Marc Almond _Heart On Snow_ (XIII Bis, 570872, 2003, CD) - 1)So Long The Path (So Wide The Field) 2)Strange Feeling (with Sergey Penkin) 3)Gosudaryunia (with Aquarium) 4)Always And Everywhere (I Will Follow You) 5)Oh, My Soul (with Alla Bayanova) 6)Two Guitars (with Loyko) 7)Heart On Snow (with "Russia" orchestra) 8)Nuit De Noel (with Boris Grebenshikov) 9)Romance 10)The Storks 11)Luna (The Moon) (with Alla Bayanova) 12)White Flowers Of Acacia 13)The Glance Of Your Dark Eyes (with Mikhail Aptekman) 14)If Your Affectionate Smile Has Gone (with Ilya Lagetenko) 15)Sleeping Beauty 16)Just One Chance (with Luydmilla Zukena) 17)Gone But Not Forgotten (with choir of The Higher Naval Engineering Academy, St. Petersburg 2003) 18)So Wide The Field 19)The Glance Of Your Dark Eyes (Version 2) with Mikhail Aptekman) - Produced by Andrei Samsonov. Arrenged by Andrei Samsonov except: 1,11,14,17,18) by Andrei Samsonov and Oleg Belov; 3) by Andrei Samsonov and Aquarium; 6) by Loyko; 5) by Alla Bayanova; 7,16) by Anatolij Sobolev. 1980年前後に British new wave から出て来た歌手 Marc Almond (ex-Soft Cell) がロシア (Russia) のサンクトペテルブルグ (St. Petersburg) とモスクワ (Moscow) で制作したアルバムがリリースされている。 オープニングからして、「ポーリュシカ・ポーレ」 ("Polyushka Pole") として 誰でも一度は聴いたことがあるだろうロシア革命後の内戦で歌われた赤軍の軍歌を、 サンクトペテルブルグの海軍工科大学合唱団の抑え気味で低く響くようなコーラスを バックに歌い上げるという、Almond の甘い声質とのコントラストも絶妙で、 掴みからして完璧だ。 といっても、革命歌集ではなく、元々、伝説的なロマンス歌手 Alla Bayanova の 歌をピアノのみの伴奏で歌うという企画が次第に広がっていったようだ。Bayanova とのデュエット2曲として、実現している。シャンソンにも繋がるような歌で、 Almond もこういうのが好きだなぁ、と納得。ちなみに、「ロマンス (romance)」 は、19世紀半ばころから歌われてきているロシアの歌のジャンル。Bayanova は、 ロシア革命時に現役の歌手で、革命で家族に連れられてルーマニア (Romania) に 亡命したが、その後、チャウチェスク (Chaushesku) 政権にロシア語の歌を歌った ため処罰され、ゴルバチョフ (M. Gorbachev) によって再びロシアの市民権が 与えられた、という、経歴の持ち主だという。 1980年代から活動する伝説的なロシアのロックバンド Aquarium と、その歌手 Boris Grebenshikov との共演、というのが、僕が最も興味があったのだが。 Aquarium の曲を歌った "Gosudaryunia" が比較的普通の alt rock 風になって いるだけに、シャガレ声の Grebenshikov とデュエットする "Nuit De Noel" (Alexander Vertinsky による20世紀前半の歌) の方がハマっているだろうか。 19世紀のジプシー・ロマンス歌 "Two Guitar" も、manouche なものとも共通する ようなシンプルな gypsy guitar の伴奏で、かなり気にいっている。ちなみに、 Loyko は avant-garde なシーンとも繋がりもある Russia のジプシーバンドだ。 もちろん、取り上げているのは、体制に抑圧された側だけではない。フルシチョフ、 ブレジネフといったリーダーたちに好かれた女性歌手 Lyudmila Zykina とも 共演している。このからみの "Heart On Snow" と "Just One Chance" は、 バラライカの大仰なオーケストラがついていて、それを背景に Almond が歌い 上げるのもはまっている。 「Lyudmila Zykina と Ilya Lagutenko、Sergei Penkin と Boris Brebenshikov が 一つのプロジェクトで一緒に演るなんて想像しがたいことだ」とライナーノーツに 書いているので、単なる無節操というより、かなり意識的にやっているようだ。 ロマンスの歌だけ取り上げていたら Almond もこういうのが好きだなぁという以上の 印象を受けなかったかもしれないし、Lyudmila Zykina のような歌手を取り上げ なかったら、いかにもアンダーグランド人脈でそれらしい曲をやったものという 程度になっていたかもしれない。幅を拡げて、逆に Almond の甘く歌い上げる歌唱 が表に出てきたようにも思う。通して聴いていると、気持ち良いというより、 かなり奇妙な印象を受けるが、それも興味深く感じるアルバムだ。 ちなみに、制作の Andrei Samsonov は Russia の electronica のミュージシャンで、 Paul Kendall が A&R している Mute 傘下のレーベル Paralles Series から Andrei Samsonov, _Void In_ (Mute / Paralles Series, CDPSST3, 1997, CD) というリリースがある。大半の曲のアレンジも手がけているのだが、控えめだが ツボを抑えた電子的な音使いが良いように思う。"Always And Everywhere" とか聴いていると、Almond の歌唱って、electro なバックが合うのだなぁ、と つくづく思う。 sources: Marc Almond, http://www.marcalmond.co.uk/ XIII Bis, http://www.xiiibis.com/ Tom Bishop, _Torch singer Almond light up Russia_, BBC News, 2003/11/5, http://news.bbc.co.uk/1/hi/entertainment/music/3240081.stm 2003/12/23 (modified: 2003/01/06) 嶋田 Trout Fishing in Japan 丈裕, http://www.kt.rim.or.jp/~tfj/