や Starostin も参加しており、Farlanders でも演っている曲が半数以上を 占めている。しかし、最初にこのアルバムを聴いていたら、Farlanders へ聴き進ま なかったように思う。同じ曲を Farlanders の演奏のもとと聴き比べると、こちらの 方が印象が薄い。 Kalachev の bass は控え目。strings もフィーチャーしている。band のアンサンブル を重視した Farlanders に比べ、Zhelannaya がぐっと中心に来ていて、folk rock 的 というか singer song writer 的な作品に仕上がっている。それが僕には合わない のかもしれない。 2002/03/10 嶋田 Trout Fishing in Japan 丈裕