数年前のリリースだが、興味深い作品なので紹介。

Vanja Lazarova
_Ritmistica_
(Third Ear, 2000/02, 2000, CD)
- 1)Kirajdzice, Jabandzice (Vlatko Stefanovski)
2)Ah, Minav Gora (Zlatko Origjanski)
3)Tamu Le Dolu Voda Mi Dotece (Miroslav Tadic with Fischer P.)
4)Stojne Bre Mome Kocansko (Kiril) 5)Slaga Se Sl'nce Da Zajde (Kismet),
6)Katerino, Krotko Jagne (Risto Vrtev)
7)Proseta Se Jovka Kumanovka (Vanja Lazarova)
8)Mnogu Mi Go Falai Babo (Vanja Lazarova)
9)Mi Tovaril Kales Donco (Zlatko Origjanski)

Lazarova はマケドニア (Macedonia) の伝統的な歌を50年以上歌い続けてきた
ベテラン女性歌手だ。そんな彼女が、地元マケドニア界隈の jazz や rock、
techno/breakbeats のミュージシャンたちをバックに作った作品がこのアルバムだ。

jazz の文脈からは Vlatko Stefanovki (guitar; ex-Leb I Sol) と
Miroslav Tadic (guitar; セルビア (Serbia) 出身) が参加している。Stefanovki
の "Kirajdzice, Jabandzice" は、淡々とした軽めのリズムボックスを背景に、
jazz rock バンド Leb I Sol 時代を思わせる少し歪んだ electric guitar の
ソロが、軽く震えるような Lazarova と絡む所がカッコいい。一方、Tadic の
"Tamu Le Dolu Mi Dotece" は、アコースティックな guitar をかきならしての
flamenco も連想させられる伴奏で、仕上がりは対称的だ。ちなみに、この2人は
Vlatko Stefanovski / Miroslav Tadic, _Krushevo_ (M.A Recordings, M044A,
1998, CD) と、ライブ盤 _Live In Belgrade_ (Third Ear, 2000/01, 2000, CD)
という繊細で美しい acoustic guitar の duo アルバムを2枚残している。

Zlatko Origjanski, Kirik, Kismat, Risto Vrtev が手掛けた曲は goth がかった
マイナーな感じの downtempo な breakbeats に震えるような高音の Lazarova の
歌声が乗る。Dead Can Dance 風だったり Portishead 風だったりするのだが、
そんな中で Kiril, "Stojne Bre Mome Kocansko" は明るめのラウンジーな感じが
良いように思う。2曲、伴奏無しで Lazarova の詠唱を聴かせる曲があるのだが、
弱干残響深めな音作りで、前後の breakbeats な音と自然に繋がっているように思う。

Zlatko Origjanski のバンド Anastasia、Kiril、Kismet、Risto Vrtev のいた
バンド Arhangel といったバンドは、網羅的に聴いているわけではないが、
"Byzantin goth" とでもいうアンダーグラウンドな goth rock 〜 techno /
breakbeats に folk 的な音楽の要素を取り入れた音楽をやっている。Anastasia の
3人のメンバーの1人 Goran Trajkoski は _Central European Review_ 誌の
インタビューの中で、影響を受けたバンドとして Joy Division、Killing Joke、
Future Sound Of London、Biosphere を挙げているし、Kismet は
_North Atlantic Balkan Express_ (Tone Casualties, TCCD9947, 1999, CD)
というアルバムで、Joy Division, "Love Will Tear Us Apart" をカバーしている
(kaval や zurla といった伝統的な楽器をフィーチャーし、その音色を生かした
とても良いカバーだ)。

ちなみに、Vanja Lazarova, _Ritmistica_ で見られるような folk と jazz /
improv.、techno 〜 breakbeats の併置混淆は、例えば隣国ギリシャ (Greece) の
Libra Music レーベル界隈の動きとも連動しており、実際、フォーマルな関係も
もある。例えば、Balkan Horses Band などを通して Vlatko Stefanoski は
周辺諸国の jazz / improv. のミュージシャンとの共演も多いし、Anastasia は
Libra Music からもリリースしている。周辺の国々のシーンとの連続性という点
でも興味深いリリースだ。

sources:
Third Ear, http://www.thirdear.com.mk/
Vanja Lazarova, http://www.thirdear.com.mk/th_a_vl.htm
Vlatko Stefanovski, http://www.vlatkostefanovski.com.mk/
Miroslav Tadic, http://music.calarts.edu/~snakes/miroslav/miroslav.html
Macedonian Underground Music Archive, http://www.unet.com.mk/underground/
Arhangel, http://www.unet.com.mk/underground/arhangel/Main.htm
Anastasia, http://www.anastasia.com.mk/
Kiril, http://www.unet.com.mk/kiril/
Kismet, http://www.unet.com.mk/

2004/11/30
嶋田 Trout Fishing in Japan 丈裕, http://www.kt.rim.or.jp/~tfj/talk/