The Black Sea Orchestra _The Black Sea Project_ (Lyra, ML0660, 1998, CD) - 1)Horum Istanbul 2)Paramashivam Smile 3)Tekez Zortalatmasi 4)Folk Song 5)Moving Wagon - Recorded live in Istanbul on 1996/10/26. - Ivo Papasov (clarinet), Ergun Senlendirici (trumpet), Floros Floridis (soprano sax,bass clarinet), Alexander Alexandrov (bassoon), Anatol Stefanet (viola), Nariman Umerov (accordeon), Enver Izmailov (electric guitar), Harry Tavitian (piano), Zurab Gagnidze (electric bass), Akay Temiz (drums,percussion), Okay Temiz (percussion,drums). 環黒海諸国の jazz / improv. シーンで活躍するミュージシャンを集結させた jazz ensemble の録音がリリースされている。東欧〜バルカンの jazz / improv. をそれなりに追いかけているなら一度は目にしたことはあろう有名所がずらりと 顔を揃えている。electric guitar ではなく electric bass が鍵を担っている ように思うが、演奏は George Russell 以降の electric な jazz big band が ベースにあるだろう。面子から期待されるほど音や展開は凄いことになってない、 というのも確かなのだが。貴重な顔合わせの記録にはなっているだろう。 題名からも予想付くが、Izmailov のアルバムで必ずように聴かれるテーマからなる "Folk Song" が最も Balkan 〜 Turkey 的な要素を感じさせる。全体での演奏が ほとんど無いおかげで、比較的小回りを生かした展開に聞こえる。Ismailov の guitar ソロも良いし clarinet (おそらく Papasov) の clarinet のソロも良い 感じだ。このテーマを管のユニゾンでやったらどうなるのだろう、とか思って しまうところもあるが。 Okay Temiz による "Tekez Zortalatmasi" も、出だしは Balkan 〜 Turkey 的な リズムや節回しが、jazz big band な派手さで展開されるところは好きなのだが。 編成が大きくなって、ソロ回しとかするようになると、いまいち鋭さが無くなく なってしまうのかなぁ、と思うところも。 あまり Balkan 〜 Turkey 的な要素が無い曲の中では、アップテンポなリズム隊と 少し緩めの管や viola との多層性を感じる音構成が Ornette Coleman 風に感じる Floridis による "Moving Wagon" が好きだ。 (_The Black Sea Project_ のCDでは、ミュージシャンの名前に、あまり一般的では ないラテン文字表記が使われているので、ここでは一般的な表記に改めておいた。) ちなみに、このアルバムは Greece 出身の Floros Floridis の制作でリリース されている。Floridis は1970年代末から Sakis Papadimitriou (piano) らと Greece の jazz / improv. シーンで活躍してきた sax 奏者だ。このCDをリリース している Lyra は folk 系のリリースを中心とする Greece のレーベルだ。 このアルバムはこの録音の後に死亡した Turkey 出身の trumpet 奏者 Ergun Senlendirici に捧げられてる。Senlendirici は Okay Temiz の Magnetic Band のメンバーだった。その Okay Temiz は1960年代末から Turkey で活躍し、 Don Cherry との多くの共演で知られる。(_Live In Ankara_ (Sonet, 1969) (_The Sonet Recordings_ (Verve (Sweden), 533 049-2, 1996, 2CD) に収録) や、 Don Cherry, _Dona Nostra_ (ECM, ECM1448, 1993, CD)。) Akay Temiz も Turkey 出身だ。 Ivo Papasov は1990年前後に UK の folk 〜 world music 系レーベル Hannibal から2枚のアルバムをリリースしている Bulgaria の clarinet 奏者だ。Balkan 的な節回しと変拍子の "wedding music" を演奏するバンド Wedding Band を 率いている。 Alexander Alexandrov は Russia の bassoon 奏者で、Sergey Letov らとの3人組 jazz / improv. のバンド Tri-O での活動で知られている。 Anatol Stefanet は Moldova の folk-influenced な jazz / improv. trio、 Trigon の violin / viola 奏者だ。 Enver Izmailov は Crimea Tatar 系で、Uzbekistan 生まれで現在は Ukraine で 活動する guitar 奏者。中央アジア的〜バルカンな節回しも生かしたタッピング演奏 が特徴的で、Enver Izmailov Trio, _Minaret_ (Boheme, CDBMR902037, 1999, CD) は、 お薦めの一枚だ。Nariman Umerov も Uzbekistan 生まれで現在は Ukraine で 活動する Crimea Tatar 系のミュージシャンのようだ。 Harry Tavitian は1980年代から UK の Leo レーベルが紹介してきた Romania の (Armenia 系の) jazz piano 奏者だ。 Zurab Gagnidze は Georgia の Adio という jazz band のメンバーだったよう。 (未聴だが)。 このような「国際的」なビックバンドは、国際ジャズフェスでその場限りで結成 されることが多いのだが、この The Black Sea Project は、活動をそれなりに 継続している、というのも興味深い。メンバーも入れ替わっているわけだが、 Bulgaria の Fairy Tale Trio の Anatoly Vapirov / Theodosii Spassov / Stoyan Yankoulov や Russia の VolkovTrio の Vladimir Volkov が参加していた こともあるようだ。 2002/04/25 嶋田 Trout Fishing in Japan 丈裕