Matt Darriau Paradox Trio feat. Theodosii Spassov _Gambit_ (ENJA, ENJ9474-2, 2005, CD) - 1)Theo's Gambit 2)Maichinko 3)Paidushko 4)Point 5)Faux 7 6)Free Gaida 7)Cocek I Gong 8)Tudorka - 1-4) Recorded in Sofia, Bulgaria, 2002/9/3,4. 5-7) Recorded in Hamilton, Ontario, 2001/6/21. 8) Recorded live at the Akut Festival, Mainz, Germany, 2002/11/23. - Paradox Trio: Matt Darriau (alto saxophone,clarinet,faux clarinet,gaida), Brad Shepik (electric guitar), Rufus Cappadocia (5-string cello), Seido Salifoski (dumbek,percussion); Theodosii Spassov (kavak,vocals); Matt Kilmer (percussion) on 8. Paradox Trio は New York down town シーンで活躍する The Klezmatics の saxophone/clarinet 奏者 Matt Darriau のバルカン jazz プロジェクトだ (名称は "Trio" だが編成は 4tet)。今まで、以下の3枚のリリースがある。 _Paradox Trio_ (Knitting Factory Works, KFW171, 1996, CD) _Flying At A Slant_ (Knitting Factory Works, KFW206, 1987, CD) _Source_ (Knitting Factory Works, KFW237, 1999) 6年ぶりにリリースされたこの作品は、ブルガリア (Bulgaria) の kaval (伝統的な air-reed 木管楽器) 奏者 Spassov をフィーチャーしての2001〜2年の 録音を集めたもの。サブタイトルは "Brooklyn To Bulgaria" だ。 clarinet の吹き回しなどに東欧 Jewish の音楽 klezmer の雰囲気を残しつつも、 今までよりも控えめだろうか。kaval や gaida (ブルガリアの bagpipe) 音色も、 ジプシー (Rom, Gypsy) 物と少々違うバルカン風 jazz が楽しめる作品だ。 最も気にいっているのは gaida と kaval のソロを大きくフィーチャーした "Paidushko" (1st 所収の "Pump Up The Goat" はこのバリエーション) だ。 gaida や kaval の響きとそれを支える dumbek (darbuka) のリズムが気持ち良い。 サルディーニャ (Sardinia) の伝承ダンス曲 ballo とも似た感じもあり、 バルカン的というより東地中海的な印象も受ける。 CD全体として Salifoski の dumbek の刻むリズムがシャーブに録られていている のも気にいっている理由の一つだ。"Theo's Gambit" のオープニングでの dumbek と Spassov の kaval の掛け合いなどかっよいと思う。drum set と Cappadocia の 5-string cello を使った bass 的な演奏で普通のリズム隊になってしまうときも あるのだが、dumbek 一本で軽快なリズムを刻んでいてくれたらとすら思う。 残念なのは、Shepik が electric saz を弾いておらず、electric guitar も Bill Frisell を思わせる浮遊感ある澄んだフレーズが多くおとなしめなこと。 それもあってか "Point" や "Faux 7" の大人しめの展開に物足りなさを感じる 時があるのも確かだ。しかし、そんな物足りなさを吹きとばしてくれるのが、 収録曲の中で最も長い12分余りの曲 "Cocek I Gong" だ。ジプシーの変拍子ダンス曲 cocek がベースとなっていると思われる曲だが、鋭角なカッテングでの切込や長い ソロなど、Shepik が弾きまくっていている。 New York down town シーンとバルカン〜地中海のシーンで活躍するミュージシャン との共演といえば、この作品の以前にも、Paradox Trio の Cappadocia が ギリシャ (Greece) の Ross Daly の _Synavgia_ (Libra Music, LM019-2, 1999, CD) に参加していたというものがある。Pachora の Chris Speed がイタリアの Simone Guiducci Gramelot Ensemble へ参加したりもしている。実際の共演が 進んでいるように思うだけに、今後の展開が楽しみだ。 sources: ENJA, http://www.enjarecords.com/ Theodosii Spassov, http://www.theodosiispassov.com/ 2005/06/12 嶋田 丈裕, http://www.kt.rim.or.jp/~tfj/talk/index.html