ICP Orchestra SuperDeluxe 2006/11/01, 19:30-22:15 - Misha Mengelberg (piano), Ab Baars (clarinet, tenor saxophone), Tobias Delius (clarinet, tenor saxophone), Michael Moore (clarinet, alto saxophone), Wolter Wierbos (trombone), Thomas Heberer (trumpet), Mary Oliver (violin, viola), Tristan Honsinger (cello), Ernst Glerum (bass), Han Bennink (drums). ICP (Instant Composers Pool) は、1960年代末に Misha Mengelber、Han Bennink、 Willem Breuker によって作られたオランダの free jazz/improv のミュージシャン の集団だ。ICP Orchestra は ICP のミュージシャンたちによる post-free な jazz/improv の big band で、1980年代初頭から活動している。1982年に近藤 等則 の尽力で来日して以来、24年ぶりの来日だ (このときのライヴ録音は _Japan Japon_ (IMA, 1 / ICP, 024 / DIW, DIW-454, 1982/2002, CD) で聴くことができる)。 さすがに24年前のライヴは観ていないが、_Japan Japon_ も含めて ICP 関連の レコード/CDはいろいろ聴いてきている。Clusone 3 の一連の録音に聴かれるような、 既存のイディオムを排した free improv ではなく、modern jazz をユーモアを 持って脱構築するような演奏は、とても気に入っている。 そんな ICP のミュージシャンたちが一同に会したライヴは、個々の音のキレは もちろん、演奏のメリハリ、シリアスとユーモラスに振幅がとても良く、とても 楽しめた。それに、実際にミュージシャンたちが視線をかわしたり、指揮的な 指示を出し合ったり、笑顔やユーモラスなしぐさを交えたりするのを観て、 今までレコード/CDで聴いていた音はこういう感じで発せられていたのかと、 確認できたのもとても面白かった。確かに、Misha Mengelberg, _Afijn_ (Data, Images 03 / ICP, 044, 2006, DVD) でパフォーマンスの様子を映像で 観ることはできるが、やはり、映像ではこのような場の雰囲気は伝わりづらい。 少人数の部分編成での比較的シリアスな improv/jazz と、orchestra による ユーモラスなスタンダード脱構築的な演奏が入り交じった構成だった。orchestra での演奏は、ある程度作曲/指揮に基づいて進行していた。Mengelberg 以外の ミュージシャンが指揮を取る場合もあるし、全体の指揮とは別に、管5人組の間で 音だしの指示を出し合っていたりした。 オープニングは、Michael Moore の clarinet と Ernst Glerum の bass のデュオ。 Clusone 3 や最近の Jewels And Binoculars といった Moore のプロジェクトの 録音で聴かれるような、端正な音色の演奏が楽しめた。これだけでも、このライヴ へ行った甲斐があったと思ったし、1990年代に Clusone 3 で来日して欲しかったと つくづく思っった。 もちろん、他のミュージシャンの演奏も良かった。Han Bennink は snare drums 一つで多彩な音色とリズムを叩き出していたし、その微妙に素でとぼけた感じの ある仕種が Jacques Tati (M. Hulot) を思わせるところがあったりするのも 可笑しかった。 キャラ立ちの良さといえば Wolter Wierbos で、Ray Anderson とも共通する trombone の響きも良いのだが、そのパフォーマンスが面白かった。自分が指揮を するときにしても、Bennink に半ば弄られていたし、Bennink 指揮で皆が倒れて いくときも、真っ先に派手に倒れたりと。 今まであまり意識していなかったが、Ab Baars の良さにも気付かされた。 黒ブチ眼鏡で真面目というかメンバー中最も紳士な感じなのだが、飄飄とクールに clarinet を吹いたり、フリーに熱く saxophone を吹きまくったり。 Tristan Honsinger も、メチャクチャ弾いている最中でも、ふっと悪戯っぽい 笑顔で様子を伺い展開を変えたり、茶目っ気のある演奏を楽しませてくれた。 残念だったのは、自分の席の位置からちょうど Misha Mengelberg が最も遠く、 それも、Mary Oliver の影の位置になってしまったこと。ちょうど管5本の目の前の 席でその音が大きく、piano の音が遠かった。アンコールでの Bennink との アカペラ、エンディングのいきなり演奏打切指揮などで、ユーモラスなおじいさん らしさは堪能できたが、もう少し演奏を楽しみたかった。 しかし、核となる Misha Mengelberg も Han Bennink もかなりの歳だが、 free といっても力ずくのドシャメシャ演奏の類ではなく、ユーモラスに脱構築 するような演奏ということもあって、衰えをほとんど感じさせなかったし、 昔の録音に比べても orchestra として音のテンションも落ちていなかった ように思う。 Fluxus あがりのハップニングやパフォーマンスもあるかと期待していたが、 一度、Bennink 以外の全員が順に倒れてみせた程度。_Afijn_ に収録された ICP Orchestra & Anthony Braxton, _Met Welbeleefde Groet Van De Kameel_ (2005) のライヴ映像では、演奏中に舞台上で木工が始まり、木の椅子からラクダ を象った彫刻を作るようなパフォーマンスが収録されている。そこまで大掛かり でなくても、その手のパフォーマンスが入る時も観たかった。 sources: ICP Orchestra, http://www.icporchestra.com/ SuperDeluxe, http://www.super-deluxe.com/ 2006/11/7 嶋田 丈裕, http://www.kt.rim.or.jp/~tfj/talk/index.html