Matthew Robertson _Factory Records: The Complete Graphic Album_ (FAC461; Thames & Hudson, ISBN0-500-51300-7, 2006, hardcover) 1970年代末の Post-Punk 期にイギリス北部のマンチェスター (Manchester, UK) で 設立された独立系レーベル Factory のアートワーク本だ。 29.0×25.0cm と大判で224ページ、400の図版は全てカラーだ。テキストは控えめに、 FAC1 (1978) から FAC372 (1992) まで、レコードジャケットやノベルティなどの デザインで追う Factory の歴史だ。お薦め。 Factory というと看板グループ Joy Division / New Order もあり、彼らのレコードを 手掛けた Peter Saville デザインという印象が強い。しかし、実際に手掛けていたのは 全体の1/3程度、ということにこの本で気付いた。 Without Mercy (1984) 以降の The Durutti Column を手掛けていた 8vo (Mark Holt and Simon Johnston) のミニマルさ、Happy Mondays を手掛けていた Central Station Design の表現主義的な感じ、ソフトな Mark Farrow や、すっきりした Johnson Panas (Trevor Johnson) も Factory のヴィジュアル・イメージを支えていたのだなぁ、と実感した。 1990年前後になるとインハウスのデザインチームがデザインを手掛けるようになっていた というのも興味深い。 ちなみに、Peter Saville のデザインについては、Emily King (ed.), _Designed by Peter Saville_ (Frieze, ISBN0-9527414-2-3, 2003) というアートワーク本が出ている。 併せて、Factory 関連の DVD、CD を軽く紹介。 _Shadowplayers: Factory Records & Manchester Post-Punk 1978-81_ (LTM, LTMDVD2391, 2006, DVD(NTSC/0)) ドキュメンタリ映画というか2時間15分の長さのインタビュー集で、演奏やビデオクリップの 映像はほとんど全く使われていない。監督は Factory / Les Disques Du Crepuscule 関連音源を中心に再発を手掛けるレーベル LTM を主宰する James Nice。 インタビューされているのは当時の当事者たち。インタビューを受けた人ごとにまとめるの ではなく、Post-Punk 期 (1978-1981) の19のトピックごとに発言をまとめるように編集 されている (インタビューを受けた人たちと19のトピックについては、レーベル公式サイトに 載っている)。 当事者の証言という点は貴重だし、設立直後の3年にテーマを絞っているのも良い。しかし、 2時間15分は長過ぎだ。そもそも、このような内容はドキュメンタリ映像作品/DVDよりも ノンフィクション/ドキュメンタリー本の方が適切だろう。日本語でもキツいと思うが、これで さらに字幕無し英語なので、熱心なファン以外には薦められない。 Various Artists _North By North West: Liverpool & Manchester From Punk To Post-Punk 1976-1984_ (limited ed.; Korova / Warner (UK), KODE101L, 2006, 3CD box set) Post-Punk 期の Factory 界隈を含むマンチェスターと、リバプール (Liverpool) 2都市の Post-Punk シーンのアンソロジーだ。編者は当時 NME のライターにして ZTT レーベル 仕掛け人の一人 Paul Morley。通常盤は2枚組ですが、初回限定は3枚組となっている。 24ページのブックレットには、Morley による当時の2つの都市のシーンについてのテキストが 載っている。Simon Reynolds, _Rip It Up And Start Again: Post-Punk 1978-1984_ (Faber & Faber, ISBN0-571-21569-6, 2005, paperback) は、リバプールのシーンの 記述が若干薄めだったので、いい感じの補完になるだろう。 この手のアンソロジーはどうしてもそうなりがちだが、音楽的に興味深い・楽しめるというよりも、 当時の時代を知る資料的な価値が高いと言った方が良い内容だろう。 Various Artists _The Hacienda Classics_ (Virgin / EMI (UK), VTDCD790, 2006, 3CD) Post-Punk 期ではなくむしろ Rave 興隆期のものだが、Factory レーベルの拠点でもあった マンチェスターのクラブでかかっていた音楽のアンソロジーだ。選曲は Joy Division / New Order の Peter Hook とマンチェスターのDJ Phil Beckett。 全47曲中40曲が1986-1992の間にリリースされたもので、ダンスフロア指向の強い acid house というか techno/house を中心に編集されている。(収録曲リスト等については公式サイトに 載っている)。当時の UK の underground/alternative に近いところで、どのような club music が受容されていたか、垣間見ることができるかもしれない。_Rough Trade Shops: Electronic 01_ (Mute, CDSTUMM203, 2002, 2CD) には1985-1992の曲が一曲も収録されて いなかったが、それを補完するのにうってつけのアンソロジーと言えるだろう。 sources: _Factory Records_ @ Thames & Hudson, http://www.thamesandhudson.com/books/Factory_Records/9780500513002.mxs/20/0/ _Shadowplayers_ @ LTM, http://www.ltmpub.freeserve.co.uk/shadowplayersfilm.html _The Hacienda Classics_, http://www.thehaciendamustbebuilt.co.uk/ 2006/10/11 (2006/09/22) 嶋田 丈裕, http://www.kt.rim.or.jp/~tfj/talk/index.html