Scion _Arrange And Process: Basic Channel Tracks_ (Tresor, 200, 2002, CD) Basic Channel は、音のテクスチャー感を強調するような minimal techno を 主にリリースしてきた、1993〜1995年に Berlin で活動した Mark Ernestus と Moritz von Oswald (a.k.a. Maurizio) のレーベルだ。その音源を DJ mix したCDが、 Berlin の老舗 techno レーベルの200番目のタイトルとしてリリースされている。 mix を手掛けたのは、Rene Loewe (a.k.a. Vainqueur) と Pete Kuschnereit (a.k.a. Substance) の2人からなるユニット Scion 。共に、Basic Channel の 後継レーベル Chain Reaction を拠点に活動しており、1998年8月の日本での Chain Reaction のイヴェントでも、メインのDJとして来日していた。 音源は Planet E (Carl Craig のレーベル) からリリースされた Basic Channel 絡みの音源や、Basic Channel 系の兄弟レーベル Rhythm & Sound からリリース された音源も含まれているが、Basic Channel の音源が主に使われている。 Basic Channel のCD _BCD_ (Basic Channel, BCD, 1995, CD) と聴き比べていると、 単純に脈動するような元の音源が重ね合わせられ、dubwize さが際立だたせられ、 複雑に波打つようになっているのが、面白い。 ちなみに、収録された約55分の音は、9つのパートに分けられているが、それぞれに タイトルは付けられていない。 ちなみに、この DJ mix は、Live というシステムを用いてHDD編集で作られている。 こういうタイミングをぴったり合わせたリズムというか波の重ね合わせも、HDD編集 ならではと思う。1998年の来日イヴェントでは、タイミング合わせに失敗して リズムがぐちゃぐちゃになったことがそれなりにあったことを、ふと思い出した。 HDD編集による DJ mix といえば、Richie Hawtin, _DE9: Closer To The Edit_ (NovaMute, NOMU90CD, 2001, CD) も、オープニングを始め Basic Channel の 音源が大きな役割を担っている。Basic Channel の最低限の脈動とでもいう音は、 HDD編集の素材にうってつけなのかもしれない。しかし、その一方で、_BCD_ が リリースされた当時、「CDで聴いてどうする」という反応が少なからずあった ことを、僕は思い出す。正直に言って、僕も当時はそう思った。なぜなら、 Basic Channel の12"は、アナログ的な面が強調され、針によるトレースノイズも 含めてDJ用の素材か音を発するオブジェのように捉えられていたからだ。音素材 という面ではその当時と連続性があるけれども、HDD編集によるDJ mix CDという アナログとは対極的とも言えるものになっている、というのが、アナログ / デジタルの対比のイデオロギー的な面を示されたようで、とても感慨深く思った。 2002/11/17 嶋田 Trout Fishing in Japan 丈裕