Wire Club Quattro, Tokyo (渋谷) 2004/02/29, 19:00-22:00 - Big Picture: Phew (vocals,sampler), 山本 久人 (guitar), 西村 雄二 (bass), 茶屋 雅之 (drums); Melt-Banana; Wire: Colin Newman (vocals,guitar), Bruce Gilbert (guitar), Graham Lewis (bass), Robert Grey (drums). Wire _Send_ (pinkflag, PF6, 2003, CD) - 1)In The Art Of Stopping 2)Mr Marx's Table 3)Being Watched 4)Comet 5)The Agfers Of Kodack 6)Nice Streets Above 7)Spent 8)Read And Burn 9)You Can't Leave Now 10)Half Eaten 11)99.9 - Written and Performed by Wire. Mixed by Colin Newman. - Colin Newman (vocals,guitar), Bruce Gilbert (guitar), Graham Lewis (bass), Robert Grey (drums). Wir, _The First Letter_ (Mute, STUMM87, 1991, CD) 以来12年ぶりにリリース されたアルバム Wire, _Send_ (pinkflag, PF6, 2003, CD) は、ここ最近10年の ソロ活動での electronica に近い音作りが嘘のような rock な音だった。 1970年代末の EMI / Harvest 時代に残した音源のアウトテイク集と言われても、 信じてしまいそうな。 2000年頃からのリリースをフォローしていて、ディストーションがかったギターと ベースで突っ走る抑制が効いたというか無駄の無い punk から抜け始めた頃の 初期 Joy Division や Wire を思わせる音は好きだった。しかし、どうして今、 という気もしていたのも確かだ。しかし、その後、アルバム _Send_ がサンプルや ループで作られていたことを知った。rock の美学を techno の技法で構築する というコンセプトだったのだ。「演奏しているバンドはいない」と Colin Newman はインタビューで言っていた。 そんなこともあって、_Send_ に合わせてのツアーのこのライブでは演奏をしない のではないか、ステージの上にはラップトップに向かった4人がいるのに punk な rock'n'roll な音がしている、とか、そういうことをやるのではないか、と予想 したところもあった。 しかし、実際は彼等は演奏した。元々はサンプルやループで構築した _Send_ の曲を、 今度は生演奏でやってみせたのだ。それも、前座の Big Picture や Melt-Banana (Wire の演奏前はこれで元は取れたと思ったくらい、二者も決して悪く無かった) も霞むくらい強烈な、こんな rock のライヴはめったに観れないと思うほどの ドライブ感のあるライブを演ってくれた。ディストーションがかったギターや ベースのドライブ感、跳びはね歌う Newman、Grey の叩き出すミニマルなビート、 曲の切り方やブレイクのタイミングも完璧だった。アンコールから後は、 _Pink Flag_ (EMI / Harvest, 1977) からの曲 (もちろん、"12XU" も) をやった のだが、それも違和感無く繋がっていた。 パロディの対象として「rock の美学」と戯れるのではなく、それに対して全力で ぶつかっていくようないさぎよさを感じた。いや、最高の rock を演奏することに よって、「rock の美学」と「techno の技法」にまつわる矛盾を体現しようとして いるかのような、そんなライブだった。Colin Newman の言う "Car Clash Aesthetic" を見せ付けられたような気がした。 政治は、パンクたちが舞台の外で生き抜いていくものであると同時に、 自己の生活の限界と矛盾があらわになり、張りつめ、ちぎれてしまうまで舞台で 劇的に表現されるべきものなのだった。それがこのバンドの命名のもとである 衝突[クラッシュ]だった。 -- グリール・マーカス (1978) 今、Wire がやろうとしているのは、rock と techno を巡る美学的「政治」の文脈 での、この「衝突」の体現なのかもしれない。 ただ、ライヴでの難点を一つ挙げるとすれば、Wire の4人の風貌が「rock の美学」から 外れた、むしろインテリオヤジっぽい風貌になってしまっていたことかもしれない。 sources: Wire, http://www.pinkflag.com/ Wireviews, http://www.wireviews.com/ Dan Grunebaum on Wire, _Down to the Wire_ in _Metropolis_, Tokyo, http://metropolis.japantoday.com/tokyo/518/music.asp グリール・マーカス「クラッシュの戦い」in『ロックの「新しい波」』 (晶文社, 1984) 2004/03/01 嶋田 Trout Fishing in Japan 丈裕, http://www.kt.rim.or.jp/~tfj/talk/