2002年にリリースされた新録の中から10枚を選ぶのが厳しかったので、ここ2〜3年の 新録リリースで2002年に落穂拾いしたものも含め、その中から選んだ10枚。 第一位: Patrick Bouffard, _TranSept_ (Modal / Plain Jeu, MPJ111017, 2001, CD). 東は Balkan 、西は Cabo Verde、南は Arab、北は France や Spain、Italia の 音楽の要素を、vielle や cornemuse のジージービービーいう音色や derbouka の カンカンいう軽快なリズムでスマートに纏め上げ、汎地中海音楽の優れた一例を 示してくれた。 第二位: Inna Zhelannaya, _Inozemets (Farlanders)_ (GreenWave, GRCD-99-1, 1999, CD). Zhelannaya の凛とした歌唱はもちろん、Kalachev の金属的な fletless bass の カッティングを中心とするこの音作りが、Farlanders を単なる Russia の folklore を現代的な解釈で演奏するバンド以上のものにしている。 第三位: Frank London's Klezmer Brass Allstars, _Brotherhood Of Brass_ (Piranha, CD-PIR1683, 2002, CD). 東欧〜近東における Jew、Gypsy、Arab の brass band の歴史的な関係性を感じさせる 説得力だけでなく、それ抜きに充分ノリ良く楽しめる作品だ。特に、Boban Markovic Orkestar が参加して、東欧風のレパートリーを展開していくところが特に良い。 第四位: Nouvelle, _Free Bossa_ (YBrazil?, YB?CD008, 2000, CD). clarinet / guitar / vibes に女性歌手という音の組み合わせは、ソフトで爽やかな 感じで、それだけでも楽しめると思う。しかし、類型的な Brazil の音楽からの ズレ具合といい、third stream 的な要素から、post-rock を通過した後を思わせる 音の組み立て方まで、仕掛けの面白さもあるアルバムだった。 第五位: Spring Heel Jack, _Amassed_ (Thirsty Ear, THI57123.2, 2002, CD). Evan Parker や Han Bennink といった欧州の free improv. 勢を迎え、編集者から 演奏者へ DJ ユニットとしての自らの位置をシフトさせることに Spring Heel Jack は成功していた。また、Kenny Wheeler の良さに改めて気付かされた、そんな アルバムでもあった。 第六位: Collectif Polysons, _Folklore Moderne_ (Quoi De Neuf Docteur, DOC066, 2002, CD). ゲストに迎えた Pierre Charial (orgue de barbarie) と Valentin Clastrier (vielle a roue) のシュポシュポキーキージージーいう音が、テンション高めに なりがちな free improv. 的な演奏をユーモラスにし、主役を奪うような印象を 残してくれた。 第七位: Organic Grooves, _Black Cherry_ (Aum Fidelity, AUM021, 2002, CD). ecstatic と形容されるような William Parker のぶっとい bass の音や Hamid Drake の African percussion の音を、dubwize な house チューンに淡々と再配置した のが見事だった。 第八位: Ceser Lerner - Marcelo Moguilevsky, _Shtil_ (Los Anos Luz, LALD008, 2001, CD). 20世紀初頭に Algentine にもたらされた Jewish の音楽をルーツにしながらも、 音の間合いと充分に抽象化されたフレーズ、そして柔らかい clarinet の音が、 とてもモダンでリラックスする音空間を作り出してくれている。 第九位: Ex Orkest, _Enn Rondje Holland_ (Ex, EX096D, 2001, CD). free jazz / improv な I.C.P. な面子を迎え、punk 的な勢いや鋭さを殺がずに big band 演奏をすることに、The Ex は成功していた。 第十位: Leonid Fedorov / Vladimir Volkov / Slava Kurashov _Zimy Ne Budet (No Winter To Come)_ (Manchester File, CDMAN049, 2000, CD). Russia は St. Petersburg の alt. rock 歌手 Fedorov が、同郷の jazz トリオ VolkovTrio を従えての一枚は、ぐっとササクレ立った歌唱や音の中にも、甘さを 忍ばせたかのようなバラードも聴かせてくれる。今の英米の indie rock が失って しまったものが、ここに残っていたか、と思いたくなるような一枚だった。 番外特選: Matthew Herbert Big Band のライヴ (Liquidroom, 2002/08/18) は、big band の 音の厚さで live electronics が映えないときがある、など、まだまだ未消化も 感じたけれども、単に post-electronica というだけではなく、パフォーマンス性の 復権を感じさせるに充分に可能性を感じさせてくれるライヴだった。"Cafe De Flore" はもはやスタンダード曲だ。 2003/1/1 嶋田 Trout Fishing in Japan 丈裕