Matthew Herbert Big Band Liquidroom, 新宿, 2002/08/18, 20:00〜24:00 - Jamie Lidell, Max Tundra, Matthew Herbert Big Band. post-electronica というより、パフォーマンス性の復権を高らかに宣言するかの ようなライヴだった。1〜2年前くらいまでは、electronica 系のライヴであれば、 携帯PCやキーボード、エフェクタ類の機材の前に屈み込んでやる、というのが お決まりだった。それは、もともとは、rock / pop に多いエンターテインメント性 あるステージングに対する批判、という面もあった。しかし、1990年代末には それは既にお約束になってしまっていたと思う。 思えば、1年余り前のライヴ (Liquidroom, 2001/2/2) での、竹村 延和 の機材に 向かうだけの従来型のライヴ・パフォーマンスと、Herbert with Dani Siciliano の パフォーマンス性を意識したサンプリング音源のライヴでの生成や機材や楽器の 操作に、時代の変化を感じたものだった。そして、Radio Boy 名義の Matthew Herbert のパフォーマンス (Liquidroom, 2001/11/30) では、そのパフォーマンス性に 社会性、メッセージ性を持たせる試みすら見せてくれた。しかし、今年に入って からのリリースを聴いていると、Herbert も旬を過ぎ初めているかな、と思うところ もあった。しかし、今回のライヴはまだ暫らくは行かれそうだとも思ってしまった。 今回のライヴは、Matthew Herbert だけでなく、前座の2組のミュージシャンも techno 〜 electronica 的な文脈から出てきていながら、ステージ上で単に機材に 屈み込んでいるだけでなく、そのパフォーマンス性に意識的なミュージシャンが 揃っていた。それも、単に rock / pop における歌手、guitar 奏者、keyboard 奏者 の身振りを復活させた、というより、electronica 以降を感じさせるものだった ように思う。 Jamie Lidell の主なサンプリング音源は、声でリズムを刻む human beatbox や 歌声であり、pop / rock 的な歌手の身振りを復活という面も感じられた。 もちろん、声からビートを作ったり、一人で声を重ねたり、2本マイクで音をタブ らせたり、と electronica 的な面を楽しませてもくれたが。歌も巧く、アカペラで 1曲を決めたり、Herbert の Rhodes の伴奏で1曲を決めたり、ビニール傘を身振りの 小道具に使ったり、と、こなれたパフォーマンスで楽しませてくれた。 一方、Max Tundra の方は、むしろ、楽器演奏の身振りの復活、という感じだった のだが、ちょっとぎこちなかったかなぁ、とも感じてしまった。 で、Matthew Herbert Big Band だが、UKから連れてきたミュージシャンと日本人 ミュージシャンの混成で、trombone 4、trumpet 3、sax 5, piano, bass, drums, conductor, electronics (Matthew Herbert), vocal (Dani Siciliano) という 編成だった。Matthew Herbert が中央に立ち、そこに立てられたマイクからの音 だけでなく、big band の演奏をリアルタイムで弄るという演奏だった。 正直に行って、最初のうちはいまいちに感じた。big band の音が厚いので、 あまり live electronics の音弄りが目立たず、強い必然性が感じられないのだ。 5tet くらいの小編成の ensemble で音の隙間を生かした演奏の方が、良かったの ではないか、とも思った。あと、がっちり作曲された曲で、brass や sax にソロを 取らせることはほとんど無く、即興などの余地が無かったわけだけど、Herbert 自身 を含めて、もっと各ミュージシャンがソロを取るようにして良かったようにも思う。 Glenn Miller 風との謳いだったが、もっとモダン。比較的抽象的な旋律に、 反復感を強調した感じなどは、悪くなかったけれども。 前半はちょっと物足りなかったわけだが、後半に入って、ぐっとよくなった。 自分だけでなく、brass や sax のミュージシャンにも新聞紙を破らせ、その音で 組みたてた曲を背景に、Dani Siciliano に歌わせた曲など、まだ曲として こなれていなかったように思うけれど、パフォーマンス的な面白さの可能性を 感じさせてくれた。続くアンコール前最後の、Herbert のスタンダード・ナンバー となった感もある "Cafe De Flore" も、さすがにアレンジも良かったし、 brass や sax の非常に短いソロを回すようなパフォーマンス的な面白さもあった。 全ミュージシャンの mouth percission から始まるアンコールの "Foreign Bodies" も Dani Siciliano をフィーチャーして、ノリ良く多いに盛り上がった。2回目の アンコールは用意していなかったようだが、さっと機材を軽く設定し直して、 big band 以前から一緒にやっている Phil Pernell (piano)、Dani Siciliano (vocal) に、勝手を知る sax と trumpet の2人を加えた小編成で "Leave Me Now" を。 リハーサル無しだったようだが、ここでは、sax と trumpet もアドリブを見せたり、 と、むしろライブ感も一層増した良いステージになったように思う。 こんな感じで、"Cafe De Flore" あたりから、ミュージシャンも客もノッテきた ように思う。Herbert が以前からやっている曲で、客が知っている曲ということも あったと思うし、Herbert 側としても曲の扱いにこなれている、という感じがした。 しかし、最後の盛り上がりが良かっただけに、もっと長く演奏して欲しかった。 jazz big band としては、正直に言って、欧州に多くあるコンテンポラリーな jazz big band に学ぶ所もあるんじゃないか (特にソロの使い方)、と思う一方、 下手に学ばない方が面白くなりそうとも思ってしまう (electric な楽器の使い方に rock からの影響が大きいから)。Matthew Herbert 的な live electronics 使いと big band の組み合わせについては、まだまだ先を予感させるものがあったし、 焦らずにこれからもこの試みを継続していって欲しいように思う。 Herbert の他にも Jamie Lidell のような試みも出てきているし、もう暫らくは、 このようなパフォーマンス性を生かした面白い試みが出てくるのだろうか、と 思わせてくれたライヴだった。 2002/08/20 嶋田 Trout Fishing in Japan 丈裕