Terje Isungset _Iceman Is_ (Jazzland, 064 458-2, 2002, CD) - 1)Blue 2)Frozen 3)Iceman Is 4)Green 5)Spring 6)Water 7)In Glacier 8)Deep 9)Whale Wisdom - All ice instruments: Recorded 2001/2/1-2. Other instruments: Added summer/autumn 2001. - Terje Isungset (ice percussion,breathing), Iro Haarla (ice harp), Arve Henriksen (ice trumpet,iceophone,voice); Lena Willemark (voice), Hilmar Jensson (electronics), Skuli Sverrison (electronics), Palle Mikkelborg (trumpet,voice). Norway の打楽器奏者 Terje Isungset (folk/roots revival バンド Groupa や roots jazz バンド Utla メンバー) による、氷を使った楽器の演奏を収録したCDだ。 氷の楽器の演奏は Ice Hotel という氷で出来たホテルで録音され、それ以外の音は、 後でスタジオで重ねられるという形で制作されている。 明確な旋律やリズムのある曲は演っておらず、氷の立てる音を楽しむという趣向の アルバムだ。繊細な物音からなる演奏で、微音系といわれるような演奏に近いもの があるだろう。 一番耳につくのは percussion の音で、鈍い marimba のような音がカランコロンと 響いている。時々、カッカッシャッシャッシャクッと削るような音も聞える。 木や金属のものに比べ、いかにも脆そうな感じのする音で、つい聴いてしまうような ところがある。氷の trumpet や saxophone は、普通のマウスピースを使ったと 思われるときでも、ちょっと詰まったような音で、むしろ、息の音というか風切り音 が主だ。残念ながら、harp の音が、最も存在感が無いだろうか。氷が立てる物音 だけでも充分楽しめるけど、ライブで観た方がもっと楽しめるのではないか、と 思わせるような音だ。 追加録音で最も耳を引くのは、Lena Willemark (Ale Moeller との Nordan project 〜 Frifot で知られる folk/roots 系の Sweden の女性歌手)。ここでは、むしろ、 囁くような声や、か細い悲鳴のような声で、氷の立てる物音にさらなる幽玄な雰囲気を 加えている。Iceland の Hilmar Jensson と Skuli Suerrison の electronics は、 そんなに派手な音弄りをするわけではなく、電子的な効果音を添えるという感じだ。 Palle Mikkelborg の trumpet も、フリーキーなミュート音を添えている程度。 あくまで氷の響きが主役だ。 半端に旋律やリズムが無いだけに、氷が立てる微妙な物音が堪能できる佳作だろう。 最近の Jazzland のリリースは、新鮮味がだいぶ失せてきているのは否めない。 それでもそれなりに楽しめた作品をもう一枚紹介。 On/off _On/off_ (Jazzland / Gruener Series, 067 251-2, 2003, CD) - 1)Solar Ice 2)Tablatic 3)Bushfukka 4)The Bad 5)Gambuh 6)The Good 7)Globotomy 8)Lunar Eyes - Produced by Patrick Shaw-Iversen and Raymond C. Pellicer except 3) Produced by Paal "Strangefruit" Nyhus. - Patrick Shaw-Iversen (flutes,programming,samples), Raymond C. Pellicer (programming,fx,beats), Anders Engen (drums,percussion), Audun Erlien (bass,fx). On/off は、Curling Legs レーベルからリリース flute 奏者 Shaw-Iversen と、 最近の Nils Petter Molvear のバンド (_NP3_ (2003) とか) にも参加している Pellicer (a.k.a. DJ Darknorse) によるユニット。 組み合わせ的には、ethno ambient 的ではある。実際、Shaw-Iversen の 鈍い音で 不明瞭な旋律を奏でるという感じは、"ethno" 的である。しかし、このCDで耳を 捉えるのは、Chain Reaction レーベルを思わせる dubwize で minimal なビートだ。 その組合せが、意外と気持ち良い。 そういうビート自体は新しいものではない。しかし、1990年代に jazz / improv. が electronica 〜 breakbeats 的な要素を取り入れはじめたとき、以前から jazz の ソロをサンプリングすることも多かった hip hop 〜 downtempo breakbeats 的な ループか、drum'n'bass の高速複雑な打ち込みパターンか、従来の live electronics と親和性の高い電子的な音弄りか、という感じで、minimal techno のような音は そこから遠いところにあった。Istanbul の sax 奏者 Ilhan Ersahin の Nuble / Numoon での作品でも、Chain Reaction 的な音が聴かれるし、ついにここまで 浸透してきたのだなぁ、と、感慨深い。 Jazzland レーベルのリリースではないし、一年近く前の作品となるが、Norway の ミュージシャンの音源で面白い音なので、一緒に紹介。 Nils Henrik Asheim _16 Pieces For Organ_ (Sofa, 507, 2002, CD) - Recorded 2001/12/16,17 - Nils Henrik Asheim (organ of Oslo Cathedral: Ryde & Berg 1998) 教会の pipe organ のソロ作品。Asheim は現代音楽の文脈のミュージシャンで、 ここに収められている曲・演奏もその手のもの。全て自作のようだが、即興的な ものかは不明だ。音色的にも、improv. や現代音楽や jazz / improv. 界隈で 活躍する France の Pierre Charial の orgue de barbarie (手回しオルガン) を 連想させられるところはあるが。そんなに軽い音ではなく、(教会録音とかで よくあることだが) もっと空間全体が響いている感じで、それが面白い。 音だけでも充分に楽しめたが、CDで聴くよりもライヴの方が面白そう、と感じる。 そういうところは、Terje Isungset, _Iceman Is_ とも共通するだろうか。 2003/05/18 嶋田 Trout Fishing in Japan 丈裕